
国内最大規模の「バーチャルPPA」で、前例なき再生可能エネルギー調達に挑む。
花王株式会社
2040年までにカーボンゼロ、2050年までにカーボンネガティブという意欲的な目標を掲げ、ESG経営を推進する花王。使用電力については2030年までに再生可能エネルギー100%をめざし、さらなる脱炭素化を標榜しています。〈みずほ〉は、同社の取り組みを後押しすべく、議論を重ね、国内最大規模(※)となる「バーチャルPPA」を締結。これにより、東京都墨田区にある同社のすみだ事業場への理想的な電力供給体制を構築しました。
※合計15.6MW(公開情報に基づく、契約締結ベース)
Project Flow

2021年、花王と〈みずほ〉は、遊休地を活用した再生可能エネルギー調達方法についてディスカッションを開始。2022年5月に〈みずほ〉の再生可能エネルギー調達支援ソリューションをご紹介したことがきっかけとなり、本格的なビジネス検討フェーズに移りました。様々な調査・検討を重ねた結果、太陽光発電所から創出される電力は市場に売却し、環境価値のみを同社に供給する「バーチャルPPA」と呼ばれるスキームの活用をご提案。「世の中にとって新しい価値のあることを生み出す」という両社共通の想いのもと、前例のない挑戦がスタートしました。
CHALLENGE
企業ニーズに合わせた電力供給のあり方を模索し、ESG経営の最前線を支える。
ESG経営を実践する日本屈指の企業として知られる花王。「豊かな共生世界の実現」をパーパスに掲げ、2019年4月に同社が策定したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」では、「脱炭素」を重点取り組みテーマのひとつに位置づけています。同社はこれまでに、自家消費用の太陽光発電設備を、複数の生産拠点に導入していますが、追加性(※1)のある再生可能エネルギーの更なる調達に向けた次の一手を模索していました。
一方〈みずほ〉では、2022年5月、お客さま向けの「自己託送(※2)による低圧・分散型太陽光発電」スキーム組成に向けて着手。同時期に、この先進的な取り組みを花王の購買部門にご紹介したところ、強い関心を示していただき、本格的な協業に向けた議論がスタートしました。
一般的に、発電事業者と電力需要家があらかじめ合意した価格および期間における再生可能エネルギー電力の売買契約を締結する方法を「コーポレートPPA」と呼び、大きく2つに分類されます。電力を利用する敷地内に太陽光発電設備を設置する場合が「オンサイト」、離れた場所に設置する場合が「オフサイト」で、後者はさらに、物理的な電力と環境価値をセットで扱う「フィジカルPPA」と環境価値のみを需要家に移転する「バーチャルPPA」に細分化されます。
まずは自己託送による「オフサイトコーポレートPPA(フィジカルPPA)」を花王に当てはめてシミュレーションを実施しました。自己託送による「フィジカルPPA」は発電した電力を全量自家消費することを前提としているため、太陽光発電設備の容量設定には休日や祝祭日等の電力の低需要期を考慮する必要があり、再生可能エネルギー導入効果が限定的であることが判明。そのため同年6月より、すみだ事業場で使用する電力全量を「追加性のある再生可能エネルギー」に切り替えるソリューションとして「バーチャルPPA」を用いたスキーム構築に挑むことになりました。
- ※1 再生可能エネルギー電力の調達により、再生可能エネルギー設備の建設・投資がされ、世の中に再生可能エネルギーが増加すること
- ※2 一般送配電事業者が管理する送配電ネットワークを通して、オフサイトで発電された電力を供給する方式のこと

SOLUTION
〈みずほ〉一丸となり、環境価値の将来性と徹底的に向き合う。金融機関初となる電力供給スキームを確立。
本案件で〈みずほ〉から花王にご提案した「バーチャルPPA」は、米国大手企業を中心に急速に拡大している再生可能エネルギー電力の調達方法です。一方、日本では2022年4月の制度変更により取り扱いが可能になった新しい手法となります。しかし、環境価値価格が大きく変動するといった課題があり、国内では2MW程度の小規模案件での活用に留まっていました。〈みずほ〉は、この状況に風穴を開けるべく、大規模案件でも環境価値価格の変動リスクを低減できるよう、FIP(Feed–in Premium ※)と呼ばれる再生可能エネルギーの導入を促す制度を活用。これにより、花王の期待に応えるスキームを構築しました。
実際のご支援にあたっては、みずほ銀行が全体をコーディネート、みずほリースが設立して匿名組合出資を行う特別目的会社(SPC)が発電事業者となり、16ヵ所に新設する合計15.6MWの太陽光発電所を取得・運営します。また、本プロジェクトで重要な役割を果たしたのが、東京大学発のスタートアップ企業であるデジタルグリッドです。もともとデジタルグリッドはFIPを活用し、環境価値代金の精算方法に工夫を加え、需要家の購入する環境価値価格の変動を抑える包括的な取引スキームとして「Green Purchase Agreement(GPA)®」を提供しており、デジタルグリッドをパートナー企業とすることで、①環境価値と切り離した電力の卸売市場への売電、②花王への環境価値(非化石証書)の提供、③AIによる発電予測や需給管理および資金決済といったワンストップのスキームを実現しました。
本プロジェクトは、国内での前例が存在しなかったため、花王社内の関係者から理解を得ることに多くの時間を要しました。特に20年におよぶ長期契約かつ中長期的な収支見通しを立てにくい「バーチャルPPA」を用いていたため、同社から将来の電力価格や環境価値の見通しについて多くの質問をいただきました。そこで、しっかりとご理解いただくため、みずほリサーチ&テクノロジーズや産業調査部といったグループ内の知見を結集。「再生可能エネルギー電力需給量」「各種環境価値クレジット価格」といった論点について、ディスカッションを行い、社内の理解醸成をサポートしました。
- ※発電事業者が市場価格で売電する際、補助金(プレミアム)を上乗せすることで市場変動の影響を抑制し、基準となる単価で売電できることを目的とするもの。

RESULT
日本の再生可能エネルギー導入はまだ序章。「バーチャルPPA」活用で、サステナブルな社会実現を加速させる。
花王との議論スタートから約10ヵ月間という短期間で複雑なスキームを構築し、2023年4月、同社との「バーチャルPPA」契約を締結に至りましたが、検討段階から、〈みずほ〉だけでなく花王も、金融機関が発電主体者となる前例のないスキームを用いた国内最大規模の「バーチャルPPA」実現がもたらす社会的意義に着目していました。
本案件は同社のSX支援に留まらず、環境価値の将来性を踏まえた日本国内におけるバーチャルPPAの普及に向けた足掛かりとなるものです。さらに、同社が強く意識していた「追加性」の観点からも、社会全体の再生可能エネルギーの普及・拡大に寄与する好事例になりました。その新規性が注目を集め、複数のメディアで取り上げられ、〈みずほ〉に数十社の企業からお問い合わせをいただく等、想定していた以上に多くの反響をいただいています。
花王のすみだ事業場での使用電力は、以前から非化石証書を活用した実質的な100%再生可能エネルギー化を達成していましたが、本案件により、順次「追加性」のある再生可能エネルギーに切り替えていきます。発電量は、同事業場の年間使用電力の108%にあたる、約16,200,000kWhを見込んでおり、年間約7,336トンのCO2排出量削減に貢献。余剰電力は、同社の別拠点での使用も検討しています。更なる再生可能エネルギーの活用に向けて、今後も同社と議論を継続していきます。
「脱炭素」という非常に大きな目標を達成するために、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入は、今後ますます求められる手法です。〈みずほ〉は、これからもあらゆる社会課題の解決とお客さまの持続的な事業発展の両立と、サステナブルな世界の実現をめざしていきます。

“ お客さまの声 ”
本バーチャルPPAは、2022年に花王の茅場町本社で導入した「コーポレートPPA(フィジカルPPA)」に続いて、花王では国内2例目のPPAになります。今回は「コーポレートPPA(バーチャルPPA)」のメリットのひとつである"追加性のある再生可能エネルギー電力を柔軟に調達できること"を最大限いかすため、国内最大規模での導入を検討できたこと、大変感謝しております。また法規および会計に関する確認事項においても、ご支援いただき、不備なく意思決定の場に提案することができました。花王は、今回の契約のみならず、今後も追加性のある再生可能エネルギー電力のさらなる導入拡大を進めてまいります。
花王株式会社
-
購買部門 間接材戦略ソーシング部 部長
大河内 秀記さま -
購買部門 間接材戦略ソーシング部 課長補佐
加藤 宏和さま
“ 〈みずほ〉の声 ”

本案件は、金融機関が当事者となった本邦初の「バーチャルPPA」であり、日本ではこれから普及が期待される再生可能エネルギー調達手法です。制度変更に迅速に対応し、国内では前例のなかった複雑なスキームを構築するにあたり、環境価値の将来見通しや法務・会計面等、様々な観点で検証していく必要がありました。花王さまの社内で、導入に向けて根気強く対応いただいた担当者の皆さまには、心から感謝しております。契約後にいただいた「世の中に『バーチャルPPA』を広めるべく、他社にもぜひ展開して欲しい」という言葉が強く印象に残っています。自社だけでなく、社会にとっても価値のあることを実現するという、花王さまの高い志を改めて実感しました。数年前までは、金融機関が電力供給に携わることは考えられないことでしたが、本案件を通して、〈みずほ〉のネットワークがあれば金融を超えた支援もできることを証明できたと思います。今後も再生可能エネルギーに限らず、社会が抱える様々な課題に対して、適切な打ち手を検討し、メガバンクとしての新しい存在意義を見出してまいります。
- みずほ銀行
-
-
情報通信・リテール第一部
流通・生活用品第一チーム
伊野 圭佑 -
コーポレート&インベストメントバンキング業務部
価値共創チーム
皆本 哲宏
-
情報通信・リテール第一部
※記事の内容は、取材当時のものです