3ヵ月で「AIを使う人」から「AIアプリをつくる人」へ。金融の業務知識をいかす、実践型リスキリング「みずほAI Bootcamp」
2026年10月28日
- FGみずほフィナンシャルグループ
OVERVIEW
「みずほAI Bootcamp(以下「AI Bootcamp」)」は、金融業務の知識を持つ非エンジニア社員を、AIアプリケーション開発を担う人材手へと育成するリスキリングプログラムです。AIコーディング支援ツールを活用しながら開発の基礎を学ぶだけでなく、現場の業務課題を捉え、利用者視点で解決策を考え、実装までつなげる力を養います。
本格展開に先立ち、2026年6月に実施されたプログラムには、プログラミング未経験者4名を含む5名が参加しました。1ヵ月の学習と実践、2ヵ月のOJTを通じて、参加者全員が所定の合格ラインに到達。現在は、金融業務の知識をいかした視点をAIアプリケーション開発の設計や仕様検討に反映する等、それぞれの強みを発揮しながら業務にあたっています。
本記事では、プログラム企画者の齋藤、講師として伴走した植松氏、参加者の萩原、吉川へのインタビューを通じて、AI Bootcampの立ち上げ背景、3ヵ月の学びと実践、そして〈みずほ〉が描く人材育成とものづくりの未来をひもときます。
INDEX
なぜ「AIを使う人」ではなく「AIアプリをつくる人」を育てるのか。AI Bootcampのねらい
─まずは、AI Bootcampの概要について教えてください。
齋藤:AI Bootcampは、金融業務の知識を有する非エンジニア社員を、AIアプリケーション開発を担う人材へとリスキリングする3ヵ月間のプログラムです。CodexやClaude CodeといったAIコーディング支援ツールを活用した開発手法を1ヵ月間集中的に学び、その後2ヵ月間、実案件でのOJTに入ります。単にコードを書くのではなく、要件の理解、AIを活用した実装、成果物の検証・改善まで、開発における一連の業務に取り組んでもらう設計です。

AI Bootcampの全体像
─AI Bootcampは、どのような課題意識から生まれたのでしょうか。
齋藤:起点は大きく二つあります。ひとつは、エンジニア人材の確保です。〈みずほ〉の内製開発組織である「内製開発ラボ」は立ち上げから拡大を続け、現在は約60名、15のスクラムチームで45以上のプロダクトを並行して開発しています。採用にも力を入れていますが、市場全体で人材獲得競争が激しく、必要数を確保し続けることは簡単ではありません。そこで、社内人材の育成に着目しました。もうひとつは、開発のあり方そのものの変化です。AIコーディング支援ツールの登場によって、自然言語で開発できる領域が一気に広がりました。AIは単なる作業支援ではなく、開発の担い手や進め方そのものを変えつつあります。
─その変化が、非エンジニア社員に「つくる力」を加えるという発想につながったのですね。
齋藤:はい。ツールの登場で問われるのは「10年後のエンジニアとは何か」です。私たちがシステムをつくるのは、ビジネスを行うためです。そう考えると、業務に深く通じた人が自ら開発に関わることは、これからの自然な形のひとつだと考えました。その仮説に対する実践的な答えがAI Bootcampでした。AIコーディング支援ツールがなければ、成立しなかったプログラムだと思います。
─3ヵ月の修了時点で、どの水準をめざしたのでしょうか。
齋藤:リーダーのレビューや支援のもとで、限定された範囲のタスクを理解・分解し、実装、テスト、プルリクエスト、レビュー対応までを一巡できる状態です。開発経験2〜3年目のエンジニアが担う一連のタスクを遂行できるレベルです。
大事にしていたのは、「業務知見があるから、開発スキルは多少粗くてもよい」と考えないことです。あくまで開発のタスクをきちんと遂行できることを前提に、その上に金融業務の知見が加わるからこそ、大きな価値が発揮できると考えていました。

齋藤 悠士(みずほFG)
─萩原さんと吉川さんは、どのような思いでプログラムに参加されたのですか。
萩原:上司との面談でプログラムの構想を聞きました。当時はデジタル戦略部の中でコンサルティング業務を担当していましたが、今後のあるべき姿を考えたとき、自分でコーディングできるようになっておく必要があると思い、ぜひやらせてくださいとお願いしました。
吉川:私も上司からの打診がきっかけです。個人営業に20年ほど携わってきて「こうすればもっとよくなるのに」と感じていたことを、自分で形にできるかもしれないと思ったことと、AIコーディングに興味があったことが参加の理由です。

左から吉川 育寛、萩原 典保(みずほFG)
AIコーディング支援ツールを活用し、初日からつくる。実践型カリキュラムの中身
─植松さんは、講師として参加されましたが、最初にこのプログラムの構想を聞いたときの感想はいかがでしたか。
植松:私自身も、これからは業務とITの両方を理解している人材がより重要になると感じていたので、納得感がありました。ただ、名前のとおり「ブートキャンプ」で、順を追った丁寧な研修というより、試行錯誤を重ねながら学んでいただくスタイルだったので、参加者にも相応の覚悟が必要だと思っていました。
─開発の経験がない参加者もいる中で、講師としてどのように伴走されましたか。
植松:技術そのもの以上に、「学び方」を教えることを重視しました。わからないことが出てきたら、どうAIに聞くか、返ってきた答えをどう読むかを一緒に確認していきます。最初の段階でこのやり方を繰り返すと、自分で学習を進められるようになります。知識や経験の差は、その後の自学自習で埋めていくものと考えていました。
─初日から実際に手を動かす設計にしたのはなぜですか。
植松:環境が整っていれば、簡単なアプリケーションなら30分程度で形にできます。まずは「動くものができた」「自分でもつくれた」という成功体験を早い段階で得てもらい、その後で基礎や周辺知識、難しい論点を学ぶ方が、理解も定着もしやすいと考えたからです。
─金融機関ならではの観点はどのように扱ったのでしょうか。
植松:〈みずほ〉には社内の手順やセキュリティに関するルールがあるので、そこは内製開発ラボの有識者やリーダーに入ってもらい、個別講義を実施しました。技術だけでなく、組織の中で開発するための前提を学ぶ重要な機会だったと思います。

植松 広一郎 氏(GenerativeX社)
─吉川さん、萩原さんは、実際にプログラムに参加してみて、印象に残っていることはありますか。
吉川:初日は本当に衝撃でした。ターミナルでコマンドを打つと、ファイルが自動で作られていきます。それだけでも驚きでした。午前は講義、午後は自由に使える時間でしたが、実際にはずっと開発していましたね。
成果物はいくつかあり、最後は自分でアイデアを出してゼロからつくります。しかも、つくって終わりではなく、発表して、レビューを受けて、修正する。そのサイクルを研修中から回せたのは大きかったです。
萩原:私は前職のSIerで上流工程を中心に関わっていましたが、実装はパートナー企業にお願いする形が基本でした。それがAIを前提にすると、上流から実装まで一貫して進められます。最初の1週間で、AIとの対話を通じた開発の進め方を学び、そこから一気に実践に入っていきました。大変でしたが、率直に楽しかったです。

AI Bootcampの様子
金融業務知識をAIアプリの開発にいかす。実案件で挑んだPoC開発
─集中学習の後は、実際のPoC開発に入られたのですよね。それぞれ、どのような役割を担ったのでしょうか。
吉川:私は営業現場の相談業務を支援するAIアプリケーションの案件に入りました。ちょうど要件が固まり、実装に入るタイミングでした。内製開発チームのメンバーと役割分担し、私が実装を担当し、チームメンバーがレビューを行う形をとりました。
PoCが始まり、現場で実際に使われていると聞いたときは、研修とはまったく違う実感がありました。仮想課題ではなく、実際に利用されるものをつくっている。そのとき初めて、開発チームの一員になれたと感じました。
萩原:私は融資業務の一部自動化に関するPoCに携わりました。参加時点ではまだ要件整理の段階で、どこまでをシステムに持たせるかを詰めている最中でした。コーディングだけでなく、要件ヒアリング、要件整理、アーキテクチャ検討、実装まで広く関わりました。部分最適ではなく、全体を見ながら調整する役割でした。
─これまでの業務経験は、PoC開発のどのような場面でいかされましたか。
吉川:研修中から、自分がつくったものの価値を自分の言葉で伝えることを繰り返していたので、その後の案件でも関係者に説明するときに役立ちました。営業で培った伝える力と、研修での発表経験がつながった感覚があります。
萩原:要件ヒアリングや、それをどうシステムに落とし込むかという部分は、前職の経験がいきました。そこに、AI駆動開発の進め方やAIエージェント設計の知見が加わったことで、案件推進により広く関われたと思います。
─プログラム修了後、エンジニアとして開発に携わるなかで感じている課題と、今後めざしていることを教えてください。
吉川:始める前は「プログラミング言語を知らなくてもできるのでは」と思っていましたが、やってみると、自分で書かないにしてもAIが生成したコードを読めないと非効率になり、正しい指示が出せません。ですから、言語の学習は続けています。クラウドやデータベース、セキュリティの知識も、本番環境を意識するうえで欠かせないと感じています。
同時に、可能性も強く感じています。以前なら打ち合わせを重ねて資料に落とし、数ヵ月かけて詰めていた検討が、いまは資料をつくるより早く試作品を出せます。今後も、早くサイクルを回せる課題に携わっていきたいです。
萩原:AIによって、これまでより多くのことを短時間で試せるようになりました。だからこそ、人が判断すべきことは何かを考えるようになりました。たとえば、クラウド環境の構成には複数の選択肢があり、外部製品をどう組み合わせるかも、AIに聞いて一つの正解が返ってくるわけではありません。そうした判断のための知識はまだ足りていないので、学んでいきたいです。
初回プログラムで見えた成果と課題。AI Bootcampの現在地とこれから
─修了後の受け皿となる内製開発ラボ側では、どのような準備をしていたのでしょうか。
齋藤:AI Bootcamp修了者のために特別な仕組みを新設したわけではありません。内製開発ラボには社員のエンジニアもパートナー企業のエンジニアもいるので、いつ誰が来てもよいように、ツールや開発ルールをあらかじめ揃えています。例えば、新しくAIエージェントをつくるときのテンプレートや、クラウド環境の払出し手順も標準化してあり、手順に沿えば誰でもすぐに開発を始められる状態です。AI Bootcampの修了者も、新たに入社するエンジニアも、オンボーディングの仕組みは同じです。
─AIを使って開発するうえで、品質やセキュリティはどのように担保しましたか。
齋藤:このプログラムだけが特別ということはなく、開発者の習熟度に応じて編集権限を制御し、レビューも手厚くします。AIが生成したコードも、最終的に人が判断する前提で、確認や承認の仕組みで品質を担保しています。
─プログラム修了者が開発現場に加わったことで、組織に変化は生まれていますか。
齋藤:多様化がかなり進んでいます。内製開発ラボには社員のエンジニア、パートナー企業のエンジニア、そして今回、未経験から開発に加わったメンバーがいます。異なる知識や経験をもつメンバーが、それぞれの強みをいかし、互いに刺激を受けながら開発に取り組んでいます。また、事業会社の内製開発部門であるため、ユーザーである事業部門の視点も取り入れやすい環境です。多様な人材が協働することで、一つの属性の人だけでは得られない新たな視点がプロダクトに加わり、化学反応が生まれています。これは、〈みずほ〉の開発現場ならではの特徴です。
─プログラムの成果と課題を、当初の想定と比べてお聞かせください。
齋藤:当初のねらいだった「プロジェクトで戦力になる」という点は、十分達成できたと考えています。一方で、クラス設計、関数設計、コードリーディングといった開発の基礎は、3ヵ月修了時点ではまだ学習の途中にあります。
語学の習得に例えると、読めるようになってから話せるのではなく、先に話せるようになった状態です。そのため今後は、プロジェクトの中でより深い基礎力を継続して身につけてもらう想定です。
─次回プログラムの予定を教えてください。
齋藤:次回の開催は、2026年11月です。規模を20名程度へ拡大することも検討中です。前回の経験も踏まえて事前学習を導入し、プログラミングやシステム開発の基礎をオンライン教材等で事前に学んでもらいます。そのうえで、「実践がすべて」という3ヵ月のプログラムの根幹と、学習と実践の1ヵ月、OJTの2ヵ月という構成は変えずに進める予定です。
私たちが力を注ぐべきは、学びの道筋を形にして導くことです。実践するのは受講する本人たちである、という構図は維持していきます。
─最後に、〈みずほ〉がめざす開発やものづくりの未来について教えてください。
齋藤:ものづくりは、本質的に楽しいものだと思っています。仕事でものづくりに携わる人が増え、業務経験や技術など、それぞれの強みを持ち寄って開発できるようになったらよいですね。
〈みずほ〉の開発現場には、技術を専門とするエンジニアだけでなく、金融業務の経験を武器に開発へ加わる人材もいます。異なる知識と視点を持ち寄って、業務に近い場所でAIアプリケーションを試作し、実装し、改善していく。AI Bootcampを通じて、そうしたものづくりの面白さと、〈みずほ〉ならではの開発の可能性を、これからも広げていきたいと考えています。

PROFILE
みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 テクノロジー第2チーム 次長
齋藤 悠士
2023年入社。内製開発組織の立ち上げに携わり、現在はAI領域の人材育成と内製開発の推進を担当。「AI Bootcamp」を企画・設計。
みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 テクノロジー第2チーム
萩原 典保
2026年入社。システムインテグレーターで上流工程を中心に経験を積み、デジタル戦略部へ。初回のAI Bootcampに参加し、修了後はエンジニア職として融資業務領域のAIアプリケーション開発等に従事。
みずほフィナンシャルグループ
デジタル戦略部 テクノロジー第2チーム
吉川 育寛
2004年入社。個人営業領域に約20年携わった後、プロジェクト推進部を経てAI Bootcampに参加。プログラミング未経験から開発を学び、修了後はエンジニア職として営業支援領域のAIアプリケーション開発等に従事。
株式会社GenerativeX
植松 広一郎
パートナー企業コンサルタントとして、AI Bootcampの第1ステップとなる集中学習の設計・講義・伴走を担当。
※所属・肩書は取材当時のものです。※本記事に記載の次回プログラムの開催時期・規模は予定であり、変更となる可能性があります。※AIコーディング支援ツールで生成されたコードは、業務要件、品質、セキュリティ等を確認したうえで利用しています。
文・写真/みずほDX編集部








