こんにちは。みずほフィナンシャルグループさんが、「子どもたちに、おカネについて学んでもらおう!」と発案して始まった『空想科学金融教室』です。
これを書いているワタクシは、空想科学研究所の柳田理科雄。「おカネもうけの方法を教えてもらえるかも!」とヨコシマな考えで賛同したんだけど、まだおカネ持ちにはなっていません……。
さて、今回はコスモエネルギーホールディングスさんにもご参加いただき、イソップ童話『北風と太陽』について考えることになった。
これは「北風と太陽が、旅人の服を脱がせようと競い合う」というシンプルで有名な話だけど、調べたところ「対戦は2回行われた」とするお話があるようだ。
せっかくなので、その物語を紹介すると……。
北風と太陽が「どっちが強いのか」で言い争いをしていた。
「寒い北風のオレだ」「暑い太陽のボクだ」
どちらも譲らず、にらみ合いが続いていたとき、旅人が通りかかった。
2人の意見は「あの旅人の帽子を脱がせたほうが強いことにしよう」でまとまり、勝負をすることになった。
最初に挑戦したのは太陽だ。
自慢の暖かい日差しを投げかけると、旅人は「今日は暑いな。帽子をしっかりかぶっていないと、倒れてしまう」と、帽子を脱ぐどころか、さらに深くかぶってしまった。
続いて北風。得意の強い風を吹きつけると、旅人の帽子はたちまち飛んでいった。
「わーい。オレの勝ちだ」と、北風は大喜び。
悔しい太陽は「2回戦をやろう」と提案し、今度は「あの旅人のコートを脱がせたほうが強いことにしよう」ということになった。
今度は、先に北風がチャレンジした。
「さっきと同じように、すごい北風でコートを吹き飛ばせばいいんだ」
そして冷たい風をビュービューと旅人に吹きつけるが、旅人はこう言った。
「うわあ、なんて寒いんだ。コートをしっかり着よう」
コートが吹き飛ぶどころか、旅人はコートのボタンをしっかり留めてしまった。
続いて挑戦した太陽は、暖かい日差しを旅人に投げかけた。
旅人は「おお、暖かくなってきた」とホッとした表情を見せたが、やがて「ちょっと暑くなってきた……」
そう言うと、旅人はコートを脱いだ。
太陽はとても喜んで「えっへん、今回はボクの勝ちだな」。
こうして、北風と太陽の力比べは、1勝1敗の引き分けとなった。おしまい。
よく知られているのは、第2回戦のほうで、もともとのイソップ童話に書かれているのもこっちの話。「帽子の話」は、その後どこかで追加されたのだろう。
しかし、1回戦も2回戦も、北風と太陽がやっていることは同じ。
どちらも、北風は風を吹きつけ、太陽は日差しを浴びせるだけなのに、結果が正反対というのがオモシロイですな。
1 エネルギーで考えると?
さて、みずほさんのところにお邪魔した筆者は、コスモエネルギーホールディングスさんにご挨拶をした。
初めまして。本日はよろしくお願いします。
今回の特別講師


電力・新エネルギーの先生
コスモエネルギーホールディングス株式会社
電力事業統括部

電力・新エネルギーの先生
福島 大海 先生
コスモエネルギーホールディングス株式会社
電力事業統括部
こちらこそ、よろしくお願いします。「ココロも満タンに」のコスモさんですね。ワタクシは朝ごはんを食べすぎて、イブクロが満タンです!
柳田先生、面白いジョークをありがとうございました。
うう…。せめてスルーしてほしい…。
さて、本日の題材『北風と太陽』ですが、同じ勝負を2回やって、結果は正反対となりましたね。柳田先生、これはどういうことでしょうか?
北風も太陽も同じことを2回ずつやったけど、勝負の決め手が違ったということですね。1回戦で勝敗を分けたのは風圧(風速)、2回戦は暑さ(日射量)です。
なるほど。では、ここからが本題なのですが、電気エネルギーに換算したら、どっちがスゴイのでしょうか?
風と太陽をエネルギーに換算、ですか。なんだか風力発電と太陽光発電みたいな……。
そのとおり! まさに発電の話をしたくて、今日はコスモエネルギーホールディングスさんにも来てもらったわけです。
ははあ…。でもコスモさんって、石油とかガソリンスタンドのイメージですよね。
石油事業(精製販売・開発・石油化学)はもちろんですが、私たちは、太陽光や風力といった脱炭素社会を支える次世代エネルギーにも取り組んでいます。
そうなんですか!
グループ企業には、日本で最初の風力発電専業会社となるコスモエコパワーという会社もあります。陸上風力発電では、国内トップクラスの実績を誇っているんですよ。
それはぜんぜん知らなかったです。失礼しました。
では、コスモさんも交えて、エネルギーと金融のお話を進めますね。
わかりました。ワタクシはバリバリの理系で、なかでも「エネルギー」の話が大好き。まさか「空想金融教室」で、そんな話ができるとは思わなかったです。いや、もう超ウレシイ。
ありがとうございます。
さて、北風と太陽を、電気エネルギーに換算したらどうなるか、ですが……。
これはシンプルです。太陽光と風力を使って発電する場合、面積1㎡あたりの電力を比較すると、こうなります。
太陽光発電……晴れた日、太陽光がパネルに垂直に当たるとき、1㎡あたり170W
風力発電………気温20℃で、風速10m/秒の風が吹いているとき、1㎡あたり250W
北風のほうが、エネルギーが大きいんですね。
そうです。
しかも、太陽の光は強くなったりしませんが、風力発電で作れる電力は「風速×風速×風速」に比例します。
風速20m/秒だと、2×2×2=8倍の2000W。風速30m/秒だと、3×3×3=27倍の6750W。もう北風の圧勝です。
よってワタクシは「エネルギー換算すると北風の勝ち」だと思いますが、いかがでしょうか、コスモさん?
確かに、同じ規模なら、風力発電のほうが電力は大きいです。ただし、どちらが勝つかは、天候や、場所や、時間帯や、季節によって変わってくるのではないでしょうか。
え? まあ、そうですかね…。
1㎡あたりのエネルギーだけでなく、年間通してどれだけ発電できるかだと、結果はまた違うかもしれませんね。
うむむむ、電力の大小はハッキリしているのに、まだ勝負はつかないと? いったいどういうことだろう?
2 風力発電の可能性
まあ、結論を急がずに、まずは全体像の把握に努めることにしよう。
現実の話、太陽光と風力は、いまどのくらいの発電ができているのですか?
前提として、太陽光も風力も『再生可能エネルギー』でして……。
はい。「再エネ」と略したりしますね。
再エネには他に、水力、地熱、バイオマスなどがあり、これらは永続的に使えて、温室効果ガスも排出しないため、地球温暖化対策として、国際的にも導入が進んでいます。日本の再エネの発電量は、日本で使用される電気のなかで、全体の20%くらいです。
20%…。そんなモノですか。
その内訳としては、水力と太陽光がそれぞれ8%、バイオマスが3%、風力が1%ほど……。
えっ。風力は1%!? たったそれだけ!?
でも2030年には、太陽光を15%、風力を5%に増大させ、再エネ全体で日本全体の36~38%の電気を供給することをめざしています。
それでも5%というのは、少なくないですか。日本には山も多いし、周囲は海。しかも無人島が1万4千もあります。でっかい風車を山や海岸や無人島にバンバン作ればいいのでは……。
おっしゃることはわかります。しかし、風力ブレード(プロペラ)は、風の吹くところに建てないと意味がありません。風力発電に適した場所について、多くはすでに調査を行っていますが、無人島までは調べていないんじゃないかな。
1万4千ヵ所となると、調査費用だけでも莫大になりますね。
あ、そうか…。
風力でいえば、いま注目されているのが、洋上風力発電です。
洋上…? 風力発電のブレードは、山や海岸に建っているイメージがありますけど、「洋上風力発電」というからには、まさかブレードの支柱を海底から建設するんですか?
いま開発が進んでいるものは、岸から近い浅海を対象にしているので、まさに海底に支柱を建てるものがほとんどです。さらに一歩進んで、『浮体式』という、巨大なイカダのようなものを海に浮かべ、その上に風力ブレードを設置するものもあります。
それはすごい! あ。でも、流れていったりしないの?
大丈夫です。イカダは鎖で海底につながれているので、流されません。笑

だったらもう、バンバン作ってほしいですね。海の上だから、かなりデカいのが作れるのでは…?
はい。海の上だと、ブレードも大きくできます。陸上風力発電のブレードは、大きくても直径約130mほどですが、洋上では直径約230mのものが計画されています。
230mとはスバラシイ。それ、海の上ならどこにでも設置していいんですか?
公募で選ばれた事業者であれば、国などが指定した海域に設置することができます。国際条約で認められた『排他的経済水域(EEZ)』というのがあって、そこでは漁業のほかに、資源や自然エネルギーを独占的に管理することができるんですね。
EEZは、かなり広いですよね。
ええ。EEZは、海岸線から370㎞ほど離れた範囲で、日本の場合、面積は国土の約12倍にもなります。今後、ここに風力発電を設置できるようにするため、国で議論が進められています。
日本は周囲を海に囲まれているから、すごく広いんですね。風力発電に向いていると思うので、どんどん設置して、必要な電力の50%くらいを作っていただきたい!
でも、発電所の建設費や運転維持費など、発電に必要なさまざまなコストや事業者の利益も含めて、トータルで考える必要がありますよね。
わー、みずほさん、せっかく夢が広がったのに、ここでおカネの話を持ち出しますぅ?
(キッパリと)費用も含めての、北風vs太陽です。
風力発電用の直径100mとか200mとかのブレードを使うのだから、運んできて建てるのだっておカネかかりますよね。
そうですね。大きなものだと、設置コストが1基だけで数億~数十億円かかることもあります。
えっ、そんなに!?
海からだと、電気を使うところまで送るのも大変だと思いますし……。
はい、そのとおりです。海底ケーブルを敷設しなければならないし、送電ロスもあります。数十㎞送るうちに、電力量は90%程度にまで減ってしまうという試算もあります。
うむむむ。『北風と太陽』ではわからなかったけど、発電に置き換えてリアルに考えると、風力発電もなかなか大変な話になってくる……。
3 太陽光発電は進化している
だったら、太陽光発電のほうが現実的ということだろうか。設置費用も安そうだし、すでに水力発電と同じくらいの実績があるし……。
太陽光発電に必要な『ソーラーパネル』の値段は、以前に比べるとかなり安くなっています。設置費や管理費も安く、空き地や住宅の屋根に設置するなど、小規模でも実現できるのはいいですよね。
自然のエネルギーを電気に変換できる割合(発電効率)はどうなんですか? 風力発電は、理論的に「最大で59.3%」という数値が示されていますが、太陽光発電の場合は……?
一般的には15~20%といわれています。風力も、実際には20~40%といわれますが、太陽光の効率は、それより低いですね。
まあ、太陽光も風も、タダだから仕方がないんだけど…。
次世代の太陽光発電で注目されているのは『ペロブスカイト太陽電池』です。とっても薄く作ることができて、弾力性もある。ペラペラのフィルムみたいな太陽電池なので、今まで設置が難しかったビルの窓に貼りつけることもできます。
へえ、そんなモノがあるんですか!
これを発明したのは、神奈川にある大学の教授です。また、従来のソーラーパネルの材料であるシリコンは、7割を海外からの輸入に頼っていますが、ペロブスカイト太陽電池に必要なヨウ素は、日本の生産量が世界第2位。
それはいい。石油や天然ガスなど、エネルギーは海外からの輸入に頼っていたけど、これはメイド・イン・ジャパンなんですね。
しかも、ビルの窓に貼れるということは、街全体で発電することもできるし、その街で使うんだったら、送電ロスもない。
素晴らしいですね。まさに電力の地産地消。
太陽電池の技術はそれくらい進んでいますが、問題は施工にあります。ビルの窓に貼ってもはがれ落ちないか、紫外線で劣化しないか、など徹底的に安全面等を確認する必要があるんです。
確かに、台風でパネルが飛んで、電線が垂れ下がったりしたら、大変なことになる……。
私たちは、可燃物の入っていないタンクの側面に貼りつけて、長いあいだ太陽光を浴びても問題ないかを確かめる実証実験を進めています。

ここまでの話からすると、風力にも太陽光にも一長一短あるということですね。
となると、北風vs太陽は、いったいどちらが勝つんだろう……?

【太陽光発電と風力発電の比較】
4 すべてを太陽光にできない理由
発電所の立地や各種制約の違いはあるものの、風力と太陽光の発電コストが低いのはどっちですか?
資源エネルギー庁の試算によると、1kWhあたりの発電原価(設備建設費、維持費、政策経費を含む。2020年時点)は、風力が陸上19.8円、洋上30.0円。太陽光は事業用12.9円、住宅用17.7円。いずれも、年々コストダウンが進んでいます。2030年頃には、火力よりも安く発電できるようになる可能性がある、とも言われています。
やはり再エネはコスパがいいですね。とくに、太陽光は安いから、いっそのこと火力も原子力も全部やめて、太陽光だけですべて賄う、というわけにはいきませんか?
それはまた、極端な意見ですね…。
日本のエネルギー政策は『S+3E』をめざしています。
Safety:安全性
Energy Security:安定供給
Economic Efficiency:経済効率性
Environment :環境適合
安全性はいうまでもないし、環境に悪影響を与えないことも、コスト面も重要です。
それはよくわかります。
そしてもう一つ、注目してほしいのが安定供給です。
ふむ、安定供給…。
太陽光発電ができるのは、太陽が出ている昼間だけですよね。
ああ、なるほど。天候の悪い日も太陽光は使えないから、「安定供給」という面では不安がある、ということですか。
その点、風力だと、風が吹いている限り24時間発電できるから、太陽光よりも変動は少ない。
電力がたくさん使われるのは昼間で、深夜は少ない……など、時間帯によっても需要は変わります。電力の安定供給とは、できるだけ需要に合わせた発電をすることです。
再エネ以外の発電方法も含めて考えると、原子力や水力、地熱の発電力はほぼ一定、風力やバイオマスは少し変動、太陽光は時間帯や天候で大きく変わる、という感じでしょうか。
そうですね。ですから、需要に合わせた安定供給のためには、火力発電などの別の発電方法で調整することになります。

(出典)資源エネルギー庁HP 日本のエネルギー 2023年版より抜粋
あっ、電力需要に合わせてコントロールできるのは、火力発電なんだ!
なるほど、火力発電には、そういう役割もあるんですね。
火力発電には、二酸化炭素の排出という環境適合性の問題があるので、二酸化炭素を出さないアンモニアや水素を利用した混焼火力発電、将来的にはアンモニアや水素だけを利用した専焼火力発電の検討が始まっています。
その製造過程で、二酸化炭素は発生しないんですか?
製造過程によっては発生するのですが、大気中に放出された二酸化炭素より扱いやすいし、炭酸カルシウムに変えてコンクリートの材料にするなど、新しい技術が開発されています。
ふーむ。こうやって考えると、「北風vs太陽」という視点だけでは、語れない気がしてきました。
すべての発電方式が、長所と短所を補い合いながら、電力供給していく必要があるんですね…。

5 そんなおカネが、どこから出るの?
しかし、こうなってくると、素朴にギモンがわいてくる。
風力発電はもちろん、大規模な太陽光発電や、それ以外の発電方法にも、それなり設備が必要で、かなりおカネがかかると思います。そういったおカネは、どこから出るんでしょう?
発電設備などの大規模な開発の場合、『プロジェクトファイナンス』を利用されることが多いですね。
プロジェクトファイナンス…とは?
銀行は通常、企業に対して融資しますが、プロジェクトファイナンスでは、特定の事業(プロジェクト)に対して融資します。
通常の融資では、融資を受けた企業が、返済について全責任を負いますが、プロジェクトファイナンスでは、返済の責任はその特定の事業を営む者だけが負います。これを実現するために、事業が抱える様々なリスクを事業に協力するすべての会社に分散します。建設会社や、燃料を供給する会社など。
えっ、そんな事業には、誰も協力してくれないのでは……。
『そのリスクを負ったとしても、利益のほうが大きい』と皆さんが判断されるような、確実性・実現性の高い事業に対して行われる融資です。
エネルギーに関する事業は、これからますます必要とされますからね。
大規模で長期的な事業になるので、融資の期間も通常より長く、十数年と超長期に設定されます。
一般の企業向けの融資期間は、長くて10年くらい?
どんなに長くてもそうですね。でも、プロジェクトファイナンスの場合、事業の継続性が重要ポイントですから。また、事業を継続することで得られる収入のなかから、必要な経費等をまず先に支払い、その残額で融資の返済をしていただく、という方法になります。
まさに、みんなで事業を守ろうという仕組みですね。
社会にとって必要で、確実性・実現性の高い事業であれば、銀行もそういう形で協力させていただきます。
不吉なことを言うようですが、プロジェクトが失敗したら、大変なことになるのでは?
そんなことがないよう、確立された技術を用いるなど、堅実な計画を立てます。いまのところ、私たちが携わった国内発電事業へのプロジェクトファイナンスに、失敗例はありません。
わーお、さり気なく自慢ぶっこんできたー。
6 空想金融教室版『北風と太陽』
予想を超えてスケールの大きな話になったけど、教えてもらったことをもとに考えると、『北風と太陽』は、どんな話になるのだろうか。
北風と太陽が、旅人の帽子とコートを脱がせる勝負を始めた。
1回戦は、北風が旅人の帽子を吹き飛ばして、北風の勝ち。
2回戦は、暑い日差しに照らされた旅人がコートを脱いで、太陽の勝ち。
これで1対1になったため、北風と太陽は話し合って、決勝戦は「旅人の服を全部脱がせた者の勝ち」というルールを決めた。
ところが、いざ太陽がチャレンジしようとしたとき、旅人はばったり倒れてしまった。
1日のあいだに、冷たい北風に吹きつけられたり、暑い太陽に照らされたりしたため、すっかり体調を崩してしまったのだ。
北風「ま、まずい。いったん勝負は中止して、あの旅人を助けないと」
太陽「そうだな。ボクは暑すぎない程度に、旅人の体を照らそう」
北風「オレも、心地よいくらいの微風を、旅人の顔に当ててあげよう」
こうして懸命に旅人の看病を続ける2人だったが、やがて太陽がこう言った。
太陽「すまないが、もうしばらくしたら、僕は姿を消さないとならない」
北風「えっ、キミがいなくなると、旅人の体が冷えてしまうよ。もっと具合が悪くなったらたいへんだ。一晩中ここにいて、暖めてくれよ」
太陽「いや、僕がいると夜にならないから、それはちょっとムリ…」
2人が困っていると、そこにやってきた者たちがいる。
火「おいおい、俺たちを忘れてないか?」
北風「キミたちは……、火に、水に、地熱くん」
水「あの旅人の体調を回復させればいんだろう?」
地熱「だったら、みんなで協力しましょう」
3人はそう言うと、テキパキと働き始めた。
岩と岩に囲まれたスペースに、水がざーっと入ると、その下から地熱が暖め始める。
火は、その近くの枯れ木に燃え移る。
火「北風くん、少し風を起こして、燃えやすくしてくれないか」
北風が優しく息を吹きかけると、枯れ木の火は、まるで焚火のように周囲を照らした。
火「太陽くんは、ゆっくりと沈んでいってくれ。できれば、きれいな夕焼けを起こして」
太陽が言われたとおりのことをしていると、眠っていた旅人が目を覚ました。
旅人「おお、なんて美しい夕焼けだ。しかも、焚火もある。温泉もわいている」
喜んだ旅人は、着ているものをすべて脱ぐと、ゆっくりとお湯につかった。
そして、沈みゆく太陽を眺め、やわらかな北風を頬に受けながら、満足そうに言った。
旅人「自然の力は本当に素晴らしいなあ」
その言葉を聞いた北風と太陽は、にっこりと笑い合った。
北風「旅人の服を全部脱がせるという決勝戦は、みんなの勝ちでしたね」
太陽「ボクたちは、競い合うよりも、力を合わせるほうがいいみたいだな」
そう語り合う北風と太陽を、火と水と地熱が温かく見つめている。

金融を通じ、サステナブル社会の実現に貢献したいです。
好きなことは「インドアゴルフ」です。