金融レポートの「当たり前」を変える。〈みずほ〉×ミンカブが挑む、AIによるマーケットレポート作成サービス「Robot Report AI」
2026年5月12日
- FGみずほフィナンシャルグループ
- TBみずほ信託銀行
OVERVIEW
2023年12月に政府が公表した「資産運用立国実現プラン」は、投資信託業界に大きな変化をもたらしました。投資信託の受託業務においてプレゼンスを高めるチャンスが広がる一方、運用会社や受託銀行には、これまで以上に付加価値の高い情報提供と業務品質の向上が求められています。
〈みずほ〉では、この潮流を捉え、AI/DXによる投資信託業務の付加価値向上に取り組んでいます。その取り組みのひとつが、今年2月に正式ローンチを発表したミンカブ・ジ・インフォノイド社(以下「ミンカブ」)との協業で開発する次世代マーケットレポート作成サービス「Robot Report AI」です。
本記事では、開発をけん引したミンカブの田島氏、齊藤氏と、みずほ信託銀行の松崎、小林の4名にインタビューを実施し、「Robot Report AI」が生まれた背景からPoCの成果、協業の舞台裏、今後の展望等について話を聞きました。
INDEX
「資産運用立国」時代に、レポート業務はどう変わるべきか
─はじめに「Robot Report AI」の概要と、開発背景について教えてください。
松崎:「Robot Report AI」とは、投資信託の運用報告書や市場の解説等、金融機関で日々大量に作成されるレポートをAIが自動生成する「汎用レポーティングAI基盤」です。
開発の背景には、投資信託業務を取り巻く環境の大きな変化があります。2023年12月の「資産運用立国実現プラン※」公表を機に投資信託市場が拡大し、投資家の方へ運用状況を伝えるレポートの重要性がかつてなく高まりました。
※2023年12月に政府が公表した、家計の貯蓄を投資へと促し、企業の成長と国民の資産所得増による「成長と分配の好循環」をめざす包括的政策。
その反面、運用会社さまは膨大なレポート作成業務に追われているのが実情です。そこで私たちが信託銀行として、運用会社さまの「運用」という本業をサポートし、新たな付加価値を提供できないかと考え、着目したのが「レポート作成業務の効率化」だったのです。
─なぜ数ある業務の中で、「レポート作成」に着目したのでしょうか。
小林:運用会社さまの本来の業務は、お預かりした資産を育てる「運用」そのものです。しかし現実には、運用経過やその背景を伝えるレポート作成に、現場のプロが膨大な時間を費やしています。

小林 克行(みずほ信託銀行)
このレポートは投資判断に関わるため「極めて高い正確性」が求められます。同時に専門知識がない方にもわかりやすく、スピード感を持って届ける必要があります。この高度な両立が求められる点に難しさがあります。
運用会社さまのシステムは高度化されており、レポート作成に使用する数値データ自体はすぐに用意できます。しかし、お客さまにお伝えしたいことは数値データだけではなく「なぜその結果になったのか」という背景です。
この数値データと運用経過を結び付け、お客さまに伝わる文章にする工程に、最も時間がかかっていました。具体的には、背景となる経済ニュースを収集して下書きし、複数の担当者で度重なるチェックが必要でした。
新NISA制度の開始をはじめ、投資環境の変化を機に個人投資家の情報ニーズが急増しているにもかかわらず、この工程には、どうしても人の手が介在せざるを得ません。ここをテクノロジーで短縮できれば、より多くのお客さまへタイムリーに質の高い情報を提供できる。私たちにはそのための解決策が必要でした。
「嘘のないデータ」を持つパートナーとの出会い
─どのようにミンカブとの協業へ至ったのでしょうか。
松崎:課題は明確でしたから、それを打開するパートナーを探していました。その折に出会ったのがミンカブさんです。
マーケットデータの提供実績が豊富で、正確かつ膨大なニュースソースを自社で保有していました。AIに市況をまとめさせる際、ネット上のニュースを無断で拾うと、どうしても著作権等の権利問題が生じます。しかし、信頼できる「一次データ」を持つミンカブさんと協業すれば、その壁をクリアできると考えたのです。
─ミンカブとしては、どのような構想を持ってこのプロジェクトに臨んだのでしょうか。

左から齊藤 信哉氏、田島 暁雄氏(ミンカブ・ジ・インフォノイド社)
齊藤氏:私たちは情報ベンダーとして、〈みずほ〉さんをはじめ金融機関へ長年マーケットデータを提供してきました。AIの進化を受け、当社の膨大なマーケットデータを活用してレポート作成業務を効率化・自動化できないかと構想を温めていたのです。
ただ、私たちベンダーだけで開発しても「実務で使えるシステム」にはなりません。金融機関の実務担当者のリアルな声を取り込みたいと考えていた絶好のタイミングで、〈みずほ〉さんからお声がけをいただきました。
田島氏:AIにレポートを書かせる際、金融業界で最大のリスクとなるのが「ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)」です。ネット上の情報を無作為に拾わせると、不正確なニュースが混入する危険性があります。
しかし、当社の株式情報専門メディア「株探」には、「どの銘柄がなぜ動いたか」といった事実確認済みのニュースが毎日数百本も蓄積されています。ここに嘘のニュースが紛れ込む余地はありません。この「確かな一次データ」をAIの基盤に据えれば、確度の高いレポートが書ける。私たちが持つデータを使わない手はない、というのが開発の出発点でした。

Robot Report AIの概要図
─そこから、実際のシステム開発はどのように進められていったのでしょうか。
田島氏:開発当初、最初に直面した壁は「AIは計算が苦手」という問題でした。AIは万能と思われがちですが、開発を始めた当時の性能では、数値をそのまま渡して計算させると平気で間違った答えを返すことがありました。
そこで「数値計算は専用プログラムに任せ、AIは文章作成に専念させる」という役割分担に切り替えました。現在でこそLLMの計算能力も向上し、AI自ら計算プログラムを呼び出せる仕組みになっていますが、当初はこの切り分けが必要だったのです。
─AIにすべてを任せるのではなく役割を切り分けたのですね。
田島氏:はい。ただ、次の壁は「月に1万本以上配信されるニュースから、どう正解を選ぶか」でした。
AIがピックアップしたニュースが実務の観点で正しいのか、システム開発者である私たちには判断できません。そこで〈みずほ〉さんからの助言を受け、AIにいきなり探させるのではなく、まずは人間が「相場の大きな局面」をAIに教え込むプロセスを組み込みました。
小林:運用現場がレポートで本当に伝えたいのは、日々の細かい値動きではなく、相場の「大きな流れ」なのです。そこで、「この期間は総じて上昇局面だった、ここからの期間は総じて下落局面だった」という運用現場が考える「大きな流れ」の捉え方をAIに学習させることで、それに沿ったニュースをAIに探してもらう形にしました。さらに、AIが生成した文章には元ニュースのリンクをひも付け、人間が即座に事実確認(ファクトチェック)できる仕様に仕上げていただきました。
「自分の書き方にそっくりだ」PoCが証明した、AIレポートの実力
─システムの土台が完成した後のPoC(概念実証)では、レポート実務の現場からどのような反応がありましたか?

松崎 亮(みずほ信託銀行)
松崎:実際にレポートを作成している部署で試用したところ、「自分が作るものとほぼ同じだ」と好評で、作業時間の大幅な削減が見込めただけでなく、レポート作成時に求められる正確性や表現の基準に照らしても十分なクオリティであることが確認できました。
小林:現場の過去のレポートをAIに大量に学習させた効果も大きかったです。
運用会社さまのレポート実務担当者が書く文章は断定を避け、「こういうシナリオもあり得る」と多角的な視点を示します。この独特のニュアンスまでAIが再現し、担当者本人が「自分の書き方にそっくりだ」と驚くほどでした。
ただ、私たちにとって最も重要だったことは、単なる時間削減や精度の高さではありません。「これなら大切なお客さまにお出ししても大丈夫だ」と、レポート実務の現場が肌感覚で安心できることでした。いくらテスト結果が良くても、金融機関の実務はそれだけでは動きません。
「自分たちの業務を本当に任せられる」という確かな実感を得られたことが、PoCでの最大の収穫でした。
─PoCを経て、今年2月には正式ローンチに至りました。改めて、開発プロセスにおいてお互いの強みがどう生きたと感じていますか?
田島氏:一言で言えば、〈みずほ〉さんが「高い現場業務の解像度」を持っていたことです。私たち開発陣がAIで「一見するとそれらしい文章」を作っても、レポート実務の担当者から見ると「見当違い」であるリスクが常にあります。「レポート実務の担当者ならこの局面でどの経済指標を重視するか」といった判断は、金融実務の蓄積がない私たちだけではできませんから。
松崎:毎週の定例ミーティングでは、実際の画面を見ながら「現場の感覚」とズレがないか、対話を重ねてすり合わせていきました。私たちはAIの専門家ではないので、無茶な注文も多かったと思います。
しかし驚いたのは、ミンカブさんの圧倒的な開発スピードです。修正をお願いすると、翌日には「直しました」と返ってくる。少し仕様を変えるだけで何ヵ月もかかるのが当たり前だった金融機関の常識からすると、これが本当の「アジャイル開発」か、と身をもって実感しましたね。

田島氏:私としても、〈みずほ〉さんの指摘が常に「具体的」だったのは本当にありがたかったです。開発者が一番困るのは「なんとなく違う」という曖昧な指摘です。〈みずほ〉さんは「現場はこう考えるから、この情報が必要だ」と理由が明確でした。だからこそ私たちも迷わず手直しに集中でき、翌日にお返しするスピード感が出せたのです。
齊藤氏:エンドユーザーである現場の声をリアルタイムに取り込みながら開発できたことが、このプロジェクト最大の強みです。システムやデータは私たちから提供できても、レポート業務のプロからのフィードバックがあって初めて「実務で使えるサービス」になります。その理想的な協業体制を構築できたことが大きかったですね。
効率化はゴールではない。「Robot Report AI」がめざす未来
─「Robot Report AI」の今後の展望やサービス展開について教えてください。
齊藤氏:今回構築した基盤を、ほかの業務領域にも広げていきたいと考えています。今回、〈みずほ〉さんと現場目線で泥臭くシステムを磨き上げ、「これなら実務で使える」という確かな信頼を得ることができました。この実績を活かし、証券会社や銀行等、幅広い金融機関のレポート業務を支えるプラットフォームとして展開していきたいですね。
田島氏:技術面のテーマは、「進化するAIをいかに現場レポート実務の担当者にとって使いやすくするか」です。最新のAIモデルを搭載すれば文章の質は上がりますが、その分処理には時間がかかります。そのため今後は、「スピード重視」と「時間をかけた高品質」等、利用シーンに応じて使い分けられる形を追求したいです。実務に根ざした的確な視点がある限り、私たちのサービスはさらに進化し続けると確信しています。
松崎:みずほ信託銀行の社内でも、すでに他部署から「自分たちの業務にもこのAIを活用できないか」という声が上がり始めています。レポート作成の工数が減れば、その分タイムリーな情報提供が可能になります。テクノロジーの力で、組織全体にそうした好循環を生み出していきたいですね。
小林:その第一歩として、すでに営業活動における具体的な活用も検討しています。例えば、個人のお客さま向けに投資信託を販売する部署に、AIがまとめた「1週間の値動きとその理由」を見せたところ、「アフターフォローに最適だ」と好評でした。
投資信託へ投資する方の裾野が拡がる中、適時的確な質の高いフォローのご提供は急務です。世間ではAIの華やかな側面ばかりが注目されますが、実務への導入は「これならお客さまに出しても大丈夫だ」という安心感を積み重ねる泥臭い作業の連続です。
効率化や工数削減は決してゴールではありません。浮いた時間を使って、投資家の皆さまへより深い分析やきめ細かなフォローをお届けし、安心感と価値ある体験を創出していく。それが私たちのめざす姿です。
インタビューを通して、〈みずほ〉とミンカブが互いの強みを掛け合わせ、投資信託業界の新たな価値創出に挑む熱意を強く感じました。資産運用立国の実現に向けて、〈みずほ〉とミンカブはこれからも挑戦を続けます。
PROFILE
株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド
齊藤 信哉氏
証券会社にて富裕層向けリテール営業に従事し、株式・債券・投資信託等の金融商品の提案・販売を担当。2021年より株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに参画し、セールスおよび新規事業の企画・推進に携わる。
株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド
田島 暁雄氏
流通業向けシステム開発会社を経て、2020年より株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに参画。Amazon Bedrockを利用したAIエージェントの実験、開発およびSaaSの運用と開発を担当する。
みずほ信託銀行
松崎 亮
2008年入行。
カストディ・プロダクツ営業部にて投資受託営業にかかる企画業務からサービス開発まで幅広い領域に従事。
みずほ信託銀行
小林 克行
2017年プロフェッショナル契約でみずほ信託銀行入行。
カストディ・プロダクツ営業部にて機関投資家向けレポーティング等、投資受託営業にかかる企画業務、サービス開発に従事。
※所属、肩書きは取材当時のものです。
文・写真/みずほDX編集部








