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アリとキリギリスサムネイル

アリとキリギリス

夏に遊んでいたキリギリスはダメなのか!?『アリとキリギリス』で考える「幸せな働き方」。

Can(できること)を増やしながら、Will(やりたいこと)とMust(求められていることに応えること)の折り合いをつけ、楽しくお金を稼ごう。

  • 「働くこと」と「お金」
  • ファイナンシャル・ウェルビーイング
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授業流れ

こんにちはー。昔話のできごとから、おカネのことを学ぶ『空想金融教室』です。
いつも空想学研究所のワタクシ柳田理科雄が、みずほフィナンシャルグループさんにいろいろ教えてもらっていますが、今回はパーソルキャリアさんにもご参加いただくことになりました。
今回の題材は、イソップ童話『アリとキリギリス』。
これは「働き方」がテーマともいえる昔話だから、パーソルキャリアさんが参加されるのも深々ナットクである。

とはいえ、題材は『アリとキリギリス』かあ……。
あの昔話、なんだかお説教されているようで、ワタクシは好きになれません。
どんなお話だったかを振り返ると……。

ある暑い夏の日、キリギリスは得意のバイオリンを奏でて歌いながら、夏を楽しんでいた。そこに、食べ物を懸命に運ぶアリの行列が通りかかる。
キリギリスは「暑いなか、なぜ働いているんだろう?」と不思議に思い、アリたちに尋ねた。
すると、アリたちは「食料がなくなってしまう冬に備えて、食べものを集めているんだ」と答える。
「まだ夏なのに冬の準備なんて……!」と、キリギリスには信じられない。
やがて秋が来てもキリギリスは楽しくバイオリンを弾いて歌い続け、一方アリたちはせっせと冬の準備を続けた。
そして、いよいよ冬がやってきた。
夏も秋も遊び呆けていたキリギリスには、食べ物の蓄えが全然ない。空腹と寒さでフラフラとさまよい歩くばかり……。
そうしているうちに、冬なのにとても暖かそうに暮らしている家を発見する。
なかを覗いてみると、そこにいたのは、キリギリスが楽しく歌って暮らしているあいだも、働き続けたアリたちだ。
やせ細ったキリギリスは、アリたちに食べ物を分けてほしいと頼んだ。
しかしアリたちは「キミは夏のあいだ遊んでいたよね」と取り合ってくれず、キリギリスは寒空のなかをヨロヨロと歩いていくのだった……。おわり。

うわー、やっぱりお説教されている気分だよー。
どう考えても、ワタクシ柳田理科雄はキリギリスの立場だし。
「夏休みになったからといって、プールや虫捕りにうつつを抜かさず、新学期に備えて毎日きちんと宿題をしなさい」と叱られているようなもので、夏休みの宿題をぜんぶやり切った経験がない筆者としては、モーレツに苦手なのであります、この話。

1 キリギリスはダメじゃない!

嘆いても仕方がないので、筆者はみずほさんのところへ行き、パーソルキャリアさんにもご挨拶させていただいた。

パーソルキャリアと申します。本日はよろしくお願いします。

今回特別講師

パーソルキャリアさん
先生の顔イラスト

キャリア教育の先生

伊藤 いとう ごう 先生

パーソルキャリア株式会社
キャリア教育推進グループ

パーソルキャリアさんは、人材採用や転職、副業など『働き方』に関してさまざまな支援をされている企業です。

はい。今回の題材は『アリとキリギリス』ですから、パーソルさんのお話は参考になるだろうと期待しています。では、さっそくですが……。

その前に、柳田先生。夏休みの宿題をぜんぶやったことがないって、本当ですか?

はいっ!?

冗談ですよね。話を盛ってますよね?

いきなりそんな話題!? まあ、でもそれは本当で、一度もやり切ったことがなく……。

……そうですか。宿題をやらないなんて…驚きです。

私も驚きました。そんな人だったなんて…。

むえーっ、こんなところで、子どもの頃の宿題を蒸し返されるとは。
でも、パーソルさんもみずほさんも、どうせお説教するなら、キリギリスを叱っていただきたい。働ける季節に働かないで、食べ物がなくなってからアリに頼ろうとするなど、超ダメダメじゃないですか、キリギリス!

えっ、そうかな?

あれはあれでいいのでは…?

ぬおっ、なんで!? どういうコト!? 夏休みの宿題をやらなかった筆者は、わが身をキリギリスに置き換えて、叱られた気分になってたんですぞ。
なのに、なぜ筆者は責められて、キリギリスは許容されるの!?

キリギリスの話は、『生き方』や『働き方』の問題です。アリとキリギリスは、価値観が違う、ということではないでしょうか。

価値観が違う…?

アリは、先(冬)を見据えて、コツコツと働いています。一方キリギリスは、好きな歌とバイオリンで夏を目一杯楽しむ選択をしていますが、それが悪いわけではありません。

まあ、それはそうかな…。

アリとキリギリス、どちらが正しいとはいえません。大切なのは、幸せを感じられる、充実した人生を送ることです。キリギリスは「全力でひと夏を楽しむこと」を自分で選んで、やりきったでしょうし、アリはアリで、女王や他の仲間の生活を大切にするなど、アリ社会の安定と存続のために働くことで、やりがいや幸せを感じていると思います。

金融視点でも考えてみましょう。アリは、将来を見据えて貯蓄をしていて、キリギリスは、その日その日を楽しく過ごすことを大切にして、おカネを使っている、といえると思います。どちらがいいということはありません。

え。でも、これまでの『空想金融教室』で、みずほさんには何度も「貯蓄は大切」と教えてもらいましたが……。

もちろん、貯蓄は大切です。でも、貯蓄だけが幸せな人生の手段ではありませんよね。貯蓄への思いが強すぎて、『おカネは使わないほうがいい』とか『働くのはおカネのため』という考え方になってしまうのはどうでしょうか。自分や誰かの幸せのためにおカネを使うのは、素晴らしいことだと思います。

自分の幸せのために……。だったら、幸せのために宿題をやらなかったワタクシの選択も認めていただきたく……。

いや、宿題はやりましょう。

それは、価値観の話ではありませんね。

……はい。海よりも深く反省しております。

働き方の話ではありませんが、ほしいと思ったモノを買わずにがまんしていると、気づいたら値段が上がり、買えなくなってしまう…ということもあります。

それ、わかります。『インフレ』というやつですね。

最近は、生活必需品はもちろん、ブランド品も大きく値上がりしています。バッグを買おうか迷っているうちに、とても買えない価格になったと感じている人も多いと思います。

ワタクシも「ラーメン一杯700円は高いなあ」と思ってガマンしていたら、いまでは1,000円を超えるところが続々出てきた。700円のときに心ゆくまで食べておけばよかった……。

2 「機会活用」という働き方

話を『アリとキリギリス』に戻すと、この話のキリギリスは、夏にぜんぜん働かず、冬に備えている様子がありません。「働き方の価値観の違い」以前に、それでは暮らしていけないのではないですか?

そうですね。でも、キリギリスに向いた冬の暮らし方や働き方はあると思います。アリに『食べ物を分けてほしい』と頼むときに、『そのかわり、私の歌とバイオリンで、あなたたちを楽しませます』と交渉する、とか。

おおっ、その手があったか! バイオリンはキリギリスの得意技!

それ、素晴らしいですね。冬のあいだはアリたちも巣にこもりがちで、モチベーションも落ちるだろうから、キリギリスによるライブとか歓迎されるのでは?

ワタクシ、モーレツに感動しました。夏は働かなかったキリギリスも、自分の趣味を活かしてアリに娯楽を提供する、という働き方ができるわけですね。

アリの働き方は、与えられた目の前の仕事をコツコツとクリアして、将来に備える『積み上げタイプ』ともいうべきものです。一方、キリギリスは、夏のあいだ腕を磨き続けた歌とバイオリンの技術を使い、それをアリに売り込んで、冬の仕事を得る。そのときそのときの機会を活かし、自分で仕事を見つけて働くやり方で、『機会活用タイプ』といえると思います。

コツコツ働くというより、自分のスキルを発揮できる機会を、自ら見つけて働く、と…。

うーむ、働き方にもさまざまあるのだなあ。
筆者が子どもの頃は「会社に就職したら、そこで定年まで働く」というイメージだったけど、働き方についての価値観も、実際の働き方も、だいぶ変わったのかもしれませんね。

そうですね。いまから50年くらい前の日本では『高度経済成長期』と呼ばれる時代があり、経済が大きく発展していました。会社もどんどん大きくなり、その会社で与えられる仕事を素直に受け入れ、コツコツこなせば、出世して豊かに暮らすことができました。

いまでも働くといえば、コツコツ型のイメージが強いですよね。

それが「アリは偉い、キリギリスはダメ」という印象にもつながっているような……。

いまは、経済も社会も大きく変わり、『これまでの常識』や『いまの正解』がどんどん変わっていく時代になっています。与えられた今の仕事をこなすだけではなく、自分のスキルを状況に合わせてどう活かすか、仕事に向き合う姿勢を自分で考えなければなりません。

キリギリスのような、機会活用タイプの働き方が求められるようになってきたんだ。

これは、アリが会社員で、キリギリスがフリーランス、という違いでしょうか。

そういうことでもありません。会社員の働き方も同じ傾向にあって、いわゆる『メンバーシップ型雇用』から『ジョブ型雇用』に切り替える企業が増えています。

メンバーシップ型? ジョブ型?

メンバーシップ型とは、会社に就職してから、状況に応じて会社から幅広い仕事を割り振られる雇用形態です。以前は、これが普通でした。
ジョブ型とは、どんな仕事をするかを契約してから就職したり、社内でその仕事をやりたい人やできる人を公募したり、というスタイル。とくに転職の場合は、ジョブ型雇用が多くなってきました。

3 WillとMustに折り合いをつける

そう考えると、柳田先生は時代を先取りしていますよね。もうずっと前から、自分のスキルを活かして、『マンガやアニメのできごとを科学で考える』という、それまでなかった仕事をしてらっしゃる。

あ、いや、それは違うのです。学習塾の講師だったとき、出版社の編集者に提案されて『空想科学読本』を書いたら、予想外にたくさんの人に読まれたので、それが仕事になったにすぎません。自分でも、まさかこうなるとは……。

最初から、いまのような仕事をイメージしていたわけではないんですね。

もちろんそうです。私の実感からいえば、会社に入ってしばらくは、アリのようにコツコツ働くほうがいいのでは、という気がします。自分にどんな仕事が向いているか、若いときから自覚できているとは限らないですよね。

それでもいいと思います。メンバーシップ型である程度の経験を積んで、自分の得意分野を作ったり、好きだと思える職種と出合ってから、自分の『ジョブ』にしていく。実際には、そういう人も多いです。

しかし、柳田先生のような働き方をしてみたい、と憧れる学生さんも多いんじゃないですか?

「マンガやアニメを見て、面白おかしく考察する」とは、なんてラクで楽しい仕事なんだ、と思われますね。大人にも「好きなことが仕事になって、いいですね」とよく言われます。

でも、実際にはラクな仕事ではないということですか?

夢を壊すようで、あまり言わないようにしていますが、けっこう大変です。
いつも「読者が何を面白いと感じるか」を考えながらやっているのですが、毎日のように、編集者や研究所のスタッフに「それだと読者の興味とズレます」、「その書き方では伝わりません」、「面白さが足りないです」と指摘され、やり直しやり直しの連続で……。

好きなことをやり通すのは、決してラクなことではないですよね。読者や出版社の要望を汲み取りながら、自分のスキルを発揮しなければならず、そのバランスは難しいと思います。

おお、ご理解いただけてウレシイ……。

好きなことを仕事にするには、厳しい面もあることを、子どもたちにもわかってほしいですね。

たとえば、プロスポーツ選手は日々厳しい練習をしていますし、成績が悪いと戦力外通告を受けますよね。

先ほど、夏に遊んだキリギリスは、冬はアリのために演奏を……と提案しましたが、それは夏と同じような演奏をすればいい、というものではないはずです。

なるほど。冬場のアリにとって癒しになる演奏は……と考える必要があるでしょうね。

大切なのは、自分のCan(できること)を正しく把握したうえで、Will(やりたいこと、好きなこと)とMust(求められていること、しなければならないこと)のあいだでバランスをとり、どう折り合いをつけるか、ということです。

キリギリスの「できること」「やりたいこと」と、アリに「求められていること」ですね。
Will、Can、Mustがぴったり重なるのが理想かもしれませんが、なかなか難しいかもしれない…。

そうですね。でも、たとえばゲームが好きでたまらない人が、ゲームとは関係のない会社で営業の仕事にしぶしぶ就いてやってみたら、誰よりも成果を出して天職になった、という例も実際にあるんです。

どういうことですか?

その人はテレビゲームが好きで、なかでも、難しいゲームを最短かつハイスコアでクリアすることを楽しんでいました。そして営業では、難易度が高くて、売上の大きなお客さまの攻略法を考えて、最短で目標を達成することに熱中したんです。

WillとMustの重なる部分を見つけた、という感じなんですね。

そうです。もちろん、大好きなゲームの時間を確保したいから、さっさとノルマを達成させたいという動機もあったかもしれませんが、その人にとって『大好きなゲーム』と『やらなければならない仕事』が重なる部分が、『難易度の高いことを最短でクリアするための攻略法を見つけること』だったわけです。

おお、なるほど。

これは一例ですが、『やりたいこと』をなぜやりたいのか、『好きなこと』のどこか好きなのかをくわしく言葉にしてみると、今の仕事に『やりがい』を感じるポイントが増えたり、これまで気づいていなかった自分に合った仕事を見つけたりすることができるかもしれません。また、Canを増やすことも、WillとMustの折り合いのつく領域を増やすことに役立ちます。

4 やりがいを見つけるには?

仕事は収入を得る手段ですが、やりがいもほしいですよね。

仕事とは、相手に価値を提供することです。おいしい料理を作る、公園をきれいにする、安全を守る、命を救う。誰かの役に立つから、おカネがもらえるということです。
また、自分にとっても、何かを成し遂げたという達成感や、新しい人間関係、経験・スキルなどが得られます。働くことは、生きるためのおカネを稼ぐ手段ですが、それだけではないと意識することが、より充実した人生を過ごすカギになります。

人の命を助ける医者や看護師、安全を守る警察官、電力会社や鉄道会社など人々の暮らしを支えている人々などは、人や社会のために役立っている実感があって、やりがいを持ちやすいと思います。
一方で、役立っている実感を見つけづらい仕事の場合は、どうすればいいんでしょう?

たとえば、お酒に関わる仕事はどう思われます?

それは、お酒好きのワタクシにとっては、夢のような仕事です。

でも、場合によっては『健康に悪い』と指摘されることもあるわけで……。

あ、確かにその側面もありますね。

そこだけを見ていたら、仕事を通して世の中の役に立っていると感じられないと思う人もいるかもしれません。
でも、柳田先生みたいにお酒好きの方もいるし、大きな仕事を終えて飲むお酒は格別だし、同窓会でお酒を飲みながら昔話に花を咲かせ、仲間と集まってお酒を飲みながらスポーツ観戦をして盛り上がる。お酒には『人を幸せにする』面もあるわけで、そこにお酒に関わる仕事のやりがいや楽しさを見つけられますよね。

お酒そのものというより、お酒があることで生まれる雰囲気に目を向ける、と。
一度聞きたいと思っていたのですが、みずほさんにとって、仕事のやりがいとは何ですか?

そうですね……。金融業の日々の仕事は、とても地味です。おカネは企業の事業活動や従業員のお給料に使われますので、おカネを扱う仕事は緊張感がありますね。また、お客さまのお金の管理や運用をお手伝いすることで、夢や目標を実現する手助けをしています。
私たちは表舞台で活躍する企業や個人の皆さんの裏方として、経済・社会を支えている……という気持ちで仕事をしています。

マ、マジメだ…、さすがみずほさん…。
やりがいある仕事で、おカネを稼ぐことができるといいですよね。

最近は、『おカネに関する不安から解放され、充実した人生を送る』ための考え方として『ファイナンシャル・ウェルビーイング』というものが注目されています。

仕事とも密接に関係している考え方ですよね。

そのとおりです。『ファイナンシャル・ウェルビーイング』は、『経済的な安心感を持ち、人生を楽しむための選択ができる状態』を指しますが、そのためにも、仕事をして安定した収入を得ることがたいへん重要です。

この『選択できる状態』というのはとても重要で、選択肢の中から自分で選ぶ『自己決定』が、幸福感に強い影響を与えることも研究でわかっています。

確かに、選択肢がないとツライかも…。

また、仕事では、誰かのためになっている、誰かに見てもらえている、自己裁量がある、自分の役割を理解している、自己成長の実感がある、ほっと一息つける時間がある、信頼できる仲間たちと働いている……などが、幸福感に関係しています。

ワタクシはぜんぜんおカネ持ちではないですが、仕事や仲間には恵まれているし、読者にも喜んでもらえて、とても幸せだと感じています。

そうですね。人それぞれ必要と感じるおカネの量は違いますからね。おカネをたくさん持っているから幸せということではなく、自分の夢や目標を設定して、ライフデザインを描き、その実現に向かって自分で選択をしていくためのおカネと心のゆとりを持つことも大事です。

うむむむ、『アリとキリギリス』がこんなに深い話になろうとは……。

5 空想金融教室版『アリとキリギリス』

さて、みずほさんとパーソルキャリアさんに教えてもらったことを活かすと、『アリとキリギリス』のお話は、どういうコトになるのだろうか?

真冬の雪のなか、キリギリスはアリたちの巣にやってきた。
「すみません、食べ物を分けてください」とお願いするが、対応したアリは「キミは夏のあいだ、バイオリンを弾いて遊んでいたじゃないか。分けられる食べ物はないよ」と冷たく言い放つ。
それに対してキリギリスは「遊んでいたなど、とんでもない。あれは練習していたのです」と意外なことを告げた。
「アリさんたちに、私のバイオリンライブを楽しんでいただけたらと思いまして……」。
アリは「そのために練習していたのか…」とちょっと感動し、「じゃあ、食べ物3日分を渡すから、1回やってみてくれ」と提案を呑んだ。
キリギリスは「しめしめ。これで好きなバイオリンを弾きながら冬を越せるぞ。チョロいな」と、アリに気づかれないように笑った。

ところが、バイオリンライブは散々だった。
いや、アリたちも最初はおとなしく聴いていたのだが、演奏が終わると、遠慮会釈のない言葉が飛んできたのだ。
「夏みたいな明るい曲じゃなく、静かで落ち着いた曲をやってくれ」
「みんなで歌ったり踊ったりできる曲がいい」
「曲と曲のあいだに、10分ずつ面白いトークを入れてくれ」
「アニソンはやらんのか」
さまざまな要望が飛び交って、キリギリスは呆然。
よろよろと楽屋に引き上げ、「ぜんぜんチョロくなかった」とガックリしていると、そこに女王アリがやってきた。「ごめんなさいね。みんな勝手なことを言って」。
キリギリスは「こちらこそ、要望に応えられず、すみませんでした」と、バイオリンを持ってその場を去ろうとした。
すると、女王アリはこう続けた。
「みんな巣穴のなかで退屈しているのよ。冬はそういうものだとあきらめていたけど、あなたの演奏を聴いて、欲が出ちゃったのね。もっといろいろ聴きたいって」。
それを聞いたキリギリスは、頭をハタかれたようなショックを受けた。
「巣穴は退屈…。欲…。もっといろいろ聴きたい…」
そして、女王アリに向かって、必死の形相でこう訴えかけた。
「お願いします、来週もやらせてください。ウケたら食べ物をいただくので構いません」

次の週のバイオリンライブは、まったく違うものになった。
静かで落ち着いた曲から、みんなで踊れる楽しい曲、かっこいいアニソンまでバラエティーに富んだラインナップを演奏し、曲と曲のあいだにはトークも挟んだ。鳥に食べられそうになった話は大ウケだった。
さらに、会場からリクエストを挙げてもらい、次々に演奏した。
誕生日のアリのために、即興で曲を作ってそれも弾いた。
キリギリスは自分のためではなく、いま巣穴で気が滅入っている勤勉なアリたちの気持ちを想像し、彼らのために弾いたのだ。
そんな経験は初めてで、とても難しかったが、アリの巣の会場は、まるで夏のように熱く盛り上がった。
会場からは「来週もやってくれ」「その次の週もだ」との声が飛んだ。
「えっ、この難しくて疲れるライブを、来週もその次も……!?」
キリギリスは正直「それはキツイな」と思ったが、結局引き受けることにした。
再び楽屋にやってきた女王アリが「あなたのライブが、みんなにとっても、いい刺激になっているわ。『自分たちと同じように夏に働かなかった』という理由で、あなたを遠ざけなくて本当によかった」と言ってくれたからだ。
キリギリスは冬のあいだじゅう、毎週1回、アリたちのためのライブを開き続けた。

春になって、アリが巣穴から出るときがやってきた。
キリギリスも冬の週一ライブを終え、久しぶりに外に出た。
明るい日射しのなか、「ようやく自分の好きな曲を思う存分弾ける!」と喜んで、バイオリンを弾き始めた。
自分のために弾くバイオリンは楽しかったが、奏でながらキリギリスはふと思った。
「ここはもう少しゆったり弾いたほうが、みんなが楽しく踊れるな」。
アリたちのために必死で演奏した経験が、自分のバイオリンの音色を変えてきていることに、キリギリスはまだ気づいていない。

今回の学び

● 日本の企業は「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への切り替えが増えている。● 自分のできること(Can)を増やしながら、自分にとってやりたいこと(Will)、求められることに応えること(Must)のあいだに、どのように折り合いをつけるかが大切である。● 自分の夢や目標を設定し、ライフデザインを踏まえた仕事やおカネを考えることが大切である。

今回先生

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投資の先生

山浦 やまうら 康二 こうじ 先生

みずほ銀行 コーポレート&インベストメントバンキング業務部

面白い金融の世界を一緒に学んでいきましょう。
好きな漫画は「ハーメルンのバイオリン弾き」、
好きなものは「ゲーム」、「ディズニー作品」です。

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投資の先生

大西 おおにし 次朗 じろう 先生

みずほ銀行 コーポレート&インベストメントバンキング業務部

自分が、自分らしく生きられるための、学びの
きっかけになれば、すごく嬉しいです。好きな漫画は
「BECK」、好きなものは、「犬」、「ギター」です。​

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調査の先生

濱屋 はまや 里美 さとみ 先生

みずほ銀行 企業調査部

固くなった頭を丸くして、ともに学びたいです!
好きな漫画は「ねこねこ日本史」、
好きなものは「LEGO」、「マンゴー」です。

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信託の先生

篠原 しのはら 里英 りえ 先生

みずほ信託銀行 不動産投資顧問部

金融って面白いって感じてもらえたら嬉しいです。​
好きな本は「ハリーポッター」、
好きなものは「スイーツ」、「猫」です。

今回特別講師

パーソルキャリアさん
先生の顔イラスト

キャリア教育の先生

伊藤 いとう ごう 先生

パーソルキャリア株式会社
キャリア教育推進グループ

金融と一緒に「はたらくこと」を​
楽しく学んでいきましょう。​
好きな漫画は「ジョジョの奇妙な冒険」、​
好きなSF小説は「銀河英雄伝説」です。

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