vol.12「コンゴと日本を結ぶ線」シクステ・カキンダさんインタビュー
【はじめに】
2分55秒のアニメーション映画「From Hiroshima to Shinkolobwe」は、コンゴと日本の「つながり」を探るために一人の作家の手によって生み出されたものだ。そのつながりとは、〈第二次世界大戦中にアメリカによって広島へ投下されたウランが、ベルギー領コンゴのシンコロブエ鉱山で採掘された〉という史実に基づく時系列のことである。
本作を手がけたのは、コンゴを拠点とするドローイング作家/ビジュアルアーティストのシクステ・カキンダさんだ。今回はメールでのインタビューを通じて、制作の裏側をお聞きした。
【SIXTE KAKINDA(シクステ・カキンダ):プロフィール】
シクステ・カキンダは独学でマンガを学び、東京藝術大学で博士号を取得した。同大学で、彼の作品「Intimate Moments/Monologue」は、最優秀賞を受賞した。
シクステは、ドローイング作家として、またビジュアルアーティストとして、植民地時代以前からのコンゴの歴史と記憶を、コンゴから、コンゴへ、そしてコンゴ国内へとたどる線に焦点を当てながら、線とその線が持つ特性に光を当てる。
シクステは広島、東京、ソウル、ライプツィヒ、アントワープ、ルブンバシで展覧会を開催。ヨハネスブルグやカンパラのレジデンスにも参加し、多くのアーティストとコラボレーションしている。シクステはコンゴ民主共和国のゴマを拠点に活動している。
【コンゴと日本】
皆さんはコンゴという国について、どのくらいのことをご存じだろうか。またコンゴと日本のつながりについて、どのくらい具体的なイメージを思い浮かべることができるだろうか——。
シクステさんが日本に住んでいた頃に出会った人々は、シクステさんの母国であるコンゴについての知識をほとんど持ち合わせていなかったという。
「私は彼らに向かって、自分の国のことをどのように伝えたら良いのかわからないことがしばしばありました。コンゴと日本は地理的にもとても離れているので、直接的なつながりはないように思えたんです」
転機が訪れたのは修士2年のタイミングだった。シクステさんは自らの作品制作を通じて、コンゴと日本の共通点を見つけ出そうと決心する。その共通点とは、〈アメリカによって広島に投下されたウランの原料が、ベルギー領コンゴのシンコロブエ鉱山(コンゴ民主共和国上カタンガ州)で採掘されていたものだった〉という歴史的なつながりだった。
「当時、そのような文脈からコンゴと日本のつながりを探求したコンゴ人(あるいは日本人)のアーティストを私は知りませんでした」
そのようなきっかけで生まれたのが、アニメーション映画「From Hiroshima to Shinkolobwe」だった。本作はシクステさんにとって、自分の国であるコンゴについて語るための、固有の言葉のようなものでもあるのかもしれない。
【空白を満たす疑問と反省】
本作で象徴的なのは、映像で扱われる事実的なモチーフ(国土や記念碑、3Dアニメーション)とぽつぽつと語られるモノローグの組み合わせが醸し出す、淡々とした静かなリズムである。この不思議な空白によって、鑑賞者は自ずと内省的な空間に誘われる。
「私の作品は漫画や日本画から大いに影響を受けています。それらの表現にみられる〈作中に生じる空白を鑑賞者が思い思いに解釈し、思考する〉という特性が、本作にも入り込んでいるような気がします」
また本作は、第二次世界大戦での行いを反省するためのプロセスなのだともシクステさんは語ってくれた。
〈なぜ人類は、人類を破滅させるための道を歩み続けるのだろうか——?〉
おそらく、映像の中の空白を満たすのは、そのような疑問と鑑賞者自身の反省であり、無形の感情に向き合うための静かな時間なのだろう。
映像の構成として、ヒロシマからシンコロブエ鉱山へと、ウランの時間軸を逆さにたどるような手法を選んでいるのも興味深い点だ。おそらく本作で引かれる〈線〉は、単に歴史的事実をなぞる線ではなく、空間と時間を縫い合わせて歴史を再解釈し、人類のおこないが招いた結果に対して鋭く問いを投げかけるための詩的・批評的な方法なのだ。
【芸術が描きうる「線」の可能性】
元々は独学で漫画を学んでいたというシクステさん。現在はより幅広い文脈からドローイング(線を描くこと)の概念を更新するため、研究を重ねているのだそうだ。
「さまざまな文献にあたってドローイングについて研究しているうちに、アフリカでは線を引くことが重要な位置を占めているということに気がついたんです。たとえば1885年のベルリン会議では、アフリカの地図に鉛筆で描かれた線からコンゴなどの国土が誕生しています。空間や社会を分断したり結びつけたりする線、そして本作のアニメーション映画のようにコンゴから日本までのウランの時間軸をたどる線——。ドローイング作家である私にとって、線というのは常にオルタナティブな可能性を開いてくれる特別なものなんです」
最近では創作プロセスにAIを用いながら、コンゴの未来について思索するプラットフォームを設立するなど、最新の技術に着目したプロジェクトにも精力的に取り組んでいる。人工知能や仮想現実、拡張現実が運ぶ未来の世界についても興味があるのだという。
ドローイングにまつわる独自の研究を重ねながら、コンゴの歴史や記憶に向き合い続けるシクステさんの眼前には、まだ誰の目にも触れていない、新たな線が横たわっているにちがいない。


(構成/文:野本修平)
(写真提供:シクステ・カキンダ)