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【Technology Insight】環境構築を1ヵ月から2時間弱へ。〈みずほ〉が「ゴールデンパス」で挑む、金融システム開発のスピード改革

【Technology Insight】環境構築を1ヵ月から2時間弱へ。〈みずほ〉が「ゴールデンパス」で挑む、金融システム開発のスピード改革

OVERVIEW

〈みずほ〉が全社で推進する「WORK WITH AI@MIZUHO」。単なる業務効率化ではなく、AIを「優秀なパートナー」として迎え入れ、人間は人間にしかできない創造的な価値創出に集中するという、新しい働き方のビジョンです。

このビジョンのもと全社でAI活用やAIアプリケーション開発が進む中、金融機関としての厳しいセキュリティや社内規程を遵守しながら、現場がスピードを保って開発を進めることには難しさがありました。そこで、「安全性の確保」と「開発スピード」を高い次元で両立する手段として〈みずほ〉が整備したのが、安全な開発ルートをあらかじめ用意する「ゴールデンパス」です。

開発者がインフラの制約を意識することなく、本来のアプリケーション開発に集中できる環境を、どのように実現したのか。2026年5月に開催された「クラウドネイティブ会議」では、〈みずほ〉が進めるクラウドネイティブ開発基盤とゴールデンパスの取り組みが紹介されました。本記事では、その登壇内容をもとに、厳しい制約の中で安全性と開発スピードを両立させるための工夫をひも解きます。

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INDEX

  1. 1
    「安全な環境」のその先へ。〈みずほ〉が「ゴールデンパス」を必要とした理由
  2. 2
    めざしたのは目的地へ導く「パス」。開発者を支える六つのコンポーネント
  3. 3
    環境構築は1ヵ月から2時間弱へ。〈みずほ〉がめざすAI時代の金融システム開発

「安全な環境」のその先へ。〈みずほ〉が「ゴールデンパス」を必要とした理由

全社でAIの活用が広がる中、〈みずほ〉ではさまざまな領域でAIアプリケーションの開発が急拡大しています。これらを安心・安全に動かすための共通基盤として構築されたのが、「みずほWiz Base」です。

「みずほWiz Base」は、外部から遮断された安全なネットワークの構築やアクセス権限の管理等、厳しいセキュリティ要件を組み込んだ共通基盤です。新しい開発案件が立ち上がると、この基盤上に、あらかじめ安全対策が施されたAWS環境が自動で提供されます。

こうした仕組みによってセキュリティを確保する土台が整う中で、次に課題となったのが、開発を始めるまでの準備をいかにスムーズにするかでした。厳格なセキュリティ要件を満たすための利用申請やネットワーク設定、最適なインフラ構成の検討等、実際の開発に着手する前には、チームごとに確認・調整すべきステップが少なくありませんでした。

この課題に対し〈みずほ〉が重視したのは、開発者が複雑な制約や手続きに意識を取られず、本来向き合うべきアプリケーションの価値創出に集中できる状態をつくることでした。インフラ構成の検討や構築、関連ルールの確認にかかる負荷をできる限り減らし、強固な基盤を誰もが迷わず活用できるようにする。そこで打ち出されたのが、「制約を、開発者に意識させない」というアプローチでした。

このアプローチを具体的な仕組みとして整備したものが「ゴールデンパス」です。「みずほWiz Base」が求める厳しいルールや最適な設定をあらかじめ一式にまとめて提供することで、開発者は複雑な手続きや要件を一つひとつ意識せずに、必要な基準を満たした開発環境を整えることができます。

めざしたのは目的地へ導く「パス」。開発者を支える六つのコンポーネント

では、「ゴールデンパス」は具体的にどのような構成要素で成り立っているのでしょうか。開発者が安全性と開発スピードを両立できるように設計された、ツールや推奨パターンの集まり、すなわち「六つのコンポーネント」の組み合わせです。

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「ゴールデンパス」の六つのコンポーネント

① AIコンテキスト(AI向けコンテキストの配布)
社内ルールや標準的に望ましい開発の進め方を、開発を支援するAIが参照できる「知識」としてあらかじめ整備したものが、AIコンテキストです。〈みずほ〉では、このAIコンテキストの配布にapm(AI向けのコンテキストをパッケージとして配布・管理するツール)を活用し、共通の配布リポジトリ「apm-standards」にapm.ymlを配置。各開発チームはそこから必要なコンテキストをインストールできるようにしています。これにより開発者がコードを書き始める段階から、AIが社内標準や推奨パターンを踏まえた支援を行いやすくなります。

② ドキュメントサイト
ソースコードを読めばわかる技術的な記述はあえて省き、「なぜこの設計にしたのか」という背景や設計思想に絞って情報を掲載したサイトです。GitHub Pagesを活用し、人もAIも参照しやすい情報源として開発者の認知負荷を下げています。

③ カスタムコンストラクト(環境構築の共通部品)
「みずほWiz Base」独自のセキュリティが最初から組み込まれたインフラ用の共通部品です。IaC(インフラ構成をコードで管理する仕組み)には、既存環境との親和性の高さや、安全で開発者が扱いやすい点を評価し、AWS CDKを採用しました。

本来なら数千行に及ぶ複雑な設定が必要なところ、開発者は十行程度のコードを書くだけで、安全な閉域ネットワーク環境を一式立ち上げられます。また、これらの部品をGitHub Packagesで配布することで、各チームが最新のセキュリティを即座に共有・利用できる体制も整えています。

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カスタムコンストラクトのイメージ

④ サンプルアプリ(ゴールデンパスのコンポーネントを実際に使ったサンプルアプリ)
Amazon Cognitoを用いたSSO(ユーザー認証)や、マイグレーションを含めたデータベース接続、アプリケーションログ、LLMとの連携等、社内で推奨される実装パターンをあらかじめ網羅した、すぐに動くお手本です。コピーして各チームの要件に合わせて改変できるため、個別に蓄積されがちだった実装ノウハウを、チーム横断で再利用しやすくする役割を担っています。

⑤ CI/CDワークフロー(自動デプロイの共通設定)
プログラムを環境に反映する手順を共通化したパイプラインです。開発者は二十〜三十行程度の簡単な設定を書くだけで、セキュアな自動デプロイの仕組みをすぐに利用できるようになります。

⑥ ガードレール(セキュリティの自動チェック)
環境を構築してデプロイする手前の段階で、コードを自動解析する仕組みです。AWS CDKのコードを静的に検査するツール「cdk-nag」をベースに、〈みずほ〉独自のセキュリティ基準をルールとして組み込んでおり、基準を満たしているかを事前にチェックできるため、必要な安全対策を先回りして講じやすくなります。

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めざしたのは、自由を奪う「檻」ではなく、目的地へ導く「パス」です。当初はフレームワーク等を完全に固定する強制力の強い設計も検討されましたが、案件ごとの要望や柔軟なカスタマイズに応えられなくなることを避け、開発者を型に縛り付けないこの思想に行き着きました。金融機関に求められる厳しいセキュリティはしっかりと「みずほWiz Base」で守りつつ、その上での開発には十分な「余白」を残しておく。こうした設計思想のもと、すべての環境テンプレートやソースコードはGitHub上に集約され、一ヵ所を更新するだけで全開発案件へ最新版が自動で届くよう一元管理し、開発現場へ向けてパッケージとして提供されています。

こうして「檻ではなくパス」を具現化した六つのコンポーネントが有機的に組み合わさることで、開発者は厳しい制約を感じることなく、本来の開発に集中できるのです。

環境構築は1ヵ月から2時間弱へ。〈みずほ〉がめざすAI時代の金融システム開発

「ゴールデンパス」の整備は、開発現場のあり方を大きく変えました。これまで約1ヵ月を要していたAWS環境の構築は、わずか2時間弱に短縮。3日かかっていたCI/CDワークフローの構築も30分で完了。毎回個別に対応していたセキュリティ設定のレビューも、このパスをたどるだけで事前に必要なチェックが完了している状態になり、スムーズに通りやすくなりました。

また、こうした目に見える数字以上に大きいのが、開発者が実感する「体験」そのものの変化です。現場からは、「セキュリティのことを強く意識せずに、アプリケーション開発に集中できた」「数十行のコードを書いただけで、『みずほWiz Base』に準拠したインフラが構築できた」「AIに聞けば、『ゴールデンパス』に沿ったコードを書いてくれる」といった前向きな声が寄せられています。厳しい制約を強く意識せずに開発へ向き合える環境そのものが、開発者が本来の業務に集中できる土台になっているのです。

一方で、〈みずほ〉は「ゴールデンパス」を「作って終わり」にはしていません。「よいもの」をつくることと、それが現場で「実際に使われること」は別物だからです。その気づきから、単にツールを届けるだけでなく、現場に定着させるための伴走活動に力を注いでいます。初めて使う開発チームに寄り添って最初の一歩を後押しし、実際の案件メンバーを巻き込んで現場の声を取り込みながら仕組みをともに育てる。さらに、「みずほWiz Base」の環境を払い出す初期段階からテンプレートをあらかじめ組み込み、誰もが自然と「ゴールデンパス」に沿ってスタートできる仕組みも整えました。

〈みずほ〉が次に見据えるのは、すべての新規案件が自然とゴールデンパスを通り、安全性とスピードを両立しながら立ち上がる開発環境です。今後は「AI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル)」の考え方を発展させ、開発の各フェーズで得られた知見をAIにも反映することで、〈みずほ〉のルールに沿った開発をより自然に進められる環境へと進化させていきます。AIエージェントを量産する仕組み「エージェントファクトリー」との連携も、その先にある取り組みです。

金融機関としての厳しいセキュリティは緩めず、AIに任せられる作業はAIに委ね、開発者の負担だけを取り除く。変えられない制約の中で、開発者が本来の業務に集中できる環境を整えていくことが、〈みずほ〉のクラウドネイティブ開発基盤づくりの核心です。開発をより速く、より安全に進められることは、新しい価値をより速く、より確かにお客さまへ届けることにつながります。AIという優秀なパートナーを迎え入れた〈みずほ〉は、これからも新しい働き方を自ら体現しながら、お客さまや社会とともにさらなる成長を続けていきます。

PROFILE

松尾 優成の画像

みずほ銀行 情報数理工学研究所 デジタル技術開発部 上席主任研究員

松尾 優成

2015年にみずほ情報総研(現:みずほ銀行 情報数理工学研究所)へ入社。国際系金融システムの開発・保守を担当後、「CCoE(Cloud Center of Excellence)」で銀行向けプラットフォームの継続的サービス改善に従事。その後、お客さま向けプラットフォームの構築・運用を担当し、プラットフォームエンジニアリングを実践。現在は内製開発強化の一環として、ゴールデンパスの整備と開発者体験向上に取り組んでいる。その他、〈みずほ〉のテック×ビジネスコミュニティ「コクリエ」を運営。

仁賀井 球人の画像

みずほ銀行 情報数理工学研究所 デジタル技術開発部 主任研究員

仁賀井 球人

2022年に新卒でみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(現:みずほ銀行 情報数理工学研究所)へ入社。〈みずほ〉の内製・モダン開発を推進する一員として、「AiHawk Filter」(AIによるメール事後監査・リスクチェックの自動化ソリューション)やスライド自動生成AI「みずほスライドジェネレーター」を開発する等、生成AIアプリの内製開発を幅広く手がける。

※所属、肩書きは取材当時のものです。

文・写真/みずほDX編集部

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