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着想から10日でプロトタイプを構築。組織横断で生まれた「みずほスライドジェネレーター」内製開発の舞台裏

着想から10日でプロトタイプを構築。組織横断で生まれた「みずほスライドジェネレーター」内製開発の舞台裏

OVERVIEW

〈みずほ〉が全社で推進する「WORK WITH AI@MIZUHO」。それは、単なる業務効率化ではなく、AIを「優秀なパートナー」として迎え入れ、人間は人間にしかできない創造的な価値創出に集中するという、新しい働き方のビジョンです。
このビジョンを社内コミュニケーションの現場で具現化しているのが、スライド自動生成AI「みずほスライドジェネレーター」です。
「みずほスライドジェネレーター」の開発にあたり〈みずほ〉が選んだのは、担当者のアイデアを起点に、みずほフィナンシャルグループ(以下「みずほFG」)とみずほリサーチ&テクノロジーズ(現:みずほ銀行 情報数理工学研究所/以下「IMARI」)が組織を越えて連携し、プロダクトマネージャー(以下「PdM」)とエンジニアが役割を超えてつくり上げる内製開発の道でした。
本記事では、着想からわずか10日でプロトタイプを構築した開発の舞台裏と、人が会議等での対話や思考を担い、人やAIエージェントからの指示を起点に、AIがスライド作成等の作業を自律的に担う「AIと人が共創する業務プロセス」の未来像について、プロジェクトをけん引した江上和明、山田太樹に話を聞きました。

INDEX

  1. 1
    着想から10日で構築。スライド自動生成AI「みずほスライドジェネレーター」が生まれた理由
  2. 2
    汎用ツールだからこそ直面した壁。「良いスライド」をどう定義するか
  3. 3
    PdMとエンジニアの「役割」を超える。満足度約80%が証明する現場起点の開発体制
  4. 4
    「AIと人が共創する業務プロセス」へ。〈みずほ〉が描く未来

着想から10日で構築。スライド自動生成AI「みずほスライドジェネレーター」が生まれた理由

─はじめに「みずほスライドジェネレーター」の概要について教えてください。

江上:一言でいえば、社内コミュニケーションにおける「思考整理」と「情報伝達」を効率化するAIアプリケーションです。

チャット画面に自然言語で指示を入力するだけで、AIがスライド構成を考え、PowerPointで編集できるスライドを作成します。チャット画面での入力だけでなく、会議中に作成した議事録を「みずほスライドジェネレーター」内に取り込むことで、社内に会議内容を共有するためのスライドが手元に用意されます。

裏側の仕組みとしては、Amazon Bedrock(生成AIアプリケーションやAIエージェントをセキュアに利用・構築できるクラウド基盤)上のClaudeを活用しています。既存のスライド生成AIアプリケーションを導入するのではなく、〈みずほ〉の環境や業務に合わせて自社で一から内製開発しているのが大きな特徴です。

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江上 和明(みずほFG)

─開発の発端は、江上さんご自身の個人的な課題だったと伺いました。

江上:ええ。きっかけは私自身の切実な悩みでした。

実は私、PowerPointできれいなスライドを作るのがすごく苦手なんです。社内向けの報告資料等を作る際、本来の「内容を練る」時間よりも、それを「スライドの形にする(体裁を整える)」作業の方に膨大な時間を奪われていました。

手元のテキスト情報を、誰もが直感的に理解できるスライドに変換する際に、上手な人の真似もしてみましたが、個人のスキルアップだけではどうしても限界を感じていました。

そんな中、転機となったのが2025年2月の「Claude 3.7 Sonnet」のリリースです。当時、このモデルは「テキストで指示するだけで品質の高いウェブサイトが作れる」と技術者の間で話題になっていました。手元で検証するうちに「スライドの作成にも応用できるのではないか」と考えたのです。

─アイデアの着想から、わずか10日でプロトタイプを完成させたそうですね。なぜこれほどのスピード感で形にすることができたのでしょうか。

江上:これは私一人の力というよりも、デジタル戦略部の「恵まれた開発環境」のおかげです。部内には最新のAIツールへ即座にアクセスできる環境があり、なにより「まずは手を動かして作ってみよう」という文化が根付いています。だからこそ、私が思いついたアイデアも、AIと対話しながら高速でアプリケーションを作る「バイブコーディング(Vibe Coding)」という手法を使って、すぐに実装に取りかかることができました。このように「実験的な挑戦を歓迎する文化」があったからこそ、わずか10日という迅速なプロトタイプ開発が可能になったのだと思います。

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「みずほスライドジェネレーター」概要図

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汎用ツールだからこそ直面した壁。「良いスライド」をどう定義するか

─プロトタイプが立ち上がった後、PdMとして合流したのが山田さんです。どのようにプロジェクトを進めたのでしょうか。

山田:全社の誰もが日常的に使えるプロダクトへと育てるため、まずは現場の社員が「どんなスライドを、どんな目的で作っているのか」をヒアリングし、分析することから始めました。

スライドと一口に言っても、求められる内容は場面ごとに大きく異なります。だからこそ「まずは社内のどんな業務で使ってもらうのか」という利用シーンを定めたいと考えました。

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山田 太樹(みずほFG)

─実際のヒアリングからは、どのようなニーズが見えてきたのでしょうか。

山田:実は、いざ調べてみると「特定の用途に絞り込めない」という壁にぶつかったんです。

会議資料から、同僚へのカジュアルな情報共有まで、現場がスライドを必要とする場面が予想以上に幅広いことがわかりました。そこで発想を転換し、特定の業務に特化するのではなく、あえて「どんな場面でも汎用的に使えるツール」をめざすことにしました。

しかし今度は、幅広い用途に対応できる「良いスライドとは何か」を定義するという最大の難関が待ち受けていました。正解は一つではなく、世の中に参考にできるプロンプト(指示)もありません。

すべて手探りでプロンプトを組んでいきましたが、いざAIにスライドを作らせてみると、大きく二つの壁にぶつかりました。一つは、レイアウト崩れとの戦いです。複数スライドに分けて作成するよう出した指示内容が勝手に一つのスライドにまとめられたり、文字がはみ出したりと、見栄えを整えるのに苦労しました。もう一つは、情報伝達の正確性です。一般的なAIによるスライド生成は、キーワードだけを簡潔に並べるスタイルになりがちです。しかし、厳密さが求められる銀行の実務においては、そうした粒度の粗い情報では正確な意図を伝えることができません。

どんな場面でも汎用的に使える「良いスライド」の答えは、正直なところ現在も探索中です。だからこそ私たちは、見栄えのために情報を安易にそぎ落とすのではなく、解釈のズレが許されない銀行の実務において、「スライド単体で正確に意図が伝わる」という品質基準をベースラインとした実装にこだわりました。

PdMとエンジニアの「役割」を超える。満足度約80%が証明する現場起点の開発体制

─そうした「良いスライド」の正解が誰にもわからない中で、現場ではどのようにアプローチしていったのでしょうか。

江上:正解がないからこそ、「PdMが仕様を決めてエンジニアが作る」という従来の分業スタイルは通用しません。そこで私たちが選択したのが、あえて役割を固定せず、全員で一緒に正解を探すというアプローチです。

通常の開発では、PdMが「何を(What)」、エンジニアが「どう(How)」と役割が分かれがちです。しかし、今回のように正解が定まっていない未知の領域においては、「何ができるか」と「どう作るか」は切り離して考えられません。

だからこそ職種の垣根をなくし、「このプロンプトならどう出力されるか」「システム側で補正できないか」とフラットに試行錯誤を繰り返しました。これにより、AIを使うことに縛られず、「ユーザーにとって何が最善か」という視点を軸に、枠にとらわれない柔軟なアプローチができました。

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─プロトタイプから本格展開へ進むうえで、〈みずほ〉ならではの組織横断連携も大きな力になったと伺いました。

江上:はい。みずほFGと、IMARIによる組織横断的な連携が大きな推進力になりました。

というのも、みずほFG側が持つ「最新AIの先行利用環境」と、IMARI側が培ってきた「先端技術の知見」という両者の強みを、スピーディーに掛け合わせることができたからです。〈みずほ〉にはグループ間で連携して開発を進める土壌がありますが、私自身がIMARIでの勤務を経てみずほFGに異動してきたため、これまでのリレーションをいかすことで、今回の組織間の橋渡し役をよりスムーズに担うことができました。

─全社展開後、実際にどのような成果が出ているのでしょうか?現場のユーザーからの反響もあわせて教えてください。

江上:定量的な成果でいうと、スライドの作成時間を約50%削減でき、本部所属における実績値では一人あたり月平均で約10時間の工数削減につながりました。ユーザー満足度も約80%と非常に高く、これだけの数字が出た驚きと同時に「多くの社員が同じ悩みを抱えていた」ことを改めて実感しました。

ありがたいことに、今ではグループ全体の使用実績として一万人以上の社員に活用され、生み出されたスライドはすでに数万枚にのぼります。

ただ、単に膨大な「作業コスト」を削っただけではありません。私たちが何よりの成果だと感じているのは、ツールで時間を浮かせたことで、社員一人ひとりに「本質的な企画や戦略を練り上げるための余白」を生み出せたことです。

現場からも「構成から一緒に考えてくれるので、スライド作りの心理的ハードルが下がった」という嬉しい声が届いています。社内の会議でこのツールで作られたスライドが当たり前のように使われ、議論が深まっている光景を目にする瞬間に、作り手として大きな手応えを感じています。

「AIと人が共創する業務プロセス」へ。〈みずほ〉が描く未来

─今後の「みずほスライドジェネレーター」の展開や、〈みずほ〉が描く未来について教えてください。

山田:次にめざすのは、ツール単体の提供にとどまらず、「AIと人が共創する業務プロセス」そのものを進化させることです。すでに現場では、AI議事録「めんきくん」や汎用AIツールと「みずほスライドジェネレーター」を組み合わせて使うような動きが生まれています。

現在はユーザーが複数のツールを使い分けていますが、将来的にはシームレスにツール同士を自動連携させたいと考えています。例えば、〈みずほ〉で使用しているAIエージェントに「みずほスライドジェネレーター」が組み込まれていき、社員がAIエージェントとの対話を進める中で、必要な提案資料のたたき台が自然に手元に届く。〈みずほ〉独自のAIエージェント基盤上で、AIと人が役割を分け合いながら業務を支える世界の実現をめざしています。

さらに、日々お客さまと直接向き合っている現場の営業担当者がお客さま向けの提案資料を作成する場面でも、この仕組みは大きな価値を生むと考えています。過去のお客さまとの打ち合わせ内容や、お客さま情報からAIエージェントが次の商談の資料を自動で作成する「みずほRM Studio」でも、「みずほスライドジェネレーター」が提案資料作成フローに組み込まれています。

人間が手作業でスライドを作成していると、どうしても「いかに資料をきれいに仕上げるか」という体裁のほうに意識が奪われがちです。しかし、私たちが本来注力すべきは「お客さまにとって何がベストか」を考え抜くことです。AIによって社内での作業時間を最小化し、その分、お客さまと向き合う時間を最大化する。それこそが、金融のプロフェッショナルとして提供すべき「より良いご提案」に直結するのだと感じています。

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─最後に、みずほFG デジタル戦略部で働く魅力を教えてください。

江上:一人の「小さなアイデア」が、そこで終わらずに、全社で当たり前に使われる仕組みへと育っていく。そんな「組織全体に広がっていく手応え」を肌で感じられる環境が一番の魅力です。

最初は手元の小さな試行錯誤から始まったツールでした。それが周囲の「使いたい」という声に背中を押され、気づけばグループ全体の使用実績で一万人以上の手に届いている。これほど大きな舞台で、自分が手がけたプロダクトが直接、目に見える形で誰かの役に立っていると実感できる機会は、そう多くないはずです。

「大企業だから新しい挑戦はできない」「スピードが遅い」といった印象を持つ方もいるかもしれませんが、〈みずほ〉は決してそうではありません。経営層が本気でAIの可能性を信じ、現場の担当者の挑戦を後押ししてくれる文化が根付いています。

自分の発想で巨大な組織を動かしたい、最先端の技術をいち早く実業務で活用したいという方にとって、最高の環境だと思います。〈みずほ〉はこれからも新しい技術を貪欲に取り入れ、私たち自身も変化を楽しみながら、お客さまや社会とともに成長していきたいですね。

PROFILE

江上 和明の画像

みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 テクノロジー第一チーム

江上 和明

2002年に安田コンピューターサービス(現:みずほ銀行 情報数理工学研究所)へ入社。システムエンジニアとして、信託銀行関連のシステム開発に従事。その後、テスト自動化等の技術支援を手がけた後、2017年よりAI領域に軸足を移し、自然言語処理を中心に技術研究に取り組む。2024年からは、みずほフィナンシャルグループのデジタル戦略部に所属し、「みずほスライドジェネレーター」を発案・開発するとともに、社内のDX推進施策をけん引している。

山田 太樹の画像

みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 テクノロジー第一チーム

山田 太樹

2023年に新卒でみずほリサーチ&テクノロジーズ(現:みずほ銀行 情報数理工学研究所)へ入社。システムエンジニアとして、新規事業におけるウェブアプリケーション開発に従事。2025年11月より、みずほフィナンシャルグループのデジタル戦略部に所属し、「みずほスライドジェネレーター」のPdM(プロダクトマネージャー)として、プロダクト開発・運営を推進している。

※所属、肩書きは取材当時のものです。

文・写真/みずほDX編集部

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