
授業の流れ
みずほフィナンシャルグループさんの「子どもたちに、おカネについて学んでもらおう!」というアツい思いから始まった「空想金融教室」。
ワタクシ、空想科学研究所の柳田理科雄も、微力ながらお手伝いしております。
でも、みずほさんの話はオモシロイけど、ときどき「なんでそんなにムズカシク考えちゃうんだろうね、このヒトは」と感じることもあります。あ、ここだけの話ね。
——などとこっそり悪口を書いているところに、おっ、みずほさんから連絡が来ましたぞ。
今回は『ねずみの嫁入り』を題材に、M&Aについて考えましょう。
ほら。ほらほら。
『ねずみの嫁入り』とM&A。みずほさんがまたナゾなことを言い始めた!
筆者にはM&Aというのがよく分からないけど、昔話の『ねずみの嫁入り』が、おカネや金融経済に無関係なのは、しっかり分かります。
今回は、いったいどんな話になることやら……。
とりあえずは、『ねずみの嫁入り』を振り返ってみよう。
1 『ねずみの嫁入り』って、どんな話?
蔵で暮らす裕福なねずみの夫婦には、とてもかわいい娘がいた。
夫婦は、娘を大切に思うあまり「世界でいちばん偉い人に嫁入りさせたい」と考えた。
そこでまず、明るく世界を照らす太陽を訪ね、婿{むこ}になってほしいとお願いする。ねずみのなかには、かわいい娘の婿にふさわしい者はいないと思ったからだ。
ところが、太陽には「私より雲が偉いよ。私を隠すことができるのだから」と断られてしまう。
では、雲に婿になってもらおうと訪ねるが「風のほうが偉いよ。私を吹き飛ばせるのだから」と、またも断られる。
夫婦は続いて風にお願いするが「壁のほうが偉いよ。私は壁を吹き飛ばせない」と、やっぱり断られる。
そこで今度は壁にお願いするが、壁にも「私よりもっと偉い者がいるよ」と言われてしまう。
夫婦が「あなたより偉いのは誰ですか」と尋ねると、壁の返事は「それは、ねずみだよ。私に穴をあけて通り抜けていくのだから」というものだった。
それを聞いて「自分たちがいちばん偉いのか」と満足したねずみの夫婦は、となりの蔵に住むちゅう助を娘の婿に迎えた。
こうして結婚した娘とちゅう助は、いつまでも仲よく暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
ふむふむ。ねずみの結婚相手は、やはりねずみ。
これは科学的にも、まことに腑に落ちる。もし太陽なんぞと結婚したら、いったいどんな人生が待っているやら……。
とはいえこの話、金融経済との接点がサッパリわかりません。
みずほさんが言った「M&A」というナゾな言葉も気にかかるので、さっそく話を聞きに行ってみよう。
2 M&Aとは何だろうか?
『ねずみの嫁入り』では、ねずみが自分たちより偉い人を探していたら、結局自分たちにたどり着きました。
「高望みばかりしないで、自分の周囲をちゃんと見よう」という教訓は、わかりやすくてスバラシイと思います。若いねずみ夫婦にはシアワセになってほしいですよね、みずほさん。
でも、金融経済の視点で考えると、問題が多いです。
なんでそんな視点で考えるんですか。若いねずみ夫婦を素直に祝福しましょうよ。
もちろん祝福しています。熱く応援しています。だからこそ、ねずみ一家には、結婚の仕方を見直していただきたい。
……結婚の仕方? プロセスということ?
はい。幸せな結婚をするには、お互いをよく知ることが大切ですよね。何が好きで、何が苦手なのか。どんな家庭を築きたいのか…。
ええ、それはまったくそうですが、みずほさんが結婚について熱く語るとは意外ですね。どうしたの? 新規事業で、結婚相談所でも始めるの?
そうではありません。ただ、私が思うに『ねずみの嫁入り』において、ねずみの娘も両親も、結婚相手のことをぜんぜん知ろうとしていませんよね?
あっ。言われてみたら、そのとおり!
本人はほぼ出てこないし、両親は、娘かわいさのあまり「偉い人」を求めるばかり。しかも、「偉い」の基準がブレブレで、太陽⇒雲⇒風⇒壁とターゲットを変えていく……。
この昔話を読んだとき、ねずみの一家は、M&Aを参考にしたらいいのになあ、と思ったのです。
出たぞM&A。そのM&Aというのは何ですか? マンガ&アニメ?
マンガやアニメも参考になると思いますけど、金融の世界でいうM&Aとは『Mergers and Acquisitions』、すなわち『合併と買収』の略です。
が、合併と買収!?
はい。会社が別の会社を合併したり、相手の会社を買収したりすることです。事業の一部を買収することも含まれます。
M&Aって、そんな物騒な意味だったの!?
物騒…? 企業の活動のなかでは、M&Aは日常的に行われる行為ですよ。
激しい企業間抗争の果てに「ぬはは、もうおまえの会社は、わが社が買収したぞっ」とか…。
柳田先生は、企業の運営にそんなイメージを持っているんですね…。
違うの?
たとえば『敵対的買収』と呼ばれる、相手の会社の株式を片っ端から買い集めるようなM&Aも、ないわけではありません。法律には違反しませんからね。
でも、多くのM&Aは、お互いの会社のメリットを考え、同意のうえで進めます。だから『会社の結婚』と言われるんですよ。
ははあ、会社の結婚! それで『ねずみの嫁入り』の参考になるわけか。
そうです。M&Aについて説明しますと、話を持ちかける側を『買い手企業』、受け入れる側を『売り手企業』といいます。
また、買い手企業が売り手企業を吸収したり、両者で新しい会社を作って、旧社を消滅させるものが『合併』、株式の譲渡や交換で、売り手企業を傘下に収めるものが『買収』です。
どちらの場合も、買い手にも売り手にもメリットがあると?
あります。まず、買い手企業を考えてみましょう。
別の分野の会社を買えば、技術や人材、販路などが一気に手に入り、新規事業に参入しやすくなります。イチから技術や人材を育てると、時間がかかりますからね。また、同じ分野の会社を買えば、既存事業を強化できます。事業規模が大きくなると、生産や流通で有利になるスケールメリットもあります。
なるほど、それらは分かる…。でも、買われるほうはイヤじゃないかなあ?
売り手企業も、それぞれの状況に応じたメリットがあります。後継者がいなくて困っていた会社は、事業が受け継がれることで、従業員の雇用やノウハウが継承されます。経営難に陥っていた会社は、技術や販路の拡大などで業績の回復が見込めます。不採算分野など事業を部分的に売って、会社の負担を軽くすることもあります。
そうか、お互いの幸せのために、同意していっしょになる、ということで、その点が結婚と似ているんだ。
とはいえ結婚には、従業員の雇用や、販路の拡大という要素はないけど……。
人間の結婚は、個人と個人で行うものですからね。でも、M&Aが成立するまでの過程は、かなり結婚に通じるものがありますよ。

3 結婚とM&Aは、どれくらい似ている!?
『ねずみの嫁入り』の問題点を考えるために、M&Aの話をもう少し聞きたいです。同意のあるM&Aがどう進むのか、どこが結婚と似ているのか……。
M&A成立までの過程は、だいたい次のようになります。①事前準備⇒②相手先とのコンタクト⇒③DD(デューデリジェンス)⇒④オファーの作成・提出⇒⑤交渉・ドキュメンテーション⇒➅本契約締結⇒⑦クロージング⇒⑧ポストマージャーインテグレーション。
はい?はい? 何を言っているのか、ひとつもわかりません。
では、結婚から考えていきましょうか。柳田先生は、婚活を始めるとき、いちばん初めにするべきことは何だと思います?
ん~、そうだな~。好きなタイプをはっきりさせておくことかな。自分がだらしないから、しっかりした人がいい、とか。
おお、いいですね。『自分がだらしない』というのも、とてもいい。
ワタクシがだらしないのが、とてもいい……? あっ。自分のことを把握するのが第一歩ということか!
そうです。自分の性格はもちろん、健康や仕事の状態を自己分析する。どんな将来像を描いていて、パートナーには何を期待するのか…。
これ、会社の場合もまったく同じです。自社の経営状態を把握し、将来のビジョンを明確にしたうえで、どんな企業にパートナーになってほしいかを考える。これが、①事前準備です。
深々とナットクしました。
結婚なら、次はパートナーを探す段階ですよね。友達に紹介してもらったり、趣味や仕事での出会いを探ったり、最近は婚活マッチングサービスを使う手もあるかな。で、好みの相手を見つけたら、コンタクトを取る。
M&Aも同じです。次の段階は、②相手先とのコンタクト。取引のある企業を候補にすることもあれば、人に紹介してもらったり、最近はM&A専用のマッチングサービスもあります。多くの候補のうち、実際に交渉したい企業を選んで、コンタクトします。
あららー、ホントに同じなんだ。
しかし結婚だと、いい相手に出会ったら、デートなんか重ねちゃったりすることになると思いますよ。映画に行ったり、食事をしたり、ひょっとしたら相手の家に呼ばれたりとか。それでご家族を紹介されたりしたら、もうムヒョヒョ~ッだ。M&Aにもムヒョヒョ~ッがあるんですか?
柳田先生の言われるムヒョヒョ~ッのニュアンスが分からないのですが、相手のことを深く理解する、という意味では、同じです。もちろん買い手企業は、売り手企業のことを調べて分析するのですが、自社だけで充分に調べるのは容易ではありません。そのために行うのが③DDです。
DD…? でんでん太鼓の略?
でんでん違います。『デューデリジェンス』の略で、専門家に頼んで、売り手企業の財務内容や事業の実態を調査することです。
せ、専門の人に、相手のことを調べてもらう?
はい。キーワードは『法』『財』『税』で、事業がすべて法律に則っているか(法務DD)、多額の債務(借金)や不良債権(貸したまま返してもらえないおカネ)を抱えていないか(財務DD)、税金をきちんと払っているか(税務DD)などを、弁護士などの専門家にお願いして徹底的に調べます。
ぜんぜんムヒョヒョじゃないというか、デートの甘い感じとは、だいぶ違う…。
売り手企業の事業内容によっては、環境汚染をしていないかを調べたり(環境DD)、事業内容などが複雑な場合は、ビジネスの細部を調べること(ビジネスDD)もあります。
うわ~、丸裸だ~。結婚前にそこまで調べられたら、ちょっと引いちゃいませんか。
相手のことを深く知る日々、という点では恋愛と同じです。デートでも、相手の長所に気づいたり、逆にダメなところを発見したりしますよね。実は借金があった、などの重要問題を見逃してはなりません。甘い視点だけで結婚を決めてはいけないのです。
な、なるほど、確かにそうかも…。
そして結婚では、デートを重ねて「この相手とは人生を共にできそうだ」と思ったら、いよいよプロポーズとなりますね。婚約指輪なんかも用意したりして…。
M&Aでは、④オファーの作成・提出の段階ですね。ストラクチャー(具体的な手順)の検討をして、条件の提示を行います。
プロポーズにOKをもらったら、婚姻届はいつ出すか、どこに住むか、家事や生活費の分担はどうするか……などを話し合いますね。あと、結婚式や新婚旅行についても。
それは、M&Aでは、⑤交渉・ドキュメンテーションです。ドキュメンテーションとは『文書化』のことで、契約書を作り、価格や条件について交渉します。
うーん、何もかも結婚と同じ流れなんだ…。
M&Aの次の段階は、⑥本契約締結・クロージング。最終契約書の締結を行い、諸手続きを完了させます。
結婚では、婚姻届を提出し、結婚式を挙げる段階! わーい、おめでとうございます!
実際には、ここからが大変です。会社にはそれぞれの社風や商習慣がありますから、それを統合していく必要があるわけで……。『買収・合併後の統合プロセス』のことを、⑦ポストマージャーインテグレーション(Post Merger Integration=PMIと略します)といいます。
確かに。日々の暮らしが始まるわけで、おカネの使い方とか、お風呂に入る時間とか、掃除の順番とか、洗濯物のたたみ方とか、それぞれが長くやってきた「あたりまえ」のことを、一つひとつすり合わせていく必要がありますよね。
それを「結婚のPMI」というんですね。
まあ、結婚の場合はその言葉じゃなくてもいいと思いますが、意味合いは同じです。
4 クロスSWOT分析で結婚相手を考える
ここまでの説明で、M&Aの流れはつかんでいただけたかと思います。さて、これで考えると『ねずみの嫁入り』の結婚プロセスはどうでしょうか?
ん~と、①事前準備では、両親が「わが娘はかわいい」と自己分析して、パートナーには「偉い相手」を求めました。②相手先とのコンタクトでは、太陽、雲、風、壁……と、多数の候補者にコンタクトを取っています。どっちもやってはいますね。
すごく粗いですけどね。そして、③デューデリジェンス以降はぜんぜんやっていません。
確かに。まあ、②で相手にやんわりと断られちゃってるので、③まで行かなかったというか…。
そんな方法で、となりの蔵のちゅう助と結婚してよかったのでしょうか…!?
えっ。プロセスはともかく、結論としてはよかったと思いますけど。みずほさんもさっき、祝福すると言ってたではないですか。
それは、娘が本当にそれを望んでいたら…ということです。しかし昔話を読む限り、ねずみの両親は娘の気持ちをまったく聞いていません。これ、問題ですよね。
なるほど、それは気になります。本人が①事前準備をやっていたら、「私はかわいいから、偉い相手がいい」とは思わなかったかもしれない…。
親の欲目、というものでしょうか。
そもそも自分に合った結婚相手というのは、どうやって決めていけばいいんでしょうね? これ、金融経済の専門家のみずほさんに聞くのは間違ってるかな。
間違っていません。ぜひ聞いてください! クロスSWOT分析をすればよいのです。
はいっ!? クロスSWOT分析…とはナンデスカ?
組織やプロジェクトの現状分析や、今後の戦略を考えるときに使うフレームワーク(考え方の枠組み)です。『強み(S)』『弱み(W)』『機会(O)』『脅威(T)』の4要素を分析するもので、それらは次のようなものをいいます。
強み(Strength)
自分の組織が持つ有利な点。競合他社より優位な要素
例:独自の技術、専門知識、優れたブランドイメージ…など
弱み(Weakness)
自分の組織の不利な点。競合他社に劣る要素
例:資金不足、技術的遅れ、市場認知度の低さ…など
機会(Opportunity)
外部の環境に存在する有利な状況
例:市場の成長、技術革新、顧客ニーズの変化…など
脅威(Threat)
外部の環境に存在する不利な状況
例:競合の増加、市場の縮小、原材料コストの上昇…など
はあ…。なんだかものすごくビジネスっぽいですけど、これが結婚相手選定に使えるんでしょーか?
もちろん使えます。このうち『強み』と『弱み』は自分たちのこと、『機会』と『脅威』は外部環境の状況で、それぞれ相反する要素なので、組み合わせて考えます。
このSWOT分析を、ねずみの娘の結婚に適用し、それぞれの要素と、組み合わせによる戦略を考えてみました。彼女にはぜひ、これを元にパートナー選びを再考していただきたい。

おお、これは……。たとえば【SO戦略】というのは、ねずみの娘の「強み=S」と外部環境の「機会=O」を掛け合わせて考えるわけですか。
そういうことです。
ねずみの娘の「強み」は、かわいくて、両親のバックアップがあること、か。なるほど。その下の繁殖力、俊敏性、高い知能というのは、ねずみ全般の強みですね。
一方、外部環境の「機会」は、人間社会によってねずみの食料や住めるところが増えること。これもナットクですね。
そして、その両方をかけ合わせて考えるなら、「環境への適応能力が高い相手」を選ぶのがいい、という結論ですね。何でも食べられて、どんな環境でも暮らせる動物…とか。
どうでしょう。われながら説得力があると思っておりますが。
でも、具体的な候補者名は書かれていませんよ?
ふふふ。SWOT分析表には書ききれなかったので、別表を作りました。不肖みずほ、僭越ながら、20匹ほどの候補を挙げさていただいております。
——と、みずほさんが示した表は、以下のとおり。なんと4つの戦略ごとに、5匹ずつ候補が挙げられている。
みずほさん、モーレツにリキが入ってますね! やっぱり結婚相談所を始める気!?
最初に言ったではありませんか。〈みずほ〉は、若い人たちを応援したい、と。

では、ここまでに聞いてきたお話と、みずほさん渾身の結婚相手候補20選をもとに、空想金融教室ならではの『ねずみの嫁入り』を考えてみよう。
いったいどんな話になり、ねずみの娘はいったい誰と結ばれることになるのでしょーか!?

5 これが、空想金融教室版『ねずみの嫁入り』だ!
蔵で暮らす裕福なねずみの夫婦には、とてもかわいい娘がいた。
娘が年頃になると、「幸せな結婚をしてほしい」と思った夫婦は、最良のパートナーを探すことにした。
そこでまず、娘に好みのタイプを聞いてみると、
「優しくて、お互いに支え合える相手。女性の活躍にも理解があり、子育ても積極的で、家族を大切にしてくれる人がいい」と言う。
父ねずみは「太陽や雲はどうかなあ」、母ねずみは「となりの蔵のちゅう助はどうかしら」と意見を出し合うが、ぜんぜんまとまらないので、銀行に勤める友人に相談してみた。
すると、友人が勧めてくれたのが、クロスSWOT分析だった。
夫婦は、ねずみの「強み」と「弱み」、ねずみを取り巻く状況の「機会」と「脅威」を分析し、各要素がクロスする部分ごとに、結婚相手の候補を5匹ずつリストアップした。
そして、合計20匹のなかから、娘の希望を重視して、次の5匹に絞り込んだ。
・ライオン
・ペンギン
・ネコ
・モグラ
・ゾウ
両親と娘は、それぞれの候補者に会いに行った。
最初にライオンと面談する。
父ねずみ「あなたは強いし、カッコイイ百獣の王。娘の結婚相手としてどうでしょうか?」
ライオン「娘さんは狩りをしてくれるのかい?」
娘ねずみ「えっ、私が狩りを?」
ライオン「ライオンはメスたちが狩りをするけど、獲物をまっ先に食べるのは、リーダーである俺なんだよ。そのルールでいいかな」
ねずみの一家は、ライオンに礼を言って立ち去った。
次に、ペンギンと面談した。
母ねずみ「あなたは子育てに熱心だと聞きました」
ペンギン「そのとおりだ。メスは卵を産むとすぐ海に餌を取りにいくので、その間はオスが卵を温め続けるんだよ。何十日間も、吹雪のときも」
娘ねずみ「とても素敵だけど、たいへんそう…」
ペンギン「なあに。そういうのは子どもが小さいうちだけで、あとはたいてい海で暮らすから平気だよ」
娘ねずみ「海で暮らす…!? ねずみの私が!? それはちょっと…」
ねずみの一家は、ペンギンに礼を言って立ち去った。
次に、ネコと面談。
父ねずみ(少し緊張しながら)「あなたは人間に優遇されているそうですね」
ネコ「そう。大人気のペットだから、人間や他の動物に襲われる心配はほぼないよ」
娘ねずみ「結婚したら、私も平穏な日々を送れるかしら?」
ネコ(ニヤリと笑って)「それはどうかな。私はねずみを追いかけるのが趣味でね」
ねずみの一家は、恐怖で震えながら、ネコのところから逃げ出した。
次に、モグラと面談した。
母ねずみ「あなたは、ずっと地下のトンネルにいるそうですが…」
モグラ「まあね。トンネル内は安全だし、清潔にしているので、快適です」
父ねずみ「トンネル掘りは重労働でしょう。うちの娘に務まるだろうか」
モグラ「大丈夫ですよ。先祖から受け継いできたトンネルを修復しながら使っていますから」
娘ねずみ「まあ、ご先祖さまのことも大切になさっているのね」
モグラ「だから、別のモグラと出会ったら大喧嘩ですよ。俺さまだけのトンネルなんで」
ねずみの一家は、モグラに礼を言って立ち去った。
……ここまで4匹と面談したけど、どれもうまく行かない。
一家は疲れてきた。
父ねずみ「違う動物との結婚は無理があるのかねえ…」
母ねずみ「そうですよ。やっぱり、となりの蔵のちゅう助が分相応ですよ」
娘ねずみ「でも、私ゾウさんにも会ってみたい」
母ねずみ「これまでのどの動物よりも、体の大きさが違うんだよ。期待できないねえ」
しかし、娘ねずみの希望どおり、一家はゾウと面談した。
父ねずみ「あなたは、地球でいちばん大きな陸上生物だそうで…」
ゾウ「ええ、まあ…」
母ねずみ「きっとお強いんでしょうねえ。ライオンにも負けないくらい」
ゾウ「はい、1対1で戦ったらまず負けません。でも、僕たちは群れで行動します」
娘ねずみ「えっ、それはなぜ?」
ゾウ「子どもたちを守るためです。群れの中心に子ゾウを置いて移動します」
娘ねずみ「やっぱりリーダーのオスは、まっ先に餌を食べたりするんですか?」
ゾウ「いえ、ゾウの群れのリーダーは、メスです。オスは群れの後ろを守る役です」
母ねずみ「なんだか、だいぶイメージと違うわね…」
ゾウ「娘さんは俊敏な動きで、素敵ですね。僕たちは動きがノロいので、憧れます」
娘ねずみ「私こそ、ゾウさんの包み込むような、ゆったりとした様子に癒されます」
父&母ねずみ「やややっ、このなごやかなムードは……」
こうして、娘ねずみとゾウは、おつき合いを始めることになった。
2人はお互いの住む地域に行ってみたり、お互いの好物を食べてみたりして親睦を深め、また時間をかけて話し合って、お互いの価値観や将来の夢を共有した。
ねずみの娘は、ゾウが温厚な動物で、身ごもったメスや年老いた仲間にも優しいことを知り、またむやみに他の動物を襲ったりしないことをとても嬉しく思った。
大きな体なのに泥遊びが好きなことも、娘には「かわいい」と思える萌えポイントだった。
やがて、2人は結婚することとなり、盛大な結婚式が行われた。草原や森や都市からもたくさんの動物たちが駆けつけ、2人の門出を祝福した。
そして、体の大きさや、動きの速さなど、いろいろなものが対照的なこの2匹は、お互いの特徴を認め合い、尊重し合って、いつまでも仲よく暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。

——というワケで、ワタクシ柳田理科雄のイチオシはゾウさんでしたー。いや、それにしても、『ねずみの嫁入り』がよもやこんな話になるとは思わなかったー。
みんなが金融の仕事に興味をもってくれたら嬉しいです。たくさん食べることが大好き。