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SX特別企画

INTERVIEW

野心的なスタートアップとともに
製造業にパラダイムシフトを起こす。

メインイメージ:エレファンテック 代表取締役社長 清水さま みずほ銀行 常務執行役員 大櫃

独自の金属インクジェット印刷技術を持つ、東京大学発スタートアップのエレファンテック。同社はこの技術により、スマートフォン等の電子機器に欠かせない電子回路の製造工程において、圧倒的な省資源化やCO₂排出量の削減を実現しています。同社の代表取締役社長を務める清水さまと、同社を支援しているみずほ銀行・常務執行役員の大櫃が対談を行いました。この記事では、両社のこれまでの取り組みと今後の展望についてご紹介します。

サステナブルなものづくりの確立に向けて、固定観念なくフラットな立場で伴走。

大櫃エレファンテックさまと〈みずほ〉の出会いは、2018年頃でしたよね。〈みずほ〉では、貴社のような「先進的な技術をいかした商品・サービスの提供等、イノベーティブな事業に挑戦する企業」を「イノベーション企業」と定義し、みずほ銀行のイノベーション企業支援部が中心となり、グループ全体でそれら企業の成長をサポートしています。
私自身、今までに数千に及ぶイノベーション企業の経営者と面談をしてきましたが、清水さまから「環境にやさしいインクジェット印刷による電子回路の量産化をめざしている」と聞いたときは、大変驚きました。まだSDGsが社会に浸透する前からこのような事業構想を描き、サステナブルなものづくりに挑む姿に強く共感し、エレファンテックさまへの支援を決めました。
初めてエレファンテックさまの本社を訪問したとき、いわゆる工場ではなく、都会のど真ん中にあるビルの一室で革新的な電子回路が製造されているという事実に衝撃を受けたことを覚えています。また「なぜ、これまで誰もこの技術を実現できなかったのだろう」と疑問に思いましたが、工学と化学の両分野の専門知見がないと実現できない技術であることを清水さまにご説明いただき、思わず膝を打ちました。

清水ありがとうございます。大櫃さまと初めてお会いしたころのエレファンテックは、技術実証を経て、本社内に小規模実証ラインを設立する技術開発段階でした。当時は、電子機器を製造する他の企業やベンチャーキャピタルに事業構想を伝えても、本当に実現できるのか半信半疑で受け取られることが多かったです。そんな中、〈みずほ〉さまは先入観や業界の固定観念なくフラットな立場で当社の取り組みを聞いてくださり、私たちのものづくりに真摯に向き合ってくださっている印象を受けました。これこそ、早い段階からスタートアップ支援に目を向け、社員一人ひとりが支援の重要性を理解されている〈みずほ〉さまだからこその強みだと思いました。

セカンドイメージ:エレファンテック 代表取締役社長 清水さま みずほ銀行 常務執行役員 大櫃

左から順に、エレファンテック 代表取締役社長 清水さま、みずほ銀行 常務執行役員 大櫃

大櫃電子回路基板はスマートフォンやモニターといった身近な電子機器にも搭載されていて、私たちの生活を支える「縁の下の力持ち」ですよね。自動運転やロボティクス技術の進化等によって、あらゆるものにエレクトロニクス製品が搭載される時代が来ると言われています。改めて、技術面におけるエレファンテックさまの強みをお話いただけますか。

清水従来型の基板は、本質的には不要である部分も含め、金属等の層を均一に積んでから不要な部分を削る「引き算の製法」であるのに対し、私たちは最初から必要な金属だけを印刷する、いわば「足し算のアプローチ」を試みました。その結果、これまで発生していた大きな環境負荷を最小限に抑えた新技術を確立しました。これにより、他社製品と同等性能でありながら、製造工程における銅使用量を約70%(※1)、CO₂排出量を約75%(※2)、水消費量を約95%(※2)も削減できます。

サードイメージ:他社製法と比較して、環境負荷・コストともに低減できるエレファンテックの独自製法

他社製法と比較して、環境負荷・コストともに低減できるエレファンテックの独自製法

大櫃卓越した技術力はもちろん、数値として並べると非常に大きなインパクトがありますよね。サステナブルなこの製法は、コスト面での優位性もありますよね。

清水おっしゃる通り、量産販売時には他社製品よりも安価に提供可能です。〈みずほ〉さまをはじめとする多彩なステークホルダーのご支援により、現在は愛知県名古屋市に大型量産実証拠点を設け、2021年4月から主要製品であるP–Flex®の量産に取り組んでいます。

※1 片面フレキシブル基板(銅厚18μm、銅被覆率30%)における試算。

※2 両面フレキシブル基板(ポリイミドフィルム25μm、銅厚6.6μm、銅被覆率30%、金厚0.1μm、金被覆率10%)における試算。異なる基板設計においても、カーボンフットプリント削減率は70–80%の範囲に収まる。

フォースイメージ:基材に必要な金属を印刷する、製造ラインの様子

基材に必要な金属を印刷する、製造ラインの様子

創業期から長期スパンで、
金融に留まらない幅広いサポートを実施。

大櫃〈みずほ〉は約5,000社のスタートアップに対し、法人口座開設から新規株式上場(以下、IPO)までの過程はもちろん、その後も継続して多角的な支援を行っています。エレファンテックさまのようにディープテック(※1)領域に取り組んでいる場合、いわゆるIT領域よりもさらに長期視点でタフなビジネス展開が求められますよね。

清水おっしゃる通り、ディープテック領域は事業化に長い時間と多額の資金を必要とし、既存のビジネスモデルを適応しにくいと言われています。実際にエレファンテックは2024年1月で創業10周年を迎えましたが、そのうちの約7年間はプロダクトを世の中に送り出すことができず、苦悩の期間を送りました。IT系のスタートアップであれば、1年目からプロダクトを生産する企業もあるので、私たちがいかに時間を要したかご理解いただけると思います。

大櫃試行錯誤を重ねながら、企業としてスケールアップしていく様子を見てきましたが、大変なシーンもたくさんありましたね。

清水2020年に化学メーカーの名古屋工場を間借りし、東京で検証した量産プロセスを持ち込むことで、比較的スムーズに量産体制の立ち上げができました。しかし、更なるスケールアップに向けてサプライチェーンの最適化という課題に直面しました。原料の投入量に対する生産効率をはじめ、外注先との連携による品質の安定、研究開発チームと製造チームの連携まで、一つひとつ自ら吟味して構築していく必要がありました。
弊社がそうした難題を乗り越えられた最大の理由は「社員」にあります。20代の社員を中心とするスタートアップが多い中、エレファンテック社員の平均年齢は40歳を超えています。これは、工場操業ノウハウを効率的に取得するため、経験者を積極的に採用したからです。幸いにも日本には、製造や生産管理のベテランがまだ大勢います。

フィフスイメージ:エレファンテック 清水さま

エレファンテック 清水さま

大櫃私もたくさんのスタートアップを見てきましたが、清水さまがおっしゃられたことはまさにディープテックにおける勝ち筋の一つですね。新しい技術を学び起業した若手と経験豊富なシニア層がタッグを組む、中間層不在の新しいチームの形です。ベテラン勢の技術的な指導もさることながら、コミュニケーション面でもサポートしてくれるので、組織運営が円滑に進みますよね。〈みずほ〉としても、定年を迎えたシニア等を抱える企業と経験豊富な人材を求めているスタートアップ企業を上手くマッチングさせることで、日本の経済全体を活性化させたいと考えています。

清水それはスタートアップ側からしてもありがたいです。エレファンテックでは量産面の苦悩もありましたが、資金調達面でも困難を極めました。特にプロダクト量産前段階では投資家にとってリスクが高く、資金集めに奔走した記憶があります。その後量産に成功し、2021年4月に「Mizuho Innovation Award(※2)」を受賞しました。また、みずほリースさまのコーポレートベンチャーキャピタルからの出資や、みずほ銀行さまに海外展開のサポートをしていただいたことに大変感謝しています。

大櫃〈みずほ〉には様々な強みを持った会社があるので、これからも困ったときや壁打ち相手が必要なときは、遠慮なくご相談ください。各フェーズに応じたコンサルティングやビジネスマッチング、IPOに向けた伴走等、金融を超えた領域も含め、グループ一体となってサポートいたします。

清水そうおっしゃっていただけると心強いです。私たちは今量産化に向けた体制が整った段階にありますが、「電子回路という巨大マーケットを自社製品に置き換える」という最終ゴールから見ると、その道のりはまだ序章にすぎません。直近の目標は、商業ベースにのせてコストダウンを図り、大手メーカーと対等に戦えるレベルまで競争力を引き上げることです。それに向けて引き続きご支援いただけると嬉しいです。

大櫃こうした技術は、登場する時代が早すぎると応援してくれる人や企業があまり生まれず、残念ながら消えていくケースをたくさん見てきました。私はそういう意味で、エレファンテックさまは絶妙なタイミングで技術確立ができたのかなと思っています。

シックススイメージ:みずほ銀行 大櫃

みずほ銀行 大櫃

清水私も同意見で、やはりタイミングは重要ですよね。「技術的な実現性」と「時代のニーズ」がクロスした時に、技術や製品の価値が最大化する。実際、2020年ごろにおける弊社の技術は、世間から見て「環境にやさしい」くらいの印象だったと思います。しかし昨今では、サステナビリティを必須KPIとして設定する企業が増えたことで、本技術へのニーズが大きく高まっただけでなく、引き合いの質も劇的に変わりました。

※1 特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術のこと。また、その事業化・社会実装により、経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術を指す。(出典:経済産業省 産業技術環境局「ディープテック・スタートアップ支援事業について」)

※2 有望なイノベーション企業を表彰する、みずほ銀行主催のアワード。四半期ごとに、ビジネスモデルの優位性、チーム力、成長可能性等を評価の軸として、対象企業を選定している。

独自技術のグローバル展開で、
製造業にパラダイムシフトを起こす。

清水私たちは今、「新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る」というミッションをグローバルでも体現するため、販路をさらに広げようとしている最中です。直近では、2023年11月に台湾のICT業界大手メーカーと低炭素プリント基板の量産化推進に向けた協業覚書を締結しました。

大櫃台湾を皮切りに、欧州での現地生産もめざしていると伺っていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

清水欧州は脱炭素に向けた意識が特に高い市場です。そのため、P–Flex®をはじめとする弊社の製品が、環境や社会に配慮した「サステナブル調達」のニーズに合致します。

大櫃いわゆる「国境炭素税」(※)の2026年本格導入や対象製品の拡大を見据えた、欧州市場への進出というわけですね。エレファンテックさまが持つ、環境負荷の少ない金属インクジェット印刷技術が世界のデファクト・スタンダードになれば、産業構造やサプライチェーンが根本から変わりそうです。

清水まさに私たちがめざしているのは、製造業にパラダイムシフトを起こすことです。エレファンテックの製法を世界標準にするため、次世代技術を提供するメーカーとして印刷装置そのものを販売することも計画しています。

大櫃グローバル展開に打って出るだけでなく、現在の電子回路メーカーよりもさらに上流から、ものづくりに携わろうということですね。

清水量産体制を確立した後は、印刷装置やインクといった材料を販売することで、メーカーを問わず、環境にやさしい基板を低コストで製造できる世界を作っていきます。
このビジョンの根底に流れているのは、人口減少が進み、世界でのプレゼンスも低下している日本経済への強い危機感です。元々エレファンテックは、「世界で勝てる」かつ「グローバルにインパクトを与えられる」事業ドメインをしっかりと見定めて起業しました。日本経済が再び成長していくためには、しっかりと外貨を稼げる日本企業が必要です。そのためには、グローバルにイノベーションを起こす企業を毎年10~20社、日本から安定的に送り出すことが重要だと考えています。その先陣を切るのが、私たちエレファンテックの使命の一つだと確信しています。

大櫃〈みずほ〉としてもまさに、グローバルで戦えるスタートアップを日本から数多く輩出することが喫緊の課題だと考えています。絶対的な成功者が求められる中で、私はエレファンテックさまがその代表格だと思っています。

清水私自身、創業だけでなく、スケールアップも含めて自ら舵取りをしていきたいと思ってやってきました。途中でブレることなく猛進できたのには、二つの理由があります。一つは「技術的に正しいことをやっているという確信」です。先ほどお話した「足し算のアプローチ」により、圧倒的な省資源化をめざすことは、誰の目から見ても間違っていません。もう一つは先ほどもお話した「タイミング」です。このまま取り組み続ければ、市場のニーズと技術的な進歩が重なるという手応えがありました。

大櫃「確信」「タイミング」、どちらも欠かすことのできない要素ですね。私たちは、IPOが企業のゴールとなってはいけないと考えています。むしろ大切なことは、その後も持続的に成長し、日本企業が世界で存在感を発揮することです。そのために、グローバルで戦えるスタートアップを支援するのが〈みずほ〉の責任だと考えています。これからも二人三脚で、世界市場へと突き進んで行きましょう。

清水「〈みずほ〉さまとエレファンテックがいたことで世界が大きく前進した」と言われるように、私たちの手でエレクトロニクスの未来を変えましょう。

※正式名称は「炭素国境調整措置」。鉄鋼やアルミニウム等の特定製品において、EU域外からの輸入品を取り扱うEU域内事業者に対して、同じ物を域内製造した場合にEUで支払いが求められる炭素価格に応じた価格の支払いを義務付けるもの。

セブンスイメージ:エレファンテック 代表取締役社長 清水さま みずほ銀行 常務執行役員 大櫃

※記事の内容は、取材当時のものです

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エレファンテック 代表取締役社長 清水さま プロフィール画像

エレファンテック
代表取締役社長

清水 信哉

東京大学大学院 情報理工学系研究科電子情報学専攻 修士課程修了後、外資系コンサルティングファームに就職。東京大学時代の恩師から導電性インク印刷技術を紹介されたことがきっかけで、2014年にエレファンテックの前身となるAgICを起業。2020年、フレキシブル基板P–Flex®の量産に成功し、2021年に名古屋にある量産製造拠点の稼働を開始。2023年11月、第三者割当増資で39億円(シリーズDラウンド合計)の資金調達を実施し、累計調達金額が約100億円(助成金・融資等を含む)に到達した。

みずほ銀行 常務執行役員 大櫃 プロフィール画像

みずほ銀行
常務執行役員
(2024年4月1日以降、「みずほフィナンシャルグループ みずほ銀行 エグゼクティブアドバイザー」)

大櫃 直人

1988年富士銀行入行後、複数の営業店勤務を経て、本部にてM&A業務や新規の法人取引獲得を推進。2016年イノベーション企業支援部設立に伴い、同部の部長に就任。2018年執行役員に就任し、2022年より現職。スタートアップの成長支援をライフワークとし、自ら意欲的に企業・経営者の元に足を運び、年間約1,000社(1日平均4、5社)と面談を行っている。