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MIZUHO次世代金融推進プロジェクト

MIZUHO次世代金融推進プロジェクト

データとAIでスマート農業に貢献

データとAIでスマート農業に貢献

写真左から、田所 雅大、皆川 拓、橋田 亮 モニター内、小野 果南

写真左から、田所 雅大、皆川 拓、橋田 亮 モニター内、小野 果南

スマート農業の課題を解決するデータ分析力

現在、日本では農業従事者の高齢化や減少が進み続けている。また、農業経営や栽培技術の面では勘や経験に頼る部分が多い。その解決策として、AI・データ分析による農作業の省力化・作業の見える化・効率化・収量の増加など、スマート農業技術の必要性が高まっている。
最近、栽培ハウス内の環境測定による「環境の見える化」は広がりを見せつつある。しかし、CO2濃度や日射量など、測定した環境データをうまく栽培に活用できていない場合も多い。環境測定が目的ではなく、いかに栽培管理にフィードバックするかが課題といえる。
そんな状況の中、2017年にみずほ銀行栃木支店に、顧客である施設園芸の総合メーカーの誠和から、ハウス栽培の環境機器のデータ分析について相談があった。
誠和の事業は施設園芸用の環境制御機器の販売から大規模プラントの開発など多岐にわたる。2016年には栽培面積8580m2の大型トマト栽培施設「トマトパーク」を開設し、統合環境制御システムを取り入れた最先端のハウスで高収量栽培を実践している。今回の相談は、トマトのハウス栽培で測定している環境データの分析についてであった。
みずほ銀行から相談を受けたのが、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーの皆川拓である。
「ユーザーから集めたデータをより有効活用したいとのことで、データ分析を得意とする弊社で課題解決のお手伝いができればと考えました。実際に同社のデータを元に、どのような知見を構築できるかという観点で仮分析を行って結果を報告。同社が課題認識していた部分と合致し、追加分析の依頼をいただくというやり取りが続きました」

その後、誠和が旗振り役となる農林水産技術会議の「スマート農業実証プロジェクト」の公募案件のコンソーシアムメンバーとなり、2019年に国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が委託する『スマート農業技術の開発・実証プロジェクト「施設園芸コンテンツ連携によるトマトのスマート一貫体系の実証」』案件(以下、スマート農業実証プロジェクト)を受託するに至った。
プロジェクトメンバーは、誠和、農研機構、誠和担当システム会社、栽培コンサル会社、参画農家4社、そしてみずほ第一フィナンシャルテクノロジー。その中でみずほ第一フィナンシャルテクノロジーは分析を担当することになる。

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スマート農業実証プロジェクトが始動

まず最初に行ったことは、トマトパークの栽培データを分析し、環境制御ノウハウを抽出する作業である。
「トマトパークのデータを分析することで、ハウス栽培の環境制御の知見や最適な栽培方法が見えてきます。そのデータをプロジェクトメンバーであるトマト栽培農家のデータと付き合わせて、最適と思われる方法を農家さんに報告し、フィードバックをもらう。データ分析、モデル構築、フィードバックを繰り返すことで精度を向上させていきました」(皆川)
それまで、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーにおいて、農業関連の分析業務経験はなかった。皆川にとっても初めてのチャレンジである。
「プロジェクトメンバーは農業のプロです。そういう方々が一堂に会する定例会で弊社が構築したモデルを何度も報告・説明しました。農業のプロと対等に話をして分析の精度を高めていくためには、圧倒的な量の知識が必要になります。そのため、関連する膨大な書籍・文献を懸命に調査しました」(皆川)

実験施設の環境制御ノウハウの抽出・分析を元に、次のステップとして収量予測モデルの構築に取り組んだ。収量予測モデルとは、環境データや生育データ、施設・品種データを基に、今後のトマト収量を予測するモデルである。
例えば、「CO2濃度を○○ppmから○○ppmにすると、○○kg/10a/週の収量向上効果がある」など、環境・栽培管理を適正化することで、収量向上・コスト削減に貢献できる。
モデル構築のための分析精度を高めるカギ、それは「プロとの対話」だと皆川は語る。
「実際に分析結果を報告すると、『それは当たり前』と言われたり、CO2濃度や日射量などの最適値が出ても『実際にそんな制御はできない』と言われたり、試行錯誤が続きました。その中で大切なのは、しっかりとプロと対話し、その知見を吸収すること。結果だけでなく、その結果をどういかせるかをディスカッションして、収量予測モデルをブラッシュアップしていきました」これまでも世の中には収量予測モデルの取り組みはあった。それらとの違いはなにか。
「従来の収量予測モデルは「光合成のためのCO2の量がいくらで、水がどれだけ……」といった植物生理に基づいたアプローチが多かったと思います。今回はデータドリブンなアプローチにこだわったという点が大きな違いです。結局のところ日射量やCO2、気温といった従来の経験や植物生理で言われていた環境因子が重要という結果ではありましたが、そういった点をデータ分析により定量的に数値化した、というところが特徴かなと思います。」

プロジェクト全体の2019年度の実証成果として、収量の25%増加、農薬費の20%削減、人件費の43%削減、総勤務時間25.7%削減を達成した(2017年作対比)。

< 実験施設の環境制御ノウハウを抽出し農家へアドバイス >

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勘や経験に頼らない労務管理を目指して

2020年の初頭からは、労務管理モデルの構築による管理工数の削減も目指すことになった。
労務管理モデルは、作業結果を保存するデータベースであるとともに、保存された作業結果を基に、これまで記憶と経験に基づいていた作業計画・作業指示書の作成をサポートするものである。
その構築を任されたのが、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーの橋田亮である。労務管理モデルの重要性を橋田はこう語る。「例えばこれまでは、作業が早くて多くの収穫が可能な熟練者も、熟練度の低い作業者も、時間単位で同じ給料でした。早く作業が終わった熟練者は、他の作業を手伝うなど、熟練者が割りを食うような状況です。そうではなく、それぞれの作業状況をデータ分析してモデル化し、それぞれのレベルに合わせた目標設定ができるようにする。新人ならこの時間内にこの分量の作業という設定をして、それをクリアしたらレベルアップした給与体系になるような仕組みです」

トマトパークの大量のデータを、これまでは労務管理には活用していなかった。例えば、生長のモニタリング用に葉の枚数を記録していたが、そのデータとは別に、管理者が毎週数時間かけて生長具合を見てその週の作業を決めていた。
「そこで、モニタリング用のデータをもとに、必要作業量がある程度わかるようなシステムにしました。『この葉の量なら○時間程度、葉摘みにかかる』など、負荷の見積もりもできる仕組みになっています」(橋田)
労務管理モデルと収量予測モデルを連携することで作業効率の改善になる。収穫量が増えれば、それだけ収穫に必要な人・時間が多くなる。あらかじめ収量予測ができるようになれば、そこに必要な人・時間を適正に配分することができるようになるというわけだ。

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いよいよ社会実装! 全国の栽培農家のために

2019年度~2020年度は、スマート農業実証プロジェクトに参画。2021年度は、トマトの品種を拡大し、AI(機械学習)で収量予測モデルを高度化し、誠和のクラウドサービス「プロファインダークラウド」に実装し、当該サービスを利用する全国の栽培農家に展開していくための取り組みを開始した。
スマート農業実証プロジェクトでは特定の品種に的を絞って分析していたが、実用を考えれば他の品種や海外品種の対応も必要になる。そこで、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー2021年度入社の田所雅大が、海外品種版の収量予測モデルの構築を担当することになった。
「私は入社してから半年弱、農業関係案件の経験は初めてで、機械学習も専門ではなかったので、社内で指導してもらいながらのスタートでした。すでに収量予測モデルの構築は2年間の積み上げがあります。新しく海外品種のモデルをつくるとしても、国内品種モデルの理解が重要です。そのため、まずは2年分の資料を読み込んで、モデルのフローを理解することから始めました」(田所)

一方、皆川は、収量予測モデルをクラウドサービスへ実装するための取り組みに着手。誠和の担当システム会社とも協力し、ロジック構築担当として計算ロジック資料とモデルファイルの共有を進めた。
「システム会社との連携ノウハウは、スマート農業のみならず、AI・機械学習の社会実装案件の横展開の際にも活用できるもの。今後もこの経験が活かせると思います」(皆川)

2022年現在、クラウドサービスへの実装はフィールドテストの段階に入った。「これから実際の農家さんの環境で使っていただき、検証していく段階です。問題点・課題点が出てきたら次のフェーズとなります。さらにブラシアップしていきたいですね」(皆川)

< 収量予測モデルをクラウドサービスへ実装 >

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〈みずほ〉だからできる! 社会的課題の解決

みずほ第一フィナンシャルテクノロジーにとって、農業分野での分析案件は初めてのものであった。開発にあたって重視したのが「実際に役立つものをつくること」である。「弊社は高度な数理分析技術を持っています。しかし、技術オリエンテッドで構築を進めてしまうと、理論と実務のギャップがでてしまう。大切なのは現場のプロの話をとことん聞き、農業や栽培の現実を知ること。現場とのギャップが生まれないように、かつ精度が高まる分析・構築を続けてきました」(皆川)
「実際に役に立つのが一番重要」と橋田も語る。
「『つくった』では終わらせたくない。どういうツールだと役立つのか、相手の実務上のニーズを引き出すことを重視しました。弊社には分析技術はありますが、各分野のデータや実務ノウハウはありません。お客さまのデータを活用し、実務ノウハウを学び、一緒に成長しながら問題を解決していく。今回のプロジェクトで農業に関する経験・知見を広めることができました」(橋田)

振り返れば、今回のプロジェクトの発端は、みずほ銀行への顧客からの相談であった。「今回、弊社の分析技術を農業分野に適用するチャンスが得られたのは、みずほならでは全国規模の顧客基盤があったからです。今後はみずほグループのリソースを使って、今回の知見・経験をいかしていきたいと考えています」(皆川)

すでに、各人の心の中には、いろいろな夢が膨らんでいる。
「他作物への横展開をしたいですね。日本の農業の活性化を考えれば、大学の農学部などと連携したり、アグリテック企業や誠和さんのような知見を持つ農業関連企業との共創により、より広い社会実装に向けた取り組みを加速させていきたいと思っています」(皆川)

「栽培過程のモデル構築など、データ分析対象の横展開もあります。また、水産や畜産など他の一次産業分野の社会的課題解決にも貢献できたらと思います」(橋田)
「今回、収量予測モデルを構築しましたが、その先では作物の物流管理が必要になり、それを小売するには在庫管理が重要になります。さらに需要予測も必要になるなど、一つの業種にとどまらず、影響が様々な分野に派生していきます。そうした幅広いニーズを顧客基盤から拾い上げ、金融工学で培ってきたデータ分析の力でつなぎ合わせられるのが〈みずほ〉の強みだと思います。農業を起点にしながら、少しずつ周りの業界をつないで行く『ハブ』のような機能を担えたら良いですね」(田所)

みずほが持つネットワークと金融分析技術から端を発する高度なデータ分析力を用いて、様々な分野の社会的課題の解決に貢献したい!——そんな強い思いが、3人の言葉からひしひしと伝わってきた。

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新たなプロジェクトも始動!

今回のプロジェクトの経験が、新たなスマート農業への取り組みにつながっている。
みずほ第一フィナンシャルテクノロジーでアカデミア連携や業務・技術の企画推進を担う高橋句美子は、スマート農業関連の情報収集・発信を目的として、秋田県立大学が事務局である「秋田版スマート農業モデル創出事業」にみずほ銀行秋田支店とともに参加。その中で「農家・農業法人と労働者のマッチング」が課題・ニーズであるという話を聞き、農家・労働者の双方の希望をマッチングさせる仕組みづくりができないか、社内の小野果南に相談。現在、小野が労働マッチングの技術アイデアを検討している。

「今まで金融分野で経験してきたさまざまなデータ分析のアプローチ・考え方は、金融に限らず広い分野で適用できるのではないかと考えていたところ、高橋から農業の労働管理の部分で役立てられないかと相談がありました。いま、どんなアプローチが可能かを探っている状況です」(小野)
現状、農家と労働者のマッチングに関するデータがない状況なので、まずはどんなデータが必要なのか検討を開始。
「離職理由の調査データは世の中にあるので、そういう一般的な感覚と照らし合わせながら統計的手法を用いて労働管理の課題を解決するためにはどのようなデータが必要なのか、その必要なデータは実際に集められるのか、という両面からアプローチして、最適な仕組みを考えているところです」(小野)
まだ取り組みは「はじめの一歩の手前」と言うが、今後に注目したい。

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〈みずほ〉との連携、今後期待すること

株式会社誠和 代表取締役社長 大出 浩睦 氏

当初、農業でAIを活用・社会実装する事例は少なく、我々にとっても有益なのか悩みました。しかし、皆川さんたちにはAIとは何かといった基本的なことから教えていただき、段階的に技術を進化させていければ問題ないといった方向性も示していただきました。技術が素晴らしいことは当然ながら、顧客である我々の立場や目線に合わせて、適切に導いてもらえたことが最も助けられた部分です。みずほフィナンシャルグループとして、顧客に親身に対応するという方針を感じることができました。
今回共同でAIを活用したトマトの栽培アドバイスサービスを開発することができました。将来的には、他の作物でも同様のことに取り組んでいきたいと考えていますし、機械制御についてもAIによる自動化までできるようにしていきたいと思っています。より多くのデータの分析が必要になり、引き続きみずほ第一フィナンシャルテクノロジー様のお力を頂戴したいと思っています。また、農業はCO2の巨大な吸収源であり、脱炭素の重要なキー産業になり得るものです。昨今のESGファイナンスなどと絡めてみずほ銀行様と何か検討できないかと思っています。

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