〈みずほ〉の未来を担う、生成AI活用とは?最新技術に挑むメンバーにインタビュー。
2025年6月10日
- FGみずほフィナンシャルグループ
- FTみずほ第一フィナンシャルテクノロジー
OVERVIEW
世界的な生成AIブームの波があらゆる業界に広がる中、〈みずほ〉でも生成AIの利活用を強化しています。2025年4月には、AI利活用の推進を担う「AIX推進室」を「デジタル・AI推進室」に改編し、人員を大幅に増強。生成AIをはじめとした最新技術を取り入れ、〈みずほ〉のDXをさらに加速させる様々な取り組みを進めています。こうした取り組みを進めるうえで重要なのが、最新技術の動向をいち早く捉え、迅速に実証することです。本記事では、現在取り組んでいる「みずほDeepResearch」、「〈みずほ〉LLM」、「Wiz Create面談記録作成AI」、「Wiz Search」について、推進を担うメンバーにインタビューし、それぞれの概要や効果、今後の展望等について語ってもらいました。
INDEX
左から小池 淳平(みずほフィナンシャルグループ)、須藤 隼(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー)
「みずほDeepResearch」で、リサーチ業務の大幅な効率化と高度化を実現。
─「みずほDeepResearch」とはどのようなアプリケーションで、どのような効果が期待できるものでしょうか?
須藤:「みずほDeepResearch」は、生成AIを活用したアプリケーションです。自然言語(日本語、英語等の人間が日常で用いる言語)で調べたい内容を入力すると、生成AIが記事全体のアウトラインやセクション概要等を自動で作成し、その後必要な情報を検索して記事作成まで行なってくれます。利用者に知見がない分野の調査でも、生成AIが関連するトピックや調査すべき点を提示してくれるため、効率的に調査業務を進めることができます。最終的にはレポート形式でまとめられるだけでなく、情報ソースも参照可能となり、調査業務の正確性と効率性を高めることが可能です。
小池:つまり、インターネット上の情報を収集して整理してくれるツールですね。
須藤:その通りです。例えば「金融業界で生成AIはどのように使われていますか」と尋ねると、金融業界における生成AIのユースケースをインターネットから収集し、その情報を基に「○○銀行ではこのように使われています」等のようにまとめてくれます。従来、人手で情報を探し回り、膨大な情報を要約することが必要であった調査作業を、生成AIが高速かつ高度に行ってくれます。
─開発で工夫した点や苦労した点はありますか?
小池:今回の開発では、私がインフラ構築を担当し、須藤さんがアプリケーション開発を担当しました。アプリケーション開発では、どのような工夫や課題がありましたか?
須藤:工夫というほどでもありませんが、まずは動くものを迅速に作り、多くのメンバーに使ってもらいながら改善点を取り込むよう進めました。今回の開発に限らず、まずは気になった技術について手軽に動かせるものを作り、チームに共有して協議することで、良いアプリケーションが生まれていくと思います。苦労した点としては、目まぐるしいスピードで生成AI技術が進化している中で、新しい技術を常にキャッチアップし、スピード感を持って改修していく必要があったことです。
小池:インフラ面では、もともとローカル環境用に設計されていたアプリケーションをAWSクラウドに移行し、〈みずほ〉のセキュリティ基準に合わせる必要がありました。短期間でPoC(概念実証)を繰り返すうえで、都度セキュリティ基準と照らし合わせるのが大変でした。
須藤:セキュリティやコスト、社内データの取り扱い等に留意しながら、短期間で開発を進めるのは大変ですよね。
小池:今後、DXを一層加速させるためには、AI活用のための共通基盤やデータ基盤、さらには開発標準を意識した管理基盤を整備していくことも重要だと感じています。
─「みずほDeepResearch」の今後の展望を教えてください。
須藤:今後は社外情報だけでなく、〈みずほ〉の社内情報も組み合わせてレポーティングを行うことをめざしています。社内ドキュメントに対してRAG(Retrieval–Augmented Generation:検索拡張生成)等のフローを組み込むことで、社内・社外両方の情報を活用したレポートを作れるようになります。
小池:〈みずほ〉独自のデータを組み合わせることで、金融ドメインに対してより解像度の高い出力が得られることを期待しています。
─このようなプロジェクトに取り組む上でのやりがいや楽しさとは何でしょうか?
小池:最新技術を使ったプロトタイプ開発を、アプリケーションとインフラの両面から迅速に進める経験ができたことは大きな刺激になりました。
須藤:行内のユースケースに応じてアプリケーションの機能を最適化したり、他技術やアルゴリズム導入等を試行錯誤したことは、難しくもありましたがそれ以上にやりがいを感じました。
小池:インフラ構築において、スピードを落とさず、セキュリティや開発標準を両立させる難しさも実感しましたが、最新の生成AIを扱う面白さは格別で、非常に貴重な経験ができたと思います。
須藤:グループ内の課題やニーズをよく知るメンバーが技術トレンドをキャッチアップし、スピーディに開発を進められることは〈みずほ〉の大きな強みであると考えます。
小池:日進月歩のAI分野でスピード感を持って開発を進められることはとても重要だと私も考えます。〈みずほ〉のリソースを活かしたDX推進を今後も続けていきたいと思っています。
左から皆川 拓、井口 亮(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー ※井口はみずほフィナンシャルグループと兼務)
独自データと技術で差別化を図る。「〈みずほ〉LLM」開発への挑戦。
─「〈みずほ〉LLM」プロジェクトの概要と開発に至った背景を教えてください。
井口:現在、AI開発を行うOpenAI社やAnthropic社等が公開しているLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)はクローズドなモデルで、私たちが必要とする知識を追加したり、望む振る舞いにチューニングしたりすることが容易ではありません。
ChatGPTをはじめとするモデルは世界中のウェブ情報を含みますが、〈みずほ〉独自の業務ドキュメントや事務手続き、金融商品に関する専門知識等はカバーしていません。こうした独自の知識を追加的に学習させて、複雑な質問に回答できるようにしたり、専門性に基づくアイデア・示唆を出せるようにしたりするために、金融特化型のLLM、「〈みずほ〉LLM」の開発に着手しました。
皆川:〈みずほ〉にはセキュリティ性が高く、質の高いデータが多数あります。これらを活用し、例えば与信プロセスの高度化・効率化のような社内業務の効率化や、個別提案やレコメンドの高度化等のお客さまへのサービス提供力の向上につなげていくことをめざして検討を進めています。
井口:審査の考え方や営業担当のお客さまへの向き合い方等、〈みずほ〉ならではのスタイルがあります。他社とは異なる〈みずほ〉独自のアプローチをLLMに取り込んでいくことも、このプロジェクトの重要な目的の一つです。
─構築に向けてどのような研究開発や技術的アプローチを行っていますか?
井口:LLMの開発・学習に関しては一ヶ月、あるいはそれ以上のスピードで新しいトレンドやブレイクスルーが起きるため、それをいかに早くキャッチアップするかが重要です。私たちのチームには論文やウェブ情報を読み解く専門知識を持ったメンバーが多数在籍しているため、チームで情報を交換しながら効率的なアプローチを探すようにしています。
また大学や他の事業会社、金融機関等の外部コミュニティとの交流を通じてヒントを得られることもありますので、積極的に交流を行っています。さらに外部テック企業とのコラボレーションも視野に入れ、常に最適な方法を模索しています。
皆川:デジタル・AI推進室にはR&D(Research and Development:研究開発)に特化したチームがあります。〈みずほ〉の各部署からのニーズと最新技術との橋渡しもこのチームの重要な役割の一つです。各部署の課題に対してどのような技術でアプローチするのが最適か、日々検討しています。
井口:金融機関の研究開発はイメージしにくいかもしれませんが、デジタル・AI推進室には理系の素養やエンジニアのバックグラウンドを持っているメンバーが多数在籍しており、実際にプロトタイプを作って試せる機動性を強みにしています。
─「〈みずほ〉LLM」実現への課題や今後の展望を教えてください。
井口:金融知識に正確に答えられるLLMの開発をめざしていますが、金融は規制業種であるため、法令やガイドラインの遵守が不可欠です。また、お客さま保護の観点やフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)等、考慮すべき点が多く、回答を制限したり慎重に行ったりする「ガードレール機能」も重要になってきます。これは難しさであり、同時に面白さでもあります。
皆川:私はデータの整理・収集を重視しており、各部署との会話を通じて業務プロセスを理解し、どのようなデータが眠っているか探すことを心がけています。例えば、現在大企業RM(Relationship Manager:事業法人営業)の情報収集プロセスの効率化というテーマで伴走支援をしていますが、行内で参照できる情報やデータのみならず、情報収集から提案に至るRMの推論プロセスもデータ化できれば、より良い「〈みずほ〉LLM」の構築につながると考えています。
井口:LLMを開発する上で最も重要なのはデータです。ここを避けずにしっかり取り組むことが今後の成功の鍵になると思います。
─このようなプロジェクトに取り組む上でのやりがいや楽しさとは何でしょうか?
井口:〈みずほ〉でのLLM開発は社会的意義が大きいと感じています。〈みずほ〉は日本や世界各地の企業・団体と様々な活動を行っており、自社サービスの改善だけでなく、日本の産業全体や社会全体に広いインパクトを与えられる可能性があります。また、機械学習エンジニアやデータサイエンティストにとって、ユニークなデータがあることは非常に魅力的です。長年蓄積された独自のデータを使って新しい価値を生み出せることも醍醐味であると考えます。
皆川:様々な人材やパートナー企業との連携にも魅力を感じています。〈みずほ〉内にはR&Dや営業、与信リスク管理、IT等多彩な専門家がいます。さらに外部パートナー企業との連携もあり、様々な人と仕事をすることで多くの知見や技術を身につけられることがやりがいになっています。「〈みずほ〉LLM」はまだ構想段階ですが、これからしっかりと進めていきたいと考えています。
井口:ビジネス部門も協力的で、専門的な業務や課題について丁寧に教えてくれるため、通常では難しいような領域でも、両者の知見を掛け合わせて解決の糸口を見つけられることは非常に良い点だと思います。人柄もフランクな方が多いと感じています。こういった分野に関心がある方には、ぜひ〈みずほ〉に興味を持っていただければと思います。
左から木村 淳、住吉 賢司(みずほフィナンシャルグループ)
「Wiz Create面談記録作成AI」「Wiz Search」による業務効率化で、新たな価値提供につなげる。
─「Wiz Create面談記録作成AI」について教えてください。
住吉:お客さまとの面談や社内会議の議事録を自動作成するAIエージェントです。スマートフォンやタブレットで録音した内容をテキスト化し、文章整形から面談記録のドラフト作成までを自動的に行います。多言語対応や金融に特化した専門用語の認識等、金融業務に合わせた機能を備えています。
Amazon TranscribeやClaude3.7 Sonnetを活用して高精度の音声認識と自然な文章生成を実現し、実証実験では、一人あたり月4時間以上の業務削減効果が確認されました。また、参加者の93%が継続利用を希望する等、高い評価を得ており、2025年度中の本格展開に向けて開発を進めています。
─「Wiz Search」とはどのようなアプリケーションでしょうか?
木村:RAG(Retrieval–Augmented Generation:検索拡張生成)という手法を使った社内手続きの検索アプリケーションです。RAGは検索機能とLLMを組み合わせた手法で、利用者の質問に対して、検索技術を用いて関連情報を取得し、その情報を基に回答を生成する仕組みです。
2022年末頃にChatGPTが登場し、各企業が生成AIの活用を開始した当初は、チャットボット形式で生成AIの知識を活用した応対が中心でした。しかし、活用が進む中で、企業内データを使いたいというニーズが高まり、RAGが注目されるようになりました。私たちもその頃からRAGについての研究を開始し、具体的なユースケースとして社内の事務手続書のデータを使ったPoCに取り組みました。
当初は回答精度の向上に苦労しましたが、プロンプトの調整やRAGフュージョンといった最新技術を試し、クラウドベンダーからの技術サポートも受けながら精度向上に取り組み、最終的に回答精度を80%まで高めることができました。
しかしハルシネーション等の課題が依然として残るため、回答を直接生成する形式から、ユーザーに該当する手続書を提示する形式に転換しました。方針転換後に与信手続書を対象としてPoCを行ったところ、クライテリア(評価基準)を達成し、検索システムとしての有効性を確認することができました。現在は「Wiz Create面談記録作成AI」と同様に、2025年度中の本格展開をめざしています。
─「Wiz Create面談記録作成AI」と「Wiz Search」の今後の展望を教えてください。
住吉:「Wiz Create面談記録作成AI」は単なる業務効率化ツールではありません。蓄積された面談記録データは、お客さまのニーズへの深い理解や業務改善のヒントを導き出す貴重な情報源となります。今後はCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)等の社内システムと連携を進め、データの蓄積・活用につなげることで、これまで以上にお客さま一人ひとりのニーズに応えるとともに、新たな価値を提供していきたいです。
木村:「Wiz Search」は現在、与信手続きのみを対象としていますが、社内には他にも多岐にわたる業務の手続きやマニュアルが存在しています。これらが散在しているため、社員は必要な情報にたどり着くまでに多大な労力がかかっています。
将来的には「Wiz Search」を共通のプラットフォームとして情報を集約し、手続きや問合せの種別によらず検索できる仕組みの実現をめざしています。必要な情報を効率よく見つけられるようにし、社員がより付加価値の高い業務に注力できる環境を整えることで、お客さまへのより良いサービスの提供につなげていきます。
以上のように、〈みずほ〉では生成AIを活用した様々なプロジェクトが進行中です。スピード感をもって最新技術を取り入れ、社内外の連携や情報共有を通じて、〈みずほ〉のDXをさらに加速させていきます。こうした取り組みの先には、お客さまにより良いサービスを提供し、産業や社会へポジティブなインパクトを与える未来が広がっていると信じています。
文・写真/みずほDX編集部
PROFILE

みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 デジタル・AI推進室
小池 淳平
2024年キャリア採用でみずほフィナンシャルグループに入社。前職の証券系シンクタンクにて、一般企業向けにデータ分析基盤や生成AIアプリケーション構築に従事。現在はみずほフィナンシャルグループ デジタル戦略部で勤務。みずほグループに生成AIアプリケーションを導入する等、社内DXを推進。

みずほ第一フィナンシャルテクノロジー
データアナリティクス技術開発部
須藤 隼
2022年みずほ銀行アドバンストテクノロジーコース(旧クオンツ・デジタルテクノロジーコース)にて入行。同年、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー出向。現在、同社 データアナリティクス技術開発部フィナンシャルエンジニア。みずほ銀行向けデータ分析業務、コンサルティング業務、数理最適化技術や機械学習技術を用いたモデル開発・アプリケーション開発に従事。

みずほ第一フィナンシャルテクノロジー
コーポレートアドバイザリー部
皆川 拓
2017年にみずほ銀行に入行し、大企業法人営業を半年間経て、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。以来、行内各部署の業務効率化・高度化に向けたデータ分析業務や、事業会社向けコンサルティング業務(電力、食品、農業)に従事。

みずほ第一フィナンシャルテクノロジー
データアナリティクス技術開発部長 兼
みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 デジタル・AI推進室
井口 亮
2008年みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに入社。以来、金融機関・事業会社向けデータ分析業務・コンサルティング業務に従事。現在、同社 データアナリティクス技術開発部長・チーフデータサイエンティスト 兼 みずほフィナンシャルグループ デジタル戦略部 デジタル・AI推進室所属。金融におけるAI・機械学習やデータサイエンス領域でのコンサルティングや研究開発を牽引する博士(工学)。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)では、金融業界横断データ連携プラットフォームのワーキンググループ長として活動中。主な著書に「金融データ解析の基礎」(共著、共立出版)がある。

みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 デジタル・AI推進室
木村 淳
2007年にみずほ情報総研(現:みずほリサーチ&テクノロジーズ)へ入社。システムエンジニアとして、一般企業向けのワークフローシステムの開発・導入に携わる。その後、ICT技術を中心とした技術研究部門へ異動し、UI/UX、アジャイル開発、AIなど、昨今のDXを支える技術の研究に従事。2024年より、みずほフィナンシャルグループのデジタル戦略部に所属し、社内のDX推進を主導している。

みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 デジタル・AI推進室
住吉 賢司
2025年にキャリア採用でみずほフィナンシャルグループに入社。1998年よりシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、金融・物流・エンタメ系等のシステム導入にかかる上流工程・開発・システム運用に携わる。その後コンサルティング職を経て、現在は生成AIを活用したみずほグループの業務効率化をめざしたDX施策を推進中。
※所属、肩書きは取材当時のものです。