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パナソニック担当者に聞く、組込型決済サービス「ハウスコイン」を、「everiwa Charger Share」が採用した背景と狙いとは。

パナソニック担当者に聞く、組込型決済サービス「ハウスコイン」を、「everiwa Charger Share」が採用した背景と狙いとは。

パナソニック担当者に聞く、組込型決済サービス「ハウスコイン」を、「everiwa Charger Share」が採用した背景と狙いとは。

左から岡村 健太(みずほ銀行)、穗積 則充氏(パナソニック株式会社エレクトリックワークス社)

OVERVIEW

気候変動への対応は地球規模の課題です。カーボンニュートラルの推進につながると期待されているEVですが、日本国内での普及率はまだ1.4%(2022年)に過ぎず、EV普及のボトルネックの1つとして、基礎充電インフラの不足が挙げられています。

こうした状況を変革し、基礎充電インフラの整備を進めるために、パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社は、2022年11月、EV充電器シェアリングサービス「everiwa Charger Share」をリリース。その決済システムとして、みずほ銀行と共同開発した「everiwa wallet」を採用しました。

「everiwa wallet」には、みずほ銀行が提供する組込型決済サービス「ハウスコイン」を利用しています。「ハウスコイン」とは、企業や自治体など、特定の経済圏内で決済可能なチャージ型コインサービスで、スマホ送金・決済サービス「J–Coin Pay」の決済基盤を用いています。

「everiwa Charger Share」は、なぜ、「ハウスコイン」を採用したのでしょうか。「everiwa Charger Share」の開発を担当したパナソニック株式会社エレクトリックワークス社 穗積則充氏と、みずほ銀行デジタルイノベーション部 岡村健太にお話を伺いました。

INDEX

  1. 「ハウスコイン」を採用した一番の理由
  2. 苦労したポイントは、最良のユーザー体験と決済の安全性の両立
  3. みずほ銀行は、単なる決済事業者ではなく信頼できるパートナー
  4. 「everiwa」の取り組みが紡ぐ新たな銀行の姿
  5. 共創を促進し、新たな価値創造へ挑む「ハウスコイン」の今後の展望

パナソニック担当者に聞く、組込型決済サービス「ハウスコイン」を、「everiwa Charger Share」が採用した背景と狙いとは。

「ハウスコイン」を採用した一番の理由とは。ポイントは、個人間での安心安全な取引の実現。

——2022年10月に「everiwa Charger Share」の記者発表会が行われました。その後、反応はいかがでしょうか?

穗積氏:非常に多くのニュースや記事で取り上げられたことで、多くのお問い合わせをいただき、しっかりとしたニーズがあるサービスだということを改めて確信しました。

——お客さまからはどのような声が届いていますか?

穗積氏:EVユーザーは4月に募集が始まったばかりなのでまだこれからですが、ホスト(EVチャージャーの提供者)に応募していただいた方からは、「メディアの記事を見て、興味を持って登録した」という声や、「基礎充電インフラを整備することで、EV車を普及させたいという思いに賛同した」「おこづかいを稼ぎながら環境貢献できるのはとても良い仕組みだ」という声をいただいています。環境意識の高い方だけでなく、様々な方に関心を持っていただいているなと実感しています。

——「everiwa Charger Share」の決済システムである「everiwa wallet」には、みずほ銀行の「ハウスコイン」が使われています。「ハウスコイン」を採用した一番の理由は何でしょうか?

穗積氏:一番のポイントは、みずほ銀行の「ハウスコイン」であれば、個人と法人の両方が使える決済システムを実現できるという点です。

我々は、日本全国ありとあらゆるところで充電可能なネットワークを実現するためには、法人だけでなく個人の力も大事だと考えており、「everiwa Charger Share」は、充電設備の提供者に法人だけでなく個人も参加できることを重要なコンセプトとしています。ホストである個人と法人の両方が安心確実に決済でき、個人の方も収益を受け取れるシステムを実現できるのが、みずほ銀行の「ハウスコイン」でした。

——「everiwa wallet」の開発は、どのようにして始まったのでしょうか?

岡村:穗積さんからご説明がありましたとおり、「everiwa Charger Share」では、個人のホストと個人のEVユーザー間のお取引が重要なポイントです。個人間の料金のやり取りに使える決済手段という点に着目していただき、パナソニックさまからみずほ銀行デジタルイノベーション部にお声がけをいただきました。

パナソニックさまは、個人のホストの方が確実に料金を受け取れる仕組みを使って、決済の確実性を上げることを求めていらっしゃいました。具体的には、ユーザーが「everiwa Charger Share」で事前に充電器の予約をした際に、必要な利用額を「everiwa wallet」残高から他の予約で利用できないようにロックさせていただき、実際に充電器の利用が完了したタイミングでロックした残高をホストの方に精算することで、代金決済の安全性を確保する仕組みとなります。個人間で安心確実に決済が完了できる「ハウスコイン」に関心を持っていただいて、案件が動き出しました。

——「ハウスコイン」は、2019年からみずほ銀行が提供しているスマホ決済サービス「J–Coin Pay」の決済基盤を活用しています。この実績は「ハウスコイン」を採用する際に考慮されましたか?

穗積氏:はい。決済基盤は安定して運用ができることがものすごく重要です。全都道府県を網羅する900以上の接続金融機関、加盟店約140万ヵ所で安定した運用実績のあるJ–Coin Payがベースになっているということは、採用するときの決め手の1つでした。

「ハウスコイン」を採用した一番の理由とは。ポイントは、個人間での安心安全な取引の実現。

難航した、最良のユーザー体験と決済の安全性の両立

——「everiwa wallet」の開発で特に苦労されたことは何ですか?

穗積氏:我々としては、いかにサービス全体のユーザー体験を向上させて、お客さまにとって使いやすいサービスとして提供するかということに注力をしています。

一方で、安心安全な決済を実現するには、資金決済法などの法律やルール、様々な手続きを踏まなくてはなりません。決済のセキュリティを高めようとすればするほどアプリ利用の認証などのステップが多くなり、お客さまにとっては使いにくく感じる部分が出てきます。

決済システムはもちろん大事ではありますが、「everiwa Charger Share」サービス全体、ユーザー体験全体からすると一部分です。決済の安全性を高めながら、同時に使いやすいサービスを作り上げるために、お互い認識を合わせながら、1つずつ課題をクリアするというのが苦労したポイントでした。

岡村:「everiwa wallet」は、アカウントにユーザーの銀行口座を紐付けて、チャージをして使っていただく形です。銀行口座を紐付けるにはセキュリティの観点から様々な制約があり、ユーザーにしてみると煩わしい手続きをたくさん行ってもらう必要があります。

みずほ銀行内部で相談をした時点では、かなり高い基準の認証ステップをユーザーに行ってもらわないと銀行口座を紐付けることはできないという見解でした。

これをパナソニックさまにお伝えしたところ、「ユーザビリティを損なわず、かつセキュリティを十分に担保できる基準の認証ステップを検討していただけないか」という反応がありました。

パナソニックさまはお客さま視点でユーザビリティを高めていくことを最優先され、我々は銀行として決済の安全性を重視する。時には認識が少しずれていたり、思い違いがあったりすることもあり、そうした際の両者の認識の擦り合わせ、方向性を揃えるための調整、バランスのとり方には非常に苦労しましたね。

穗積氏:我々としても、ユーザビリティを向上させ、サービスを良くしたい。とは言いながら、セキュリティの観点から必ずやらなくてはいけない手続きもある。では、どこまでだったらユーザーに受け入れてもらえるのかを、実際のユーザーがいない段階でユーザーの視点を想定しながら設計することは非常に大変でした。

難航した、最良のユーザー体験と決済の安全性の両立

単なる決済事業者ではなく、信頼できるパートナーとして。コミュニケーションと強い意志でやりきった未知の新規事業

——取り組みの中で、みずほ銀行に対する印象はいかがですか?

穗積氏:「everiwa Charger Share」は、まだ分からないことも多い未知の新規事業で、我々にとって新しいチャレンジです。この新規事業に、単なる決済事業者としてではなく、一緒にチャレンジをして、一緒に汗をかき、課題を乗り越えるためにあらゆる努力をしてくれた信頼できるパートナーだと考えています。

——「一緒にチャレンジをして、一緒に汗をかいた」ということについて、記憶に残っているエピソードはありますか?

穗積氏:「everiwa wallet」の開発は2022年3月から具体化して進めていましたが、コロナ禍の影響もあり、オンラインでのやり取りだけでは進捗がはかばかしくなかったため、4月末にリアルで集まってしっかり議論する場を設けました。

夏に入る前でしたが、その日はたまたま夕方からすごく暑くなりました。会議を夕方6時ぐらいからスタートしてしばらくしたら、オフィスの空調システムの都合でエアコンが切れてつかなくなってしまいました。それから約3時間、窓もない部屋でものすごく暑い中、こうだよねとか、こうじゃないよねとか、みんなで汗をかきながら、忌憚なく意見を言い合いました。

今となってみると、いい思い出ですし、開発プロジェクトが本格的に回り始めたポイントだったと思っています。岡村さん、覚えていますか?

岡村:もちろん覚えています。本当にすごく部屋が暑かったんですが、言い出しにくかった記憶があります(笑)。

穗積氏:借りているオフィスだったのですが、オフィスの管理者に5時までに事前申請しないとエアコンをつけてもらえないという事情があったんですよ(笑)。

——この打ち合わせはどういう段階の打ち合わせだったのですか?

穗積氏:システムの要件定義と外部設計が終わり、内部設計に入ったところでした。その後プログラミングをスタートして、スケジュール通りにサービスリリースするためには、内部設計でしっかりと認識を合わせておかないといけません。システム開発では非常に重要なステップです。

もちろん、それまでにオンラインで何度も打ち合わせをしていましたが、今思えば、なかなか突っ込んだ議論ができてなかったのかもしれません。直接会うのがすべてではありませんが、この打ち合わせで一体感が生まれて、言いやすい雰囲気、言い合える雰囲気ができたような気がします。

岡村:それまでに何回か顔合わせはしていましたが、本音を交えた議論をすることにどこか気兼ねや遠慮があったのではないかというのは穗積さんのおっしゃる通りです。この打ち合わせを機に、オンラインでも言いたいことを率直に言え合える雰囲気ができあがりました。

その後、全部がスムーズに進んだというわけではありませんが、一緒に力を合わせて何度も壁を乗り越えられたのは、あの打ち合わせがあったからだと思っています。

——開発プロジェクトを1年弱という短期間で実現できた理由、秘訣はどこにあったとお考えでしょうか?

穗積氏:何度も壁を乗り越えることができたのは、我々とみずほ銀行さまの両方にやり遂げるという強い思いがあったからです。リリース日を目標に定め、それまでに必ずやり遂げるんだと全員が認識して進められたのが大きかったんじゃないでしょうか。

岡村:私も同じ意見です。最後はパナソニックさまとの打ち合わせ時間が多くなり、パナソニックさまのメンバーがいる前でもみずほ銀行側のシステムの議論をすることもありました。何の工夫もないですが、オープンにすべてをさらけ出して密にやらせていただいたのが良かったと思っています。

単なる決済事業者ではなく、信頼できるパートナーとして。コミュニケーションと強い意志でやりきった未知の新規事業

「everiwa wallet」プロジェクトメンバー

後列:左から倉田氏、穗積氏(パナソニック株式会社エレクトリックワークス社)、岡村(みずほ銀行)
前列:左から清水、海本、金森(みずほ銀行)

今後の展望と、取り組みが紡ぐ新たな銀行の姿。「everiwa」サービスは、まだ始まったばかり。

——改めて「everiwa Charger Share」の強み、魅力は何でしょうか?

穗積氏:「everiwa Charger Share」は、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの第一歩という位置づけのサービスです。カーボンニュートラルの実現は、今や日本だけでなく世界共通の課題となっています。「everiwa Charger Share」にホストやEVユーザーとして参加していただくことで、企業、地域、生活者が全員参加型・共創型でカーボンニュートラルを進められるようなプラットフォームになっていることを実感していただける点が魅力であり、強みであると思っています。

——「ハウスコイン」の強みは何ですか?

岡村:企業さまがご要望する機能の個別開発や、既存サービスの組込など、お客さまの悩みに合わせてサービスをカスタマイズできる。まさに、自由自在な点だと言えます。

実際に組み込む際には様々な調整が必要になりますが、今回の案件で貴重な経験値を積むことができ、今後に生かしていける部分がたくさんありました。

——みずほ銀行は「everiwa wallet」の取り組みを通じて、生活者の方にどのようなことを感じてほしいと思っていますか?

岡村:従来の銀行は、振込手数料の安さや預金金利の高さ、インターネットバンキングの利便性を前面に出すようなサービスが目立っていたのではないかと思います。今回の「ハウスコイン」の取り組みのように、企業さまのサービスが前面にあり、それを支える裏側のシステムを提供するというような新しい銀行の姿、サービスのあり方を通じて、生活者の方にも、「みずほ銀行は変わってきたな」と感じていただきたいと思っています。

もう1つ、日本国内のEV普及率がまだ約1%という状況で始められた「everiwa Charger Share」は、すごく先見性のある先進的な取り組みだと我々も認識しています。こうしたグローバル視点での課題を解決する新規事業に、みずほ銀行がご一緒させていただいていることを、強く印象づけられればと考えています。

——「everiwa Charger Share」の今後の展望について教えてください。

穗積氏:「everiwa Charger Share」は、まだ始まったばかりのサービスです。ホストの登録に加えて、2023年4月からはEVユーザーの登録受け付けを開始しました。EVチャージャーを設置するホストの登録数を増やし、充電スポット数を増やしていくことで、EV充電インフラの提供者として「everiwa Charger Share」を多くの方に認知していただくのが当面の目標です。

また、「everiwa Charger Share」開始と同時に、カーボンニュートラルの取り組みを推進するための新たな共創型コミュニティ「everiwa」を、みずほ銀行、損保ジャパン、NELISの3社で設立しました。「everiwa」は、「豊かな地球を守り、次の世代のくらしの豊かさをつむぐ」をビジョンに掲げ、「everiwa Charger Share」をファーストアクションとして、カーボンニュートラルの推進をめざしています。今後は「everiwa Charger Share」の他にも、新しくカーボンニュートラルのサービスをどんどんスタートさせていきたいと考えています。

——今後、みずほ銀行に期待することはどのようなことでしょうか?

穗積氏:「everiwa Charger Share」には、まだまだ様々な課題があります。先ほどみずほ銀行さまのことを「一緒にチャレンジをしてくれるパートナー」と申しあげましたが、引き続きこれからもパートナーとして課題を乗り越えながら、「everiwa Charger Share」を一緒に盛り上げていただきたいと思っています。

——みずほ銀行はその期待にどのように応えていきますか?

岡村:「everiwa wallet」はパナソニックさまの「everiwa Charger Share」のために作ったシステムです。みずほ銀行もパートナーとして、「everiwa Charger Share」を一緒に盛り上げていきたいと思っています。

みずほ銀行は、国内上場企業の約7割とお取引があり、全国47都道府県のすべてに支店を展開しています。支店の駐車場に充電チャージャーの導入を検討していくことをはじめ、みずほ銀行が持っている様々なリソースや顧客基盤を活かして、「everiwa Charger Share」の普及ならびに「everiwa」コミュニティの拡大に貢献していきたいと考えています。

今後の展望と、取り組みが紡ぐ新たな銀行の姿。「everiwa」サービスは、まだ始まったばかり。

企業・地域・生活者をつないで共創を促進し、社会を動かす新たな価値創造へ挑む

「ハウスコイン」は、今回紹介した「everiwa wallet」の他、ヤマト運輸の「にゃんPay」でも活用され、着実に実績が積み上がってきています。個人のスマホ決済、キャッシュレス決済のニーズが高まりを見せる中、「ハウスコイン」は、「everiwa wallet」や「にゃんPay」のようなコインとしての提供以外にも、あらゆる決済シーンへ対応すべく、検討を進めています。

また、「ハウスコイン」の用途は企業向けだけではありません。自治体内で流通する地域通貨に関しても導入が進んでおり、2023年3月には福島県会津地域で利用できるデジタル地域通貨「会津コイン」をリリースしました。

みずほ銀行は多くの企業や自治体に「ハウスコイン」のシステムを提供することで、「決済の場で使っているサービスが実はみずほ銀行のサービスだった」というような、日常生活に溶け込むような組込型個人決済サービスとして「ハウスコイン」を育てていくとともに、あらゆる企業・地域・生活者をつないで共創を促進し、社会を動かす新たな価値創造に挑戦していきます。

PROFILE

穗積 則充 氏

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
新規事業推進室 主幹

穗積 則充 氏

2008年にパナソニック株式会社に入社。本社R&D部門に配属。技術本部を経て、事業部の開発プロジェクトリーダーとして新規車載部品の量産立ち上げ。2020年から現職にて社会課題を解決する新規事業創出を担当。企画段階から「everiwa」に参画し、「everiwa Charger Share」の開発と事業化を推進。

岡村 健太

みずほ銀行
デジタルイノベーション部 イノベーション共創チーム

岡村 健太

2009年に株式会社みずほ銀行に入行。法人営業・採用チーム・秘書室などを経て、2019年にデジタルイノベーション部に配属。2021年から、ハウスコインプロジェクトリーダーとしてJ–Coin Pay 基盤を活用した企業向け独自決済ソリューションの新規事業創出を担当。「everiwa wallet」の開発および事業化推進担当として、「everiwa」に企画時から参画。

文・写真/みずほDX編集部

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