イベント検知におけるエラー・メッセージの監視と対応で98%の精度を実現 ─みずほFGがシステム運用監視業務でIBMの生成AIを選択した理由─
2024年8月13日
- FGみずほフィナンシャルグループ
OVERVIEW
みずほフィナンシャルグループ(以下、「〈みずほ〉」)、日本IBM、MIデジタルサービス(MIDS)の3社は、みずほ銀行の大規模システムの安定運用に向けてテクノロジーを活用した運用高度化に取り組んできた。このほど、その一環としてインシデント対応の迅速化や運用監視業務の省力化を実現するために生成AI(人工知能)「IBM watsonx(ワトソンエックス)」の活用に着手した。〈みずほ〉がIBMの生成AIを選択した理由とは何か、またそれによってどのような効果が期待されているのか。みずほFGのIT・システム統括部 プロジェクト最適化チーム 次長の三澤裕子氏と、生成AI活用を支援する日本IBM 技術理事 アーキテクトの菱沼章太朗氏に話を聞いた。
INDEX
テクノロジーを活用してシステム安定運用の実現を
─みずほ銀行はシステムの安定運用に向けてどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。
三澤:2021年のシステム障害を教訓としてシステム面、ビジネス面の両面でマインドも含めて様々な改善策を行っています。特にシステム面で求められているのが、社会インフラを担うメガバンクとしての安定稼働です。
2020年7月にみずほフィナンシャルグループのシステム運用メンバーにIBMのメンバーを加えてMIデジタルサービス(MIDS)を設立。銀行システムを運用してきたノウハウとIBMの高度なテクノロジーを合わせることで、テクノロジーを活用した運用業務の効率化や正確性の向上を図り、安定運用を追求してきました。
─システムの安定運用の鍵はどんなところにあるのでしょうか。
三澤:銀行のシステムは24時間365日稼働しており、日々インシデント・メッセージが発生しています。安定運用のベースは、こうしたメッセージに迅速かつ正確に対応することです。
しかし、大きなシステム障害が発生するとメッセージの数は1日に数万件にも膨れ上がり、人手ではとても全てに対応することができません。大規模障害が発生したときには15分で6000件強にもなりました。
対応の鍵となるのは、重要なメッセージかどうかを見極めることです。そこで私たちは生成AIを活用できないかと考えました。昨年の夏から生成AIを活用してメッセージを解読し、同じものを1つに集約したり、意味のあるメッセージを絞り込んだり、メッセージ対応手順をひも付けすることにトライしてきました。
菱沼:数年前に初めてAIの適用を検討したときには、AIには学習コストがかかる懸念もあったので、既存のテクノロジーを活用して自動化を図るなど運用業務の高度化を進めてきました。最近の急速に進化してきた生成AIのテクノロジーを応用することにより、100点でなくても人が判断する負担を減らし、より迅速な対応が実現できないかと考えました。
正答率が100%でなくても人の運用でカバーする
─どのようなプロセスで生成AIの活用にトライしてきたのでしょうか。
菱沼:重要なポイントは、生成AIによってメッセージからメッセージIDを抽出することと、メッセージIDと紐付けて振り分けることが可能かどうかでした。そこで仮説を立てたうえで、過去半年間に発生した実際のメッセージを使い、昨年8月から生成AIのコアとなるコンポーネントを検証するための実証実験に取り組みました。
3カ月にわたって行った実証実験の結果では、メッセージIDの抽出は100%、振り分けは98%という高い正答率を達成することができました。100%ではありませんでしたが、オペレーターの負担を低減することは可能という手応えを得ることができました。
─正答率が100%でなくても銀行業務で生成AIを活用することはできるのでしょうか。
菱沼:もとのメッセージのバリエーションは膨大にあり、それぞれの対応手順も異なります。オペレーターはメッセージの中からメッセージIDを特定し、マニュアルからそれに応じた対応手順を見つけ出して対応しています。生成AIがメッセージIDからインシデントを特定し、対応手順を示唆するだけでも大きな負担軽減になるはずです。
三澤:今回の実証実験では、現場のオペレーションの担当者が開発に立ち会い、ディスカッションしながら進めることができました。その結果、一連の業務プロセスの中に人が入ることでAIリスクに対応し、正確性と効率性を両立できることが検証できました。現在はそれを実用するためのユーザー・インターフェースの開発に進んでいます。
2つの生成AIのモデルを適材適所で活用していく
─今回の取り組みの技術的なポイントはどんなところにあるのでしょうか。
菱沼:適材適所で生成AIのモデルを使い分ける“Fit for Purpose”という考え方を取り入れたことです。実際のメッセージを使い、様々なモデルを使ってテストを実施した結果、必ずしも大きいモデルの精度が高いわけではないことがわかりました。特にメッセージの振り分けでは、モデルによる正確性の違いがかなりありました。
生成AIは、全てに最適というモデルはありません。大きなモデルはコストがかかります。小さなモデルはスピーディーに処理ができます。どの処理にどのモデルが適しているかは実証実験をやってみないとわかりません。今回もそれが実証されました。
生成AIの開発と運用のプラットフォームであるIBM watsonx.aiでは、他社が開発したものも含めて様々な生成AIのモデルをサポートしています。今回の実証実験ではその機能を活用して様々なモデルで効果を検証し、2つのモデルを活用することにしました。
三澤:IBM watsonx.aiを使って効果的に正答率を上げる道筋は見えてきましたが、肝心なのは運用業務を担当しているメンバーが使いやすいものにしていくことです。
銀行業務を支えるシステムは1000システム以上あり、重要なものだけでも100を超えます。どのシステムに生成AIを適用し、どんなユーザー・インターフェースにして、どんな運用プロセスで活用していくのか。一筋縄で行きませんが、求められる対処方法をわかりやすく的確に示せるようにしていかなければなりません。
菱沼:実証実験を他のシステムにも横展開して高い正答率が得られています。その点ではコアのロジックは汎用的に使うことができるでしょう。年度内にユーザー・インターフェースと運用フローを実装していきたいと考えています。
答えのある手続きや業務は生成AIとの相性がいい
─生成AIの活用によって銀行業務にどんな変化が起きてくるのでしょうか。
三澤:生成AIは今回のインシデント・メッセージのように答えがあるものとの相性がいいと感じています。答えを教師データとして利用することもできますし、正答率等を確認することにも活用できます。
銀行のシステム業務には答えのある手続きが多くあります。システムの仕様書や設計書の誤りを検出する手順やシステム・レビューのチェック等に生成AIが使えるのではないかと試しています。
また、システム業務以外にも稟議(りんぎ)書や契約書等、事務手続きには答えのあるものが多く存在します。こうした業務も生成AIがレコメンドすることで効率化できるでしょう。特に若いメンバーに対する教育時間を削減できます。DX(デジタル・トランスフォーメーション)と並行して生成AIの活用を進めることで、時間をより有効活用できるようになります。
菱沼:人にとって面倒なものほどすごく効率化できるのが生成AIの大きな特徴です。人が時間をかけて処理してきたことを生成AIで対応し、最後に人が確認するというアプローチで作業時間を大幅に短縮できます。
システム開発という面でもプロトタイプづくりや簡易なアプリケーション開発に生成AIを活用することで、素早くイメージを擦り合わせることができるようになり、アジャイル(迅速)な開発や開発と運用を連携させるDevOps等もよりやりやすくなるでしょう。もちろん、システム開発以外でもいろいろな面から銀行業務の高度化に貢献できると考えています。
PROFILE

株式会社みずほフィナンシャルグループ
IT・システム統括部
プロジェクト最適化チーム 次長
三澤 裕子 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
金融第二事業部 技術理事 アーキテクト
Chief Technology Officer
菱沼 章太朗 氏
※所属・肩書は配信時点のものです。
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