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コラム連載
井内菜津美の「ともに挑む。ともに実る。」

2023年12月15日 第3回 "「相互理解」のため、障がい者の多様な姿を知ってほしい" 当事者として/特例子会社の社長として…対談から考える「社会の中の"障がい"」

並んで座っている井内選手と森園社長の写真

〈みずほ〉ではフィナンシャルグループや銀行、信託、証券、リサーチ&テクノロジーズなど、様々な分野で障がいのある人が働いていますが、特例子会社 みずほビジネス・チャレンジド(株)では、360人以上の障がい者と約50人のジョブコーチ(障がい者等の職場適応を支援する専門家)が活躍されています。(2023年10月1日現在、肢体、聴覚、内部、視覚、知的、精神・発達障がいのある社員が在籍)
井内選手とみずほビジネス・チャレンジド(株) 森園美智子社長との対談を通じて、「社会の中の"障がい"に対する壁をどうすれば無くせるのか」考えます。

(インタビュー・執筆 みずほリサーチ&テクノロジーズ 堀菜保子)

井内:今日はよろしくお願いします。みずほビジネス・チャレンジドとは関わりが少なかったのですが、経営理念(「社員あっての会社」)や大切にしている言葉(「感謝」「思いやり」「相互理解」)などを拝見して、きっといろいろな障がいのある1人ひとりの社員を大事にされているのだろうと思っていたので、お話しできることをとても楽しみにしていました。

森園:私もとても楽しみにしていました。私自身は当社に来て3年半になります。1年目は、「昇格していくことは嬉しいこと」という銀行員時代の意識を多少なりとも持ち込んでいたと思っています。でも、当社で日々を過ごす中で意識が変わり「幸せの価値は人それぞれ異なる」ということを以前よりもより鮮明に体感、理解できていると思います。ただ、まだまだ分かりきっていないことがあるのではないかと悩む日々です。

「できない」と思い込まず、「何ができて何ができないのか」一緒に確かめる

堀:今日は、みずほビジネス・チャレンジドが大切にしている言葉の一つとして発信している「相互理解」をキーワードにしてお話を伺っていきたいと思います。

森園:あえて分けるとすれば、「健常者と障がい者」の相互理解と「障がい者同士」の相互理解のどちらも大切だと当社で実感しています。そのうえで、まず、井内さんは、みんなにどのように接してほしいと思っているかについてお聞きしたいです。

車いすで少し高いところにある書類を取る社員の写真

(社員はデータ入力、書類のPDF化、各種書類作成・封入・発送等、多岐にわたる業務を行う)

井内:一言で「障がい者」といっても、障がい者になる過程や育ってきた環境は一人一人違うので私自身も単なる一例であると思っています。私自身は子どもの頃から盲学校ではなく地域の公立の学校に通っていたこともあり、周りに対して「こんなサポートが必要です」と、"自分でできること"と"手伝ってほしいこと"を明確に伝えるように心がけてきました。ただ、その線引きは難しいといまだに感じています。

森園:どこまでは自分でできて、どこからはサポートが必要なのか…考えさせられたエピソードがあります。
まずは、当社に来てまもない頃の食堂での話です。私は、車いすの人や手が不自由な社員を見て、すぐに手伝おうとしたんですが、「大丈夫です、手伝わなくて良いです」と言われて…。その後よく見ると、例えば味噌汁をよそう時などどうしても手伝いが必要な時は、障がいのある社員同士で適切に手伝い合っていることに気づきました。「こうしてあげないといけない」と思い込んでいた自分に気づかされました。

車いすで少し高いところにある書類を取る社員の写真

(社員はデータ入力、書類のPDF化、各種書類作成・封入・発送等、多岐にわたる業務を行う)

もう1つは、社員の1人から聞いた話です。その社員は、車いすの方が配属されてきた際にあえて「この書類を取って」と少し高いところにある書類を取ることを求めたそうなんです。社員によると、車いすだから高いところは届かないと決めるのではなくて、「自立できるのか?」「どこまで自力で頑張ってできるのか?」を一緒に確かめたということでした。

井内:そのように自然に試してもらったり、「これはどうなの?」と聞いてもらったりしてくれるのは嬉しいですね。一から十まですべて説明できるわけではないですし、やっていく中で分かっていくこともあると思います。
例えば、文書をメールで送っていただく時も、「読めないだろうな」と思い込むのではなく、「これは読めますか?」と聞いていただけると嬉しいです。ほとんどが画像で構成されているPDFは読めないですが、Excelの表なら音声で認識できることも多いです。

相手と会話をしながら業務を進める社員の写真

(写真右側が森園社長)

「相互理解」のために、「"のに"からの脱却」を

堀:ただ、「相互理解」を実現するためにはこうしたやりとりが大事だと思っても、読者の中には「難しい」と思っていらっしゃる方もいるかもしれません。森園さんご自身はなぜ変われたのでしょうか?

森園:もちろん障がいの特性によってできることに違いはありますが、1対1の人間関係の中で「どうしたらいい?」と自然に会話をするというとてもシンプルなことが大切なんだと、当たり前のことに気づいたからです。それは、障がいがあっても無くても差はないですよね。
ただ、日本社会全体として、そう気づいている人はまだ多くはないのではないかなと思います。

相手と会話をしながら業務を進める社員の写真

(写真右側が森園社長)

井内:とても共感します。私は、その空気感を変えるためのキーワードは「"のに"からの脱却」だと思っています。障がいに対する心の壁、とよく言うじゃないですか。私はその大部分を「のに」という意識が占めていると思うんです。
「目が見えない"のに"/障がいがある"のに"、一人で外に出るのはこわくないのかな?」などと否定形で考えると、思考がそこでストップして「障がい者は大変だ」というフィルターが強化することにつながるのかなと思っています。

笑顔で語っている井内選手の写真

(これまでに大阪や岐阜、札幌で社員との交流会を行っている井内選手。交流会の様子は第2回記事で詳しく)

登壇するイベントでも「目が見えないのに一人で歩くのはすごいと思った」と言われます。もちろんぶつかりそうになる時など怖いと感じる瞬間はありますが…。ですが、そうした捉え方ではなくて「見えなくても一人で歩ける」「こうしたら一人で歩ける」という感覚を持ってもらうにはどうすればいいのか、日々考えています。
もちろん、私自身も他の障がいをどれだけ理解できているか自信はありませんし、「のに」を付けて考えてしまったなと反省する出来事もあります。

井内選手をみつめる森園社長の写真

(森園社長は「この対談が、読者が"普通"を問い直すきっかけになれば嬉しい」と話す)

「障がい者」も一人ひとり全く違う。当たり前のことを知ってもらうために

堀:それを伝えていくには何が必要だと考えていますか。

井内:目の前に障がい者がいることが当たり前になることが必要かなと思っています。「障がい者」と一言で括って考えられることも多いので、「一人ひとり全く違う」というイメージが足りていないのかなと感じているんです。例えば、「障がい者は頑張ると何かがすごい」のような画一的なイメージを持っている方がいらっしゃいます。私自身はたまたま陸上が得意で、ブラインドマラソンをしていることで人前に出ていますが、もちろん苦手なことはあります。それに全員が何か目立つ特技を持っているわけではありません。「一人ひとり全く違う」という当たり前のことを知ってほしいなと思っています。

森園:企業としては、どんな方にもきちんと居場所があることを伝えていき、そのうえで多様な一人一人が、支えあって、認め合って、やりがいをもって働く姿を知ってもらいたいと思っています。

井内選手をみつめる森園社長の写真

(森園社長は「この対談が、読者が"普通"を問い直すきっかけになれば嬉しい」と話す)

関連する動きとして、今年4月施行の改正障害者雇用促進法では、雇用の"数"だけではなく"質"を向上することも企業の責務となりました。これまでは2.3%という法定雇用率、つまり、"数"が企業の義務として定められていましたが※1、今回の改正で、雇用の"質"、つまり、障がいのある方がやりがいを感じられる環境を整え、職業能力の開発や向上にも関する措置を行うことも求められるようになりました。
当社はもともと「社員あっての会社」を経営理念の軸としています。「社員が主役」であるために、ジョブコーチが伴走者になって、障がいのある社員がやりがいを感じながら仕事をやりきる環境を整えることに注力してきましたが、これからもそれを守り抜いていかないといけないと改めて感じた法改正でした。
"数"の裏には一人ひとりの人間がいる、という当たり前のことを改めて示すことにもなったのではないかと感じます。

ジョブコーチとともにフロアで業務中の社員の写真

(社員と"伴走者"であるジョブコーチ)

井内:いろいろな働き方があるわけじゃないですか。〈みずほ〉の中でも、選択肢として、みずほビジネス・チャレンジドの中で働く方法も、私のようにフィナンシャルグループの中で働く方法もあります。選択肢があってそれぞれの良さがあるというのを、障がいのある方にもそうでない方にも知ってもらえたらいいなと思っています。

森園:そうですね。特例子会社で「合理的配慮」※2の中で障がいのある人が集まって働いていて、それはそれで良い部分もあるのですが、同時に外との接点をもっと持ちたいと思っています。外の人にとっては障がいのある人の存在を身近にすることで1人1人多様な姿を知ってもらえるのかなと思います。

笑顔の井内選手と森園社長の写真

(対談の最後には「ぜひ一緒に対面でイベントを実現しましょう」と盛り上がった井内選手と森園社長)

「相互理解」のために今後も発信し続けたい

堀:安心できる場を作り、同時に外との接点も増やしていく—。今後もこれを継続していこうと思われていますか。

笑顔の井内選手と森園社長の写真

(対談の最後には「ぜひ一緒に対面でイベントを実現しましょう」と盛り上がった井内選手と森園社長)

森園:はい。障がいについては根雪みたいにずっと取組みを続けて伝えていくことをしないと理解が途切れてしまうと思っているんです。
そういう意味で、はじめに話した「健常者と障がい者」の相互理解と「障がい者同士」の相互理解に加え、当社とみずほグループ全体の相互理解も大切です。障がいのある方が、長くみずほグループで活躍できるように、これからも協力しあっていきたいです。

井内:私は今回の対談を通して、「相互理解」に対して同じ思いを持っていらっしゃると知りとても心強く感じました。難しさもありますが、マラソンでも普段の生活でも、障がいのことを正しく知ってもらうような発信やコミュニケーションをより意識したいと改めて思いました。
「障がいは自分とは関係ない、自分には起こらない」と他人事に感じている人が抱いている「障がい」に対する一線がなくなっていくよう、これからも誠心誠意伝えていきたいです。

※1:2024年4月には2.5%、2026年7月には2.7%に引き上げられる

※2:内閣府では「合理的配慮の提供」を「障がいのある人から『社会の中にあるバリア(障壁)を取り除くために何らかの対応が必要』との意思が伝えられたときに、行政機関等や事業者が、負担が重すぎない範囲で必要かつ合理的な対応を行うこと」と定義。これまでは行政機関等は義務、事業者は努力義務とされていたが、法改正により2024年4月1日から事業者も義務化されることになった


〈インタビュアー/執筆者〉

みずほリサーチ&テクノロジーズ 社会政策コンサルティング部
ヒューマンキャピタル創生チーム 主任コンサルタント 堀 菜保子

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2017年日本放送協会にアナウンサーとして入局。「おはよう日本」スポーツキャスター、東京オリパラ・北京オリパラの現地キャスターなどを務める。主に、「障がい」「パラスポーツ」「ジェンダー」「LGBTQ+」「先住民族」「DV」などについて、取材・記事執筆・番組制作。
2023年4月より現職。外国人技能実習生や障害児等に関する官公庁の受託調査研究業務、性的マイノリティや女性の人権尊重における地域金融機関の役割に着目した事業開発、「ビジネスと人権」や「人的資本経営」に関する企業支援等に従事。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。

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