メイン画像:Ocean Winds / Banque des Territo(SX事例)
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電力・エネルギー

再生可能エネルギー拡大のカギは洋上風力発電。「ノンリコースローン」を切り札に、アジア展開をにらむ。

Ocean Winds / Banque des Territoires

#カーボンニュートラル #風力発電 #プロジェクトファイナンス

洋上風力発電に強みを持ち、ヨーロッパを中心に事業を行うOcean Winds。同社がフランスの公的金融機関であるBanque des Territoiresとともに取り組む、フランスでの新たな浮体式洋上風力発電開発プロジェクトに、みずほ銀行はリードアレンジャーならびにドキュメンテーションバンク(銀行団を代表して、融資関連契約の調整、交渉を担当する銀行)として参画。みずほ銀行は、急速な拡大が見込まれる浮体式洋上風力発電の分野において、ほとんど前例がないファイナンス手法に挑み、プロジェクトの成功に貢献。今後は、アジアでの再生可能エネルギーの拡大にも取り組んでいきます。

Project Flow

プロジェクトフロー図:Ocean Winds / Banque des Territo(SX事例)

ポルトガルで先行協業していた浮体式洋上風力発電案件での取り組みが評価され、フランスにおける本案件でもみずほ銀行は引き続きプロジェクトファイナンスに参画。ストラクチャリング力や浮体式洋上風力発電に関する知見を総動員することで、この分野で前例のない「ノンリコースローン」を組成しました。

CHALLENGE

時代に先駆けたプロジェクトで、持てる力を最大限に発揮。次なる舞台でもキープレイヤーとして続投。

本案件に先立ち、2016年にポルトガルのEDPRやフランスのENGIE等による合弁会社が、ポルトガルでの浮体式洋上風力発電「Wind Float Atlanticプロジェクト」に取り組んでいました。このとき、各国の銀行に対して参加を募るアプローチがありましたが、当時はまだ再生可能エネルギーを用いたトランジション(持続可能な社会への移行)の流れが今ほど大きくなかったこともあり、積極的に手をあげる銀行は少数。その中で、新しい技術にきちんと向き合い、真摯に対応したため、みずほ銀行はポルトガルでのプロジェクトメンバーに迎え入れられました。
みずほ銀行は、風力発電設備が生み出すキャッシュフローやリスク検証を目的としたデューデリジェンスおよびモデル業務における重要な役割を担い、プロジェクトが内包する様々な潜在的リスクに対する軽減策の策定に貢献しました。残念ながら、この「Wind Float Atlanticプロジェクト」では民間銀行が参画する形でのプロジェクトファイナンスの組成そのものは断念する形になりましたが、みずほ銀行のストラクチャリング力や浮体式洋上風力発電に関する豊富な知見を評価いただきました。
その後、EDPRとENGIEは合弁会社としてOcean Windsを設立し、さらにBanque des Territoires(フランス預金供託公庫グループ地域公庫)からも出資をする形で、Les Eoliennes Flottantes du Golfe du Lion(以下、EFGL)が誕生。2016年11月、EFGLが事業者として選定され、フランスのルカート沖でも浮体式洋上風力発電の開発を推進することになりました。みずほ銀行は、前述のポルトガルでのプロジェクトにおける取り組みがEDPRとENGIEにより評価され、2021年7月、本案件におけるリードアレンジャーならびにドキュメンテーションバンクに就任。浮体式洋上風力発電に協調融資するためのプロジェクトファイナンス組成に向けて、Ocean Windsとみずほ銀行が手を組むことになりました。

イメージ画像1:セミサブ型浮体風車の海上部分イメージ
セミサブ型浮体風車の海上部分イメージ

SOLUTION

未知の要素を含む、プロジェクト第二弾が始動。ポルトガルで得た知見も総動員し、苦心を重ね難題をクリア。

本案件では、「ノンリコースローン」を用いた融資をご提案しました。これは特定事業の収益(責任財産)のみからご返済いただく方法で、該当事業が上手くいかなかった場合は、それ以外の事業に対して債権の取り立てが及ぶことはありません。そのため、金融機関側からすると通常の融資以上に慎重な事業性の見極めが求められる反面、借り手側には該当事業に対して金融機関のお墨付きを得られるというメリットがあります。別の融資方法として、借り手の他の事業にも返済義務が及ぶ「リコースローン」もありましたが、前述のメリットを踏まえ、「ノンリコースローン」が採用されました。
今回取り組んだ浮体式洋上風力発電は、浮体設備と風力発電設備の組み合わせにおいて商用規模での操業実績がほとんどなく、その点が事業性を見極めるうえで最大のリスクでした。具体的には、電源としての安定性やメンテナンス費用等が不明であったため、ポルトガル案件で得た知見をいかして案件理解を深め、審査担当者向けには技術コンサルタントによるレクチャーの機会を設けるといった対応を取りました。
また、みずほ銀行はリードアレンジャーとして、他の民間金融機関や欧州投資銀行、EKF(デンマーク輸出信用基金)から構成される銀行団とともに条件交渉や提案を実施。特に、ストラクチャリングにおける技術精査の反映には苦心しました。ドキュメンテーションバンクとしては、融資契約書および条件交渉の取りまとめを担当。プロジェクトを進めていく中でロシア・ウクライナ情勢に端を発する金融情勢の変化にも考慮する必要が生まれる等、純粋な技術リスク以外の面でも非常にチャレンジングな取り組みになりました。

イメージ画像2:セミサブ型浮体風車の海中部分イメージ
セミサブ型浮体風車の海中部分イメージ

RESULT

浮体式洋上風力発電における、待望のファイナンススキームが完成。同種事業でパイオニアの地位を確立。

多国籍チームで検討を進めた本案件で、みずほ銀行は電力事業への知見とプロジェクトファイナンスの実績をいかんなく発揮。商業化されていない浮体式洋上風力向けの「ノンリコースローン」であるという観点で、世界的に見てもほとんど前例のない革新的なファイナンスストラクチャーの組成に成功しました。これは今後数年間にわたり、同種事業向け「ノンリコースローン」ファイナンスの雛型になることが見込まれます。
着床式を含む世界の洋上風力発電の市場全体では、2017年以降、極めて急速な成長を遂げており、2020年末時点の発電容量は35GWを記録。2030年までに、270GWまで成長するとの見方もあります。しかし浮体式に限ると、2020年末時点での世界の洋上風力発電容量は73MWで、まだまだ発展途上です。特に遠浅の海域が少ない日本では、支柱を海底に固定する着床式ではなく、水深の深い海域に適した浮体式洋上風力発電の導入拡大が重要とされています。
今回、浮体式洋上風力発電プロジェクトの先駆けとして、将来の市場成長に向けた大きな足がかりを築くことができました。今後は、欧州だけでなく、アジアにおいても同様の取り組みを加速し、風力発電ひいては再生可能エネルギー全体のさらなる普及に取り組んでいきます。

イメージ画像3:波の影響を避けるように、半潜水状態にした浮体部分イメージ
波の影響を避けるように、半潜水状態にした浮体部分イメージ

“ お客さまの声 ”

Ocean Windsでは、2025年までに建設中および稼働中の洋上風力発電案件を5〜7GWまで、開発中案件としては5〜10GWまで拡大するという戦略目標を掲げています。今回のEFGLプロジェクト等における浮体式洋上風力発電の技術は、私たちの目標を達成するためのカギであり、世界中の洋上風力発電の可能性を最大限に引き出すというOcean Windsのビジョン実現に向けた戦略の一つです。浮体式洋上風力発電をはじめ、新エネルギー技術に対する〈みずほ〉さまの情熱や専門性には一目置いており、今後もプロジェクトファイナンスにおける手腕や幅広いグローバルネットワークをいかし、アジアを含む世界の洋上風力分野での更なるサポートを期待しています。

Ocean Winds

  • Structured and Corporate Finance Director
    Ernesto VARGAS–ESPINOSAさま

“ 〈みずほ〉の声 ”

〈みずほ〉担当者画像:Ocean Winds / Banque des Territo(SX事例)

本案件では、ポルトガルとフランスの2ヵ国にまたがるスポンサーであるOcean Windsさまから信頼を得て、〈みずほ〉の総合力とグローバルネットワークをいかして伴走しました。ポルトガルの案件から通算約6年の検討期間を経て、商業化されていない浮体式洋上風力発電向けのプロジェクトファイナンスをなんとか組成することができました。また、日本における再生可能エネルギーの発展に寄与する意義ある取り組みにもなり、直接関与できたことを大変光栄に思っています。〈みずほ〉では、プロジェクト初期段階から将来の商業化を見据えたサポートも可能です。「商業実績がない」「案件が固まっていない」「準備が整っていない」といった場合でも、まずはご相談いただける銀行でありたいと思います。

みずほ銀行
  • プロジェクトファイナンス営業部
    笹森 健太郎

※記事の内容は、取材当時のものです

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