異業種3社のシナジーで新たな価値の創造をめざす。マーケティングプラットフォーム開発の舞台裏。
2025年1月20日
- BKみずほ銀行
OVERVIEW
2024年1月、株式会社サイバーエージェント(以下「CA社」)、株式会社フライウィール(以下「FW社」)、みずほ銀行の3社はマーケティングプラットフォーム事業に関する戦略的業務提携を発表。広告事業の創出やデータサイエンスを活用した分析の高度化、個人情報の保護等に取り組むことを掲げ、2024年10月、提携目的の一つである広告事業の創出として「Mizuho Insight Interactive LinX (以下「Mi–Int LinX」:ミントリンクス)」の提供を開始しました。このような協業はいかにして生まれたのか。各社のメンバーに今回の協業で得られたものや、この3社で新しいビジネス創出をめざす理由、広告サービスの内容とその展望について聞きました。
INDEX
本当に求められる情報を届ける。
〈みずほ〉発の広告事業「Mi–Int LinX」。
個人のお客さまのニーズが多様化する中、一人ひとりに最適な商品やサービスを届けるために、マーケティングの高度化が求められています。そのような中、2021年11月施行の改正銀行法により、銀行本体の事業として銀行業の経営資源を活用して営む業務が新たに追加され、広告・システム販売・人材派遣等の事業を通じて、法人のお客さまの様々な課題に一層応えることが可能になりました。こうした背景のもと、みずほ銀行はCA社、FW社とともに2024年10月7日から広告サービスとそれに付随する分析/プランニング支援のサービス「Mi–Int LinX」の提供を開始。このサービスでは、みずほ銀行のATMコーナーに設置されたINFORICH社が提供するモバイルバッテリーのシェアリングサービス「ChargeSPOT®」のデジタルサイネージを活用して、エリアに合わせた広告を配信するとともに、お客さまの居住エリアや興味・関心に基づいて、最適な商品やサービスをダイレクトメールで案内。その上で、広告のみに留まらず効果測定や戦略の企画等、法人のお客さまのマーケティング高度化を支援するサービスとなっています。今回「Mi–Int LinX」の開発を担当したみずほ銀行の平間・大塚、CA社の友清氏・奥野氏、FW社の小西氏・中右氏の6名にインタビューを実施し、サービス開発の舞台裏について話を聞きました。
左から中右 卓也氏(フライウィール)、小西 敦士氏(フライウィール)、友清 悠太氏(サイバーエージェント)、奥野 遼祐氏(サイバーエージェント)、大塚 正太郎(みずほ銀行)、平間 宏明(みずほ銀行)
異業種の3社だからこそのシナジーを追求。
メンバーが語る協業のきっかけ。
─今回の協業はどのような形でスタートしたのでしょうか?
平間(みずほ銀行):2018年頃から法人のお客さまに対するデータビジネスの一環として広告事業を検討していましたが、〈みずほ〉の広告に関するケイパビリティや規制等の制約から銀行単独での事業化は難しいと感じていました。そのような中、銀行法の改正を受け、特に我々が実現したいと考えていた「データアドバイザリー事業と連携したマーケティング支援事業」構築の検討を開始し、CA社AI事業本部との協業が最も理想に近い形でサービス提供を行うことができると考え、協業を開始しました。
友清氏(CA社):デジタル広告はGoogleやMeta等の主要な広告プラットフォーマーが保有するデジタルデータの活用を中心としたサービス利用が主流で、ファーストパーティデータ(企業が自社で保有するお客さまデータ)に関しては、マーケティングに十分活用できていないという課題がありました。AI事業本部では、データから新たな価値を創出することに取り組んでおり、特に金融データやオルタナティブデータ(財務情報や経済統計といった金融領域で従来使われてきた公開情報以外のデータの総称)に注目していたことから、みずほ銀行との協業が開始しました。
大塚(みずほ銀行):FW社との協業は、世の中の潮流としてデータを利活用するにあたり、より一層の安心・安全な取り組みが重要視される中、〈みずほ〉でビジネスとガバナンス双方を両立させることのできる先進的な取り組みを構想して協業を開始しました。
小西氏(FW社):今回、〈みずほ〉とお取引する個人のお客さまの情報を利活用するにあたり、安心・安全な枠組みを構築しつつ広告サービスの価値向上を実現するといったトレードオフを両立させることが肝でした。この難題に対して、当社のデータ活用プラットフォーム「Conata® (コナタ)」を活用することで、同意管理を一元化しスムーズに施策活用まで繋げられると考えました。お客さまの同意のもと適切に情報を管理・活用することで、お客さまからの信頼を担保しつつ一層のデータ利活用の推進をご支援すべく参画しました。
─各社の役割を教えてください。
大塚(みずほ銀行):みずほ銀行は本プロジェクトを主体的に企画・推進しています。また、金融データを活かしたセグメント検討や分析ノウハウの共有、広告配信時に問題が起きないよう各種リスク管理を担っています。
友清氏(CA社):CA社は、みずほ銀行と共同で「Mi–Int LinX」の企画・販売・運営を実施しています。また、広告配信システムの開発を行い、〈みずほ〉が運営するオウンドメディア(企業が自社で保有するメディア)や外部メディアへの広告配信、またデータの利活用や広告の効果測定等も担っています。
小西氏(FW社):FW社は、データマネジメント技術と個人情報保護の知見を活かしてお客さまの同意管理とデータの利活用をサポートしており、今後はさらに当社の様々な技術を活用してサービス価値の向上もご支援したいと考えています。
─〈みずほ〉としては、今回の協業でどのような効果が得られることを期待していますか?
平間(みずほ銀行):みずほ銀行単独で、金融事業ではないお客さまのマーケティングをご支援するようなサービスを開発することは難しく、異業種の3社が組むことによるシナジー創出をめざしてきました。
大塚(みずほ銀行):具体的には、〈みずほ〉のデータアドバイザリー業務の知見とCA社の広告知見や事業の立ち上げノウハウ、FW社のデータマネジメント力等が組み合わさることで、ビジネスとガバナンスという、いわば事業の攻めと守りを両立させるサービス体系を整えています。また、広告媒体の販売のみならず、効果測定や次のアクション策定等、法人のお客さまが抱えるマーケティング課題に総合的に応えられるサービスが構築できていると考えています。
企業カルチャーの違いを乗り越え、
新しい視点を提供し合うことで、品質の向上につながる。
─今回の協業での気づいたことや印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
平間(みずほ銀行):CA社、FW社にはクイックにサービス提供をして、課題があれば迅速に改善していく企業カルチャーがあります。一方、多くのお客さまとお取引する〈みずほ〉での新サービスの提供については、早いことが必ずしも最良とは限らず、多くのお客さまに最大価値を提供できるよう品質を重視することがあります。今回の事業開発は〈みずほ〉の方針を重視したこともあり、CA社、FW社はそのカルチャーの違いに難しさを感じたと思います。一方で、我々もご一緒させていただく中でトライアンドエラーを行い、アジャイルに考え方を変えていく重要性に気づくことができ、当初検討していた事業内容から何度も見直しを行い、現在のサービスにたどり着きました。
奥野氏(CA社):平間さんが言うように、当初はお互いの進め方に違いを感じることが多く、自身のアウトプットが相手の業界や立場に立ったものであるかを、しっかりと考える必要があると痛感しました。現在は「誰よりも銀行員らしいですね」と声をかけていただけるほど、みずほ銀行の考え方やマインドが染み付いたと思っています。「相手の立場に立って物事を考える」という当たり前でありつつ難しいことを、実務の中で体現できたことが自分にとっての大きな学びです。
小西氏(FW社):今回、0から1を作り上げる中、みずほ銀行の皆さんが様々なステークホルダーとコミュニケーションを積み重ねているのを目の当たりにして、社会の公器となる銀行だからこそ、様々な立場の人たちに対する配慮や説明責任が必要なのだと実感し、非常に学びが深かったです。
中右氏(FW社):特に、個人のお客さまに対するみずほ銀行の向き合い方を通して、個人情報保護の重要性を再認識することができ、データマネジメント技術の更なる向上に取り組むきっかけになりました。
─3社でプロジェクトを進める上で特に大変だったのはどの様な点でしょうか?
平間(みずほ銀行):〈みずほ〉のパーパス「ともに挑む。ともに実る。」は、全てのステークホルダーの視点に立ち、その発展に貢献するべく、妥協なく全力を尽くすことだと考えています。この考えの下、法人のお客さまが求める水準のサービスを提供できるか、個人のお客さまが安心できるガバナンスを構築できるか、協業先とともに発展しうるかを思案してプロジェクトを推進しました。PoCで小さく事業を始めるのであれば、多大な労力と時間を要さなかったと考えますが、多くのステークホルダーへしっかりとした付加価値を提供すること、それに伴い発生しうるリスクをしっかりと防止することをめざしていたため、プロジェクトの舵取りを行うことは非常に大変でした。これを乗り越えるために、〈みずほ〉のリスク管理部署に協力を仰ぎつつ、実効性や実現性を確保する観点で、CA社、FW社のみならず多くの協業パートナーにも協力いただく等、本当に全員の頑張りがあったからこそ、高い目標を乗り越えることができたと思っています。
奥野氏(CA社):慎重なアプローチや独自のガイドライン等、広告業界とは認識やカルチャーが全く異なるので「当たり前」のすり合わせに苦労しましたが、異業種だからこそ新しい視点を提供し合うことで、プロジェクトの質の向上につなげられたと思います。
中右氏(FW社):各社の業界特有の知識や文化の違いを理解し、共通の目標に向かって進むためには時間と労力が必要でしたが、専門分野も踏まえながら役割分担を明確にすることで、各社の強みを最大限活かせるようにしました。
「三方良し」の実現と、金融業界が一体となった、
より質の高いサービスの創造をめざして。
─「Mi–Int LinX」の今後の展開や目標について教えてください。
友清氏(CA社):まずは、〈みずほ〉のお客さまに価値ある情報をお届けすることを一番に、金融データと当社のAI技術を組み合わせることで真にお客さまのニーズに合致した広告の配信を実現し、法人のお客さまに貢献し続けたいです。
奥野氏(CA社):個人のお客さまが探している情報を把握し、法人のお客さまがお届けしたい情報とマッチさせることで適切な情報のご案内ができ、結果として本協業に携わる各社がその対価を享受する。そのような「三方良し」が実現できるサービスになると良いと思います。また、みずほ銀行の方々をはじめプロジェクトメンバーがお客さまに安心いただけるプロダクトを作りたいと尽力しているのを間近で見てきたので、誠実に作ったものが評価される広告業界をめざしたいです。
小西氏(FW社):これまでは0から1を作るところで産みの苦しみがありましたが、これからは1を10や100に拡大していくフェーズです。この人と一緒に仕事をしたいという想いがあったからこそ、産みの苦しみを乗り越えて今があるので、その信頼を元にこれまで培った資産を拡大していきたいです。
中右氏(FW社):FW社としては今回の経験をもとに、同意管理の枠組みの高度化や最適なチャネルでの同意管理をご支援し、個人情報保護を強化しながら、より多くのデータ利活用を推進できればと考えています。
平間(みずほ銀行):プロジェクトの立ち上げ当初は、データアドバイザリー事業と連携したマーケティング支援事業をめざしていましたが、2024年1月に公表した通り、マーケティングのご支援を求めるお客さまのみならず、〈みずほ〉と同じように広告事業等の創出を検討している事業者もいると考え、本事業をプラットフォームとして提供することを構想し始めています。今後は新たなメンバーにバトンタッチをして、実際にサービス提供をしながら、マーケティングプラットフォームの構築など様々なお客さまのニーズにお応えできるよう、持続的な事業開発をすることが重要だと考えています。
大塚(みずほ銀行):当面は、CA社・FW社とともにデジタル広告等の新たなサービス開発を行いつつ、業務提携という枠組みを最大限に活かして、「Mi–Int LinX」による広告サービスのご提供、CA社のAI技術やFW社のデータマネジメント技術をご提供することにより、3社でオーダーメイドに法人のお客さまのご要望にお応えしていきたいと考えています。また今後、広告業界はサービスの転換や規制の見直し等により変革が進むのではないかと考えており、そうした中、マーケティングプラットフォームの構築による事業者連携や他のサービス開発を検討していきたいと考えています。「Mi–Int LinX」を中心に、多くの事業やサービスを相互リンクさせて、銀行・広告業界の新たな未来を創造する。そのためのサービス提供や事業開発を引き続き行なっていきます。
インタビューの間、エピソードとともに多く語られた「お客さまの安心に誠実に向き合う」という〈みずほ〉の姿勢と想い。そのような強い想いが共有されて、3社がともに新しいことに挑戦する原動力となっています。〈みずほ〉は今後も「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスのもと、CA社、FW社とともに「Mi–Int LinX」の発展に向けた協業を継続し、安心・安全な枠組みを構築しながら質の高いマーケティング支援を提供していきます。
PROFILE

みずほ銀行
デジタルマーケティング部ビジネスディベロップメントチーム マネージャー
平間 宏明
2011年に株式会社みずほ銀行に入行。法人営業・リスク管理・従業員組合を経て、2019年8月からデジタルマーケティング部に所属し、本事業の立ち上げを推進。

みずほ銀行
デジタルマーケティング部ビジネスディベロップメントチーム マネージャー
大塚 正太郎
2012年に株式会社みずほ銀行に入行。法人営業・システムリスク管理・IT戦略企画等を経て、2024年にデジタルマーケティング部に配属。広告領域の新規事業創出に従事。

株式会社サイバーエージェント
AI事業本部 協業DXディビジョン マネージャー
友清 悠太 氏
SIerにて法人営業の経験を経て、2015年にサイバーエージェントに入社。アドテク/AI事業領域にて営業、オペレーション業務、事業責任者等を経験。2022年9月から本プロジェクトのサイバーエージェント側の責任者として従事。

株式会社サイバーエージェント
AI事業本部 協業DXディビジョン
奥野 遼祐 氏
デジタル広告専業の代理店で広告運用コンサルとしてキャリアをスタートし、2022年にサイバーエージェント社に入社。代理店時代の経験を活かした広告商品の企画、設計、運用等の業務を担当。

株式会社フライウィール
データソリューション本部 Senior Business Development Manager
小西 敦士 氏
2020年1月に入社。金融、流通・小売業界、通信業界向けにデータ活用のためのコンサルティング、ソリューションを提供。前職の大手SIerでは、日本市場、欧州市場において顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進した経歴を持つ。

株式会社フライウィール
データソリューション本部 Business Development Manager
中右 卓也 氏
2023年4月に入社。1st Party Dataを活用した生成AIのパーソナライズや大手私鉄の広告配信プラットフォーム開発のプロジェクト推進を担当。以前は株式会社宣伝会議にて大手事業会社に向けたプロモーション/ブランディング支援や広告領域の新規事業開発に従事。
※所属、肩書きは取材当時のものです。
文・写真/みずほDX編集部
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