【AWS Summit Japan 2026 講演レポート】エージェントファクトリーで加速する〈みずほ〉のAIプロセス変革
2026年8月12日
- FGみずほフィナンシャルグループ
OVERVIEW
2026年6月26日、Amazon Web Services(AWS)に関する知見や活用事例が集結する日本最大級のイベント「AWS Summit Japan 2026」が開催され、みずほフィナンシャルグループ執行役員 デジタル戦略部長 Chief AI Officer 藤井 達人が登壇しました。
「エージェントファクトリーで加速する〈みずほ〉のAIプロセス変革」をテーマに、AIエージェントを安定して生み出す基盤「エージェントファクトリー」を通じて、金融機関ならではの厳しいガバナンスと開発スピードをいかに両立させているのかについて語りました。
本記事では、その変革の裏側にある具体的な設計思想やアプリケーション事例、そしてAIとともにめざす未来の姿まで、講演で語られたその一端をお届けします。
INDEX
E2Eの業務プロセス変革へ。3年間で1,000億円を投じるAI推進体制
まずAI時代における、E2E(エンド・ツー・エンド)での業務プロセス変革の必要性について、藤井は次のように語ります。

藤井 達人(みずほフィナンシャルグループ)
藤井:金融機関におけるAI活用には、極めて厳格なガバナンスが求められます。しかしその一方で、AIの進化に対応するためには、スピード感のある開発、すなわち「アジリティ」も欠かせません。私たちは、この二つを両立させながら、一部の定型業務を効率化するだけにとどまらず、すべての業務プロセスをE2Eで根本から変革していく必要があると考えています。
鍵となるのは、これまで「人間中心」で設計されてきた業務を、AIの処理能力を前提とした「AIネイティブ」な形へと転換することです。従来のプロセスは、専門ごとの分業で手続きが順番に進む「直列型」になりがちでした。例えば融資審査では、申込受付から情報確認、財務分析、最終決裁へと工程ごとの待ち時間が積み重なり、完了までに6〜12日ほどかかっていました。
これをAIネイティブな設計に置き換えると、24時間365日動くAIが、申込入力や信用照会、データや市場動向の分析、追加情報の収集までを一斉に「並列」で処理します。従来6〜12日かかっていた審査は「数分から数時間」で完了し、お客さまの待ち時間を大幅に短縮できます。もちろん、人の役割が消えるわけではありません。当面は人がAIと協働しながら重要な意思決定や最終判断を担い(Human in the Loop)、最終的には一連の業務をAIが自律的に実行し、人間は全体の設計や管理へと役割をシフトしていく。そうした段階的なステップを想定しています。

AIネイティブ組織へのステップ仮説イメージ
この転換を全社で進めるため、〈みずほ〉は2026年から3年間で1,000億円規模の投資を計画しています。この変革は、本部の戦略と現場の自走力、その両輪がそろって初めて進みます。
本部側では、〈みずほ〉全体のAI戦略を立てるデジタル戦略部が、現場側ではDX LeadやDXスタッフ(合わせて100人規模)と約1,900名のAIコーチが、一つのチームとなって取り組んでいます。
実際の開発をけん引するのが、エンジニア約60名が在籍する「内製開発ラボ」です。さらに、15のCUG(社内のビジネスユニット)にも推進人員を配置し、現場の業務プロセスをE2Eで変革する体制を整えています。

〈みずほ〉のAI推進体制イメージ
そのうえで〈みずほ〉では、AIエージェントを全体統括(オーケストレーター)、業務ドメイン統括、業務エキスパート、サブタスクモジュールという「四つの階層」でモデル化し、全社業務の棚卸しを進めています。現時点で15領域・100業務カテゴリーにわたり1,000以上のAIエージェント候補を識別しており、将来的には数千規模へ拡大する見込みです。

AIエージェント階層モデルの解説図
ガバナンスとアジリティを両立する、〈みずほ〉が考える「ハーネス」実装
藤井:この変革を技術面で支えるのが、AWS上に構築した全社共通のAIエージェント基盤「みずほWiz Base」です。
この一元化された土台の上で、社員向けチャット「みずほWiz Chat」や社内検索「みずほWiz Search」等のアプリケーション、AIモデル、データ基盤が連携しています。ベースとなるモデルはClaudeを中心に用途に応じて使い分けるほか、〈みずほ〉固有のデータや金融知識を学習させた独自のモデル「みずほLLM」も組み込みました。
アプリケーションやモデルを個別最適でばらばらに増やすのではなく、全社共通の基盤上で展開する。この思想が、AIエージェントの量産を支える土台となっています。
しかし、想定される数千規模のエージェントは大半が特定の業務に密着した「少量多品種」でありながら、金融機関として一律の厳しいガバナンスやセキュリティを担保しなければなりません。この量産の難しさを解決するのが、高速かつ安定的な量産体制「エージェントファクトリー」と、その中核となる共通制御層「ハーネス」です。
「ハーネス」は、ガードレール(安全性・個人情報保護)や長期記憶、業務知識(skills)、道具(tools)、観測・評価の仕組みを共通部品化し、AIエージェントが長時間、安定して想定どおりのパフォーマンスを発揮し続けるための「軸」となるものです。この軸なしにエージェントを増やせば、運用のガバナンスはいずれ立ち行かなくなります。そこでこの「エージェントファクトリー」には、スピードと安全性を両立させる二つの特徴を持たせています。

〈みずほ〉での「ハーネス」設計要素
①アジリティ(開発速度の向上)
標準的なシステム構造をIaC化(Infrastructure as Code:インフラのコード化)し、AWS CDKやAmazon Bedrock AgentCoreでテンプレートとして提供します。これにより、開発環境は「10分でセルフサービスデプロイ」できるようになりました。現場固有の業務知識は、後から「skills」としてアドオンできます。
②エンタープライズガバナンス
Amazon Bedrock Guardrailsに、〈みずほ〉独自のAIリスク評価をあらかじめ組み込んでテンプレート化しました。これを共通基盤(「みずほWiz Base」)の強固なネットワーク統制と掛け合わせることで、金融機関に求められる水準の安全性を最初からシステムに内包させています。さらに内製開発環境では、KiroやClaude Code on Amazon Bedrockを活用して実装を加速させています。
ガバナンスを、開発を止める「ブレーキ」ではなく、量産を支える「前提条件」としてあらかじめシステム設計に組み込む。これによって、ガバナンスとアジリティの両立を実現しています。
法人営業とデスクワークを支援する二つのアプリケーション事例
藤井:このように「ハーネス」という共通の軸を整えたことで、量産基盤である「エージェントファクトリー」の上では、すでに多彩なアプリケーションが立ち上がっています。
スライドを自動生成する「みずほスライドジェネレーター」や、プロ向けの調査を支える「みずほDeepResearch」、議事録を作る「めんきくん」等、幅広いツールが共通基盤の強みを活かして展開されています。今回はその中から、二つの事例をご紹介します。
①法人営業を支援する「みずほRM Studio」
一つ目は、法人営業(RM)を一気通貫で支援する「みずほRM Studio」です。過去の訪問記録や行内の情報、市場のトレンドといった膨大なデータをインプットすることで、AIが提案のシナリオや資料のたたき台を自動で作成します。

みずほRM Studio説明図
このシステムでは、一つのAIにすべてを任せるのではなく、ウェブ検索や商品探索といった特定の役割を持つ複数の「サブエージェント」を裏側で束ねる「マルチエージェント構成」を採用しました。これにより、必要な権限や情報を安全に区切って管理しています。実際の営業現場では、準備から訪問後のフォローまで、業務の流れに沿って次のように活用されています。
1. 訪問前(調査・準備):ホーム画面で企業と業界を選ぶだけで、詳細な調査レポートが自動でできあがります。さらにチャットを通じてメールの文面や提案のアイデアをリクエストでき、提案資料まで自動で作成されます。
2. 訪問後(整理・記録):お客さまとの面談が終わった後は、議事録ツール「めんきくん」が作成したテキストを入力するだけで、面談結果をまとめたサマリ資料が自動で出力されます。
このツールの強みは、利用者が一から難しいプロンプトを考える必要がないよう、日々の業務の動線に合わせて入り口が用意されている点にあります。すでにPoC段階の拠点では、事前の準備時間が約50%削減され、お客さまとの会話機会が約3倍に増えたという効果が確認されています。こうして創出された時間を、営業担当者がお客さまと深く向き合うことに充てる。それがこのツールの本来の狙いです。
②汎用デスクワーク支援「Mizuho Cowork」
二つ目は、社員の幅広い一般業務をサポートする共通ワークスペース「Mizuho Cowork」です。特定の営業プロセスに特化した「みずほRM Studio」とは異なり、こちらは全社員が日々の資料作成や数値分析等のデスクワークで汎用的に使えるよう、試行検証を進めているウェブアプリケーションです。
もちろん、金融機関として「Need to Know(知る必要のある人だけがアクセスできる原則)」の徹底は譲れません。そのため、「Mizuho Cowork」には以下の三つの仕組みを標準で組み込んでいます。
- 1. セッション分離:ユーザーごとに使い捨ての専用コンテナ(Amazon ECS)を立ち上げ、データや情報を完全に独立させます。
- 2. 出力結果へのガバナンス:Amazon Bedrock Guardrailsにより、不適切な回答や情報の漏洩を機械的にブロックします。
- 3. 完全な監査ログ:AWS CloudTrailを用いて、誰がどのような操作を行ったかの履歴をすべて記録します。

「Mizuho Cowork」説明図
システムの構造としては、ベースとなる汎用ハーネスの上に、〈みずほ〉独自のルールや、稟議・監査のチェックといった業務知識を後から「skills」として自由に追加できる設計にしています。これによって、最先端のAI技術にすばやく追従しながら、社内業務にきめ細かく適合させることができるのです。将来的には、利用者のフィードバックを反映させながら、自律的に業務を改善・実行できるAIエージェントへと進化させていく予定です。
このように、現場の特定業務に深く入り込む「みずほRM Studio」と、全社で汎用的に使う「Mizuho Cowork」は、目的も性格も全く異なる二つのアプリケーションです。それらが同じ「エージェントファクトリー」という共通の土台の上に素早く構築され、安定して動いている。この事実こそが、共通基盤の価値と可能性の広さを証明していると考えています。
AIは人を脇役にしない。〈みずほ〉がめざす未来像
藤井:こうした基盤づくりの先で、〈みずほ〉がめざす未来像は大きく二つあります。
まず個人のお客さまに対しては、一人ひとりにAIが寄り添い、ライフデザインまでをサポートする姿の実現です。そして法人のお客さまに対しては、情報収集から提案準備、さらには訪問後のフォローに至る営業プロセスをAIが自律的に担う世界です。これによって、人間はお客さまとの「対話そのもの」に集中し、信頼関係の質と接点の機会を大きく高めていくことができます。

〈みずほ〉がめざす将来像について説明する藤井
ここで重要なのは、AIは決して人間を脇役にするものではないということです。むしろ、人間だからこそできる対話の価値を最大化するための、心強い「バディ」にほかなりません。だからこそ、AIを単発のツールで終わらせてはいけないのです。
これからのAIネイティブな時代を見据え、既存の業務プロセスをAI前提で見直し、組み替えていく。そのためには、ガバナンスとアジリティを両立させながら、AIエージェントを安全かつ継続的に量産する仕組みが不可欠です。その重要なステップの一つが、今回ご紹介した「エージェントファクトリー」の取り組みです。
〈みずほ〉は、この基盤づくりをAWSと密に連携しながら進めています。今後も常に最新の技術を取り入れ、AWSとともに金融の新しい未来を切り拓いていきたいと考えています。
PROFILE
株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役員 デジタル戦略部長 Chief AI Officer
藤井 達人
2023年キャリア採用でみずほフィナンシャルグループに入社。1社目の外資IT企業にて、メガバンクの基幹系開発、金融機関向けコンサルティング業務等に従事。2社目の外資IT企業を経て、総合金融グループではフィンテック導入のイノベーションを担当。その後、大手通信事業者の金融持株会社での執行役員、2社目の外資IT企業での業務執行役員を歴任し、現職。金融革新同友会「FINOVATORS」創立メンバー。『フィンテックエンジニア養成読本』(技術評論社)全体監修および共著。
※所属、肩書きは取材当時のものです。
文・写真/みずほDX編集部








