SX特別企画
INTERVIEW
新たなファイナンスを起点としたIHIとの共創で、
人的資本経営を次のステージへ。
人的資本経営への注目が高まる中、〈みずほ〉では2023年5月に「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」の取り扱いをスタート。その第一号案件として契約を締結したIHIと〈みずほ〉の執行役員らによる対談を行いました。この記事では、契約締結に至った背景やリリース後の反響、社会課題の解決に向けた金融機関の役割等についてご紹介します。
今、社会に求められる、人的資本経営。
新たなファイナンスで、未来に先手を打つ。
南條気候変動対応をはじめとする環境問題に加え、少子高齢化に代表される様々な社会課題を抱える日本において、企業は成長と社会課題解決の両立が求められています。
そうした中で、2020年9月に経済産業省から「人材版伊藤レポート」が発表されたのを機に、人的資本開示が注目されるようになりました。2022年5月には人的資本経営実践のポイントや工夫を示した「人材版伊藤レポート2.0」がリリースされ、同年8月には内閣官房から「人的資本可視化指針」として人的資本の開示の方向性を策定・公表と、立て続けに動きがありました。
また、上場企業に対しては2023年度に人的資本に関する情報開示が義務付けられ、投資家も企業のESG対応を財務状況と並ぶ企業価値の判断材料として捉え始めています。IHIさまは人的資本経営が注目されるはるか前から「人材こそが最大かつ唯一の財産である」という経営理念を掲げ、長年にわたり大変先進的な取り組みを進めてこられました。
瀬尾IHIの事業は社会課題を解決することであり、そのためには、二酸化炭素と水素から燃料を作るメタネーションのような新しい技術への挑戦が必要です。ではその技術はどこにあるのかというと、「人」にあります。こうした考え方は我々の経営理念にもなっている当たり前のものでしたので、特段先進的という意識は持っていませんでした。
南條先日、あるグローバルファンドの経営者がこのようなことを話していました。「アメリカ企業の企業価値を上げる近道はシンプルで『CEOを変えればいい』と言われてきたが、実際には、CEOを変えても現場の人たちは変わらないケースも多い。むしろ、ホワイトカラーが優秀で粒が揃っている日本企業の方が、トップのマネジメント次第で大きく飛躍するポテンシャルがある」というのです。つまり日本企業の人的資本は高く評価されているということです。ですから、日本企業こそ世界に先んじて人的資本に着目すべきだと私は思います。
〈みずほ〉はかねてからESGに着目したファイナンスを行ってきました。2023年度から始まった新たな中期経営計画では、サステナビリティへの取り組みを大きな戦略の軸とし、サステナブルファイナンスの累計目標も従来の25兆円から100兆円と大幅に引き上げています。
その一環として、私たちは2023年5月に新商品「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」の取り扱いを開始し、その第一号案件としてIHIさまと契約させていただきました。
私たち自身が、人的資本経営に取り組む日本企業を後押しするフィナンシャルスキームの必要性を感じていたことに加え、お客さまからも「ファイナンスを通じて人的資本経営を支援して欲しい、対外的な発信も行いたい」との要請もいただいていたことで開発した商品です。
開発にあたっては、人的資本と経営戦略をどのように結びつけるのか、また、人的資本経営という言葉の指す範囲が育成やエンゲージメントから、流動性、ダイバーシティ、コンプライアンスといった領域まで幅広いこと等も課題でした。そこでみずほリサーチ&テクノロジーズが独自に開発した評価手法を基に、姿勢、人材施策、そして体制の3つの観点から総合的にスコアリングし、高いスコアを獲得された企業に融資を行うこととしました。
瀬尾我々は昨今の人的資本経営が注目される前から「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」との経営理念を掲げ、「人」を大切にして経営してきました。今回、〈みずほ〉さまから客観的に高い評価をいただき、「我々は高いレベルにいるんだ」という認識を改めて持つことができました。
社内外から大きな反響を呼ぶ。
人的資本経営をさらに加速する足がかりに。
福本IHIでは既にESGのうちのE、つまり環境に関する社会課題の取り組みに主眼をおいたファイナンスを中心にサステナブルファイナンスの採用を進めていました。今回それに、社会課題を解決していく主語であり、主体である「人」に着目したファイナンスが加わったことになります。これによりESG経営がさらに加速し、深化するものと考えています。
南條人的資本にフォーカスしたファイナンス商品は少ないため、本案件の発表後、非常に幅広いお客さまや金融機関から、想定以上の反響をいただいています。2023年8月には、大手電機メーカーとシンジケーション方式では初めてとなる「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」の契約締結に至りました。
岡田人的資本はまさしく経営のマターとして位置づけられているものであり、事業戦略としてどのように捉えるか、中期経営計画とのリンクをどのように考えていくのか等、通常のファイナンスの検討と異なる要素が多岐にわたり含まれているものです。リリース後は社外だけでなく、〈みずほ〉社内からも「検討上のポイントはどこにあったのか」といった照会も多くあります。〈みずほ〉の他の営業担当者にも調達方法の多様化を図ろうという意欲が生まれ、新しい商品を開発するきっかけとしても大いに役立っていると感じています。
福本意識変革のきっかけになったことは私も実感しています。私が管轄する財務部門は、ファイナンスというと金額や金利といった経済条件にばかり目が向きがちでした。しかし、本案件を通じて、財務、人事、企画等の機能と企業経営とのつながりがより意識され、関心の幅や視野が広がっています。
岡田〈みずほ〉も、シンプルな従来型のファイナンスにあたっては、お客さまの財務部門の方とお話をすることが中心でした。しかし今回は、これまではあまり接することのなかった人事や経営企画といった部門の方とも情報交換をしながら、一緒に新しいプログラムを組成できたという実感があります。
瀬尾IHI社内からは、「こうしたスキームは金融機関からの提案を待つまでもなく、こちら側から発想しアプローチすべきだ」という声も上がるほど、影響の大きな取り組みになったと感じています。
事業会社であるお客さまと〈みずほ〉は共創関係に。
時代に先駆け、新しい金融機関の役割を果たす。
南條「Mizuho人的資本経営インパクトファイナンス」は、融資をして終わりではありません。融資期間中も、私どもで経営戦略と連動した人材戦略の実践についての進捗や成果の検証を重ね、その結果を還元することで、お客さまの取り組みを継続的にサポートしていくことも、本案件による価値共創の大事なポイントです。
瀬尾定点観測をしながら寄り添っていただくことで、「では、次はどうしていこうか」と一緒に先を考えられるようになります。企業の事業活動に金融機関がファイナンスを通して伴走するだけでなく、協働することで新しいビジネスを創出し、お互いがそれに参画していくことも、企業と金融機関のめざすべき姿の一つではないかと考えています。
南條これからの金融機関は、従来以上にお客さまと社会価値の創造や企業価値の向上について深く議論していくことが重要となると考えています。そうしたエンゲージメントは中長期的な時間軸を見据えた議論となりますが、〈みずほ〉は、数十年単位でお客さまに寄り添い、ともに未来を創造していくパートナーとなり得る存在です。IHIさまと私たちは100年以上にわたってともに歩み続けてきた信頼関係がありますので、本案件のような取り組みを積み重ねていくことで、従来の金融を超えた非金融面でのサービス提供も含めた良き伴走者となれればと思っています。
瀬尾これからの金融機関の役割というのは興味深いテーマですね。
南條これまで日本では、高度経済成長期からバブル期まで、銀行主導の間接金融による信用創造が、「日本株式会社」の成長の大きな原動力になってきたと言われていましたが、その後の失われた30年から未だに抜け出せていません。グローバルには、行き過ぎた金融資本主義によるリーマン危機やその後の揺り戻しの中で、やはり金融機関の在り方というものは未だに模索中なのではないかと感じています。しかし、金融機関の本質的な役割は、「信用創造」「金融仲介」「決済」といったファンクショナルなものをすべて包含した上で、本来は企業の経営戦略・課題を理解し、解決にむけて支援していく中長期的なパートナーたるべきだと私は思っています。例えば融資でお貸し出しするのは短期の運転資金は勿論ですが、中期的な時間軸を見据えた設備資金や、10年、20年後も視野に入れたグローバル展開、M&Aの資金だったりする訳です。金融機関は本来的に、事業会社にとってトランザクションやディール毎のお付き合いではなく、何十年とともに歩み、価値を創造していくパートナーであり、中長期的な経営についてのディスカッション相手であるべきではないでしょうか。
瀬尾昨今のコーポレートガバナンスコード等の動きにより、エクイティへの注目も集まっていますが、それも変化していきそうです。少し長い目で見た資金調達の在り方を考えていくにあたっては、デット・エクイティいずれにおいても、我々企業自身も「どのようなことを考え」「どのような未来を見ているのか」といったことを金融機関にもしっかりと理解してもらえるような関係を創り出していくことが重要であると考えています。
南條エクイティもデットも、リスクプロファイルは違えども、ステークホルダーの一つである出し手として企業に向き合い、成長と社会課題解決の視点を持つべきという点では同じだと思います。また、例えば欧米型の「株主資本主義」「市場資本主義」に対して、「人的資本経営」は、時間軸の長さという意味でも、サステナビリティという観点からも、非常に日本的な経営にフィットする考え方だと思います。世界に約7万余社ある100年企業のうち約半分は日本企業で、2位のドイツを大きく引き離し、群を抜いての1位です。日本企業が元々、非財務価値である人的資本に意を用いてきたのが一因とも言えるのではないでしょうか。こうした事を踏まえると、少し青臭い話かもしれませんが、「日本として今後の新しい資本主義をどう考えるのか」「企業が金融機関とともにどのように中長期的に企業価値を高め、社会課題を解決していくのか」といった「あるべき論」の議論がもっとあってもいいと思います。
瀬尾IHIのミッションは社会課題の解決であり、さらに企業価値向上を両立させることです。社会へ与えるインパクトが大きければ大きいほど、企業価値が上がるという考えに基づいています。我々はエコシステムに還元する存在であると認識した上で、新しい社会課題を解決する新しい技術を探求していきます。その挑戦は手元の資金で行ってもいいのでしょうが、サステナビリティに着目したファイナンスはサステナブルであるべきでしょう。また、エコシステムは我々だけでは作れませんから、金融機関と情報を共有し、二人三脚でより大きなエコシステムの中で、より大きなインパクトを与えられるようなサステナブルな社会を実現していきます。サステナビリティに注目した新しいファイナンスの第一号案件に選定していただいたことで、〈みずほ〉さまとの関係も、よりサステナブルで、よりレベルの高いものにしていきたいと考えています。
グローバルな社会課題の解決に、
日本企業とともに挑み、サステナブルな未来を創造する。
南條グローバルな社会課題の解決は重要ですが、〈みずほ〉は日本に根差した金融機関ですから、まずは日本の課題を解決したいという想いもあります。企業価値の向上と社会課題の解決の両立にはコンテクストが重要です。例えば私は以前、製薬業界を担当していたのですが、「この新薬はこれだけ売れます」という事だけでは不十分で、「この新薬によってこれだけの人々の生活が改善されます、それによって労働力がこれだけ増加し、これだけの社会価値を生み出せます」といったところまでつなげていく必要があります。こうしたコンテクストは、多くのステークホルダーとのコミュニケーションの中でハブを担いながら考えていく必要があります。これからもお客さまとともに、まずは日本の、そして世界における社会課題の解決へ向けて貢献したいと思っています。
瀬尾グローバルでも通用するコンテクストを持って、日本の社会課題解決に大きなインパクトをもたらす取り組みを実現できれば、必ずグローバルでも良い影響を波及させることができます。
南條そのとおりです。〈みずほ〉は今般新しい中期経営計画を策定したのに合わせ、企業理念も再定義しました。金融機関には何ができるのかを改めて徹底的に議論した結果、私たちはお客さまとともに新たな価値を作っていくべきであるという結論に達し、パーパスを「ともに挑む。ともに実る。」としました。また、社会や企業のあり方が変わっていくときに、時代の先を読み、新しい価値を生み出す存在でありたいという想いから、「変化の穂先であれ。」というバリューを定め、失敗を恐れずに未来をリードしていきたいと考えています。
お客さまとの価値共創によってサステナブルな未来の創造に挑んでいく。それを象徴する案件をIHIさまとご一緒できたことを光栄に思います。引き続き、ともに豊かな実りを追求していきたいと思っています。
※記事の内容は、取材当時のものです
IHI
取締役 常務執行役員
人事部長
瀬尾 明洋
1987年の入社後、人事・労務管理、組織開発などに従事し、2007年にALPHA Automotive Technologies LLC社長に就任。2013年IHIグローバルビジネス統括本部企画管理部長、2017年新事業推進部長、2018年経営企画部長、2021年に執行役員経営企画部長、2022年4月常務執行役員人事部長を経て、2022年6月より現職。
IHI
取締役 執行役員
財務部長
福本 保明
1990年の入社。2014年財務部財務決算グループ担当部長に就任。2018年経営企画部グループ戦略グループ主幹、2020年財務部財務決算グループ担当部長、2021年財務部長、2022年執行役員 財務部長を経て、2023年6月より現職。
みずほ銀行
常務執行役員
南條 豊
1992年の入行後、みずほ証券での管理職を経験し、2010年7月にみずほコーポレート銀行の企画グループ統括役員付コーポレートオフィサーに就任。その後、みずほフィナンシャルグループにて要職を歴任し、2020年4月には同社の執行役員 戦略企画部長を拝命。2021年5月、みずほ銀行に移籍後は執行役員を担当し、2023年4月より現職。
みずほ銀行
執行理事
自動車・テクノロジー第三部長
岡田 明文
1996年の入行後、支店勤務やA・L・Cソリューション部(M&Aチーム)調査役等を経験。2005年1月のみずほ証券への転籍後は管理職を務め、2012年1月、みずほ銀行 営業第十三部 上席部長代理に就任。その後、同社のコーポレート・インスティテューショナル業務部 業務推進役などを経て、2022年4月より現職。