ページの先頭です

医療費増大に向き合う協働プロジェクト

医療費増大に向き合う協働プロジェクト

医療費増大に向き合う協働プロジェクト

増加の一途をたどる医療費の抑制は、超高齢社会の日本においてまさに「今ここにある課題」と言えるだろう。既に医療費負担の主たる担い手である健康保険組合の多くは厳しい財務状況にあるが、これに追い打ちをかけるように2025年がやってくる。団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に入ることで、医療や介護の社会保障費負担急増が見込まれているのである。

健保財政健全化に向けた取り組みは待ったなしの状況にあり、さらに、労働力不足に悩まされている企業側でも、従業員の健康増進を図る「健康経営」への意識が高まっている。

しかし、現在行われている施策がどの程度効果を発揮しているのか、どのようにすればさらなる効率化を図れるのか、はっきりと方向性が定まっているケースは多くない。計画的な保健事業の運営が求められるなかで、そもそも人手不足から十分なPDCAサイクルを回す体制が整っていない健保組合も数多く存在するのが実態である。

コロナ禍でさらに深刻化する課題に向き合うべく、〈みずほ〉は第一生命グループとタッグを組み、健保組合向け医療費抑制支援サービス「HealstepSM」を開始する。

「HealstepSM」は大きく4つのサービスからなる。①AIを通じて将来の疾病リスクと医療費予測を可視化し、②これらデータに基づいた対応方針を策定、③さらにサービス事業者と連携して保健指導などの実行支援を行うとともに、④従業員向けの健康増進アプリを通じて生活習慣改善などの行動変容を促す仕掛けを備えている。保健事業の各種施策を評価から改善までワンパッケージでサポートするサービスは国内には例がなく、両社にとっても非常にチャレンジングな新規事業と言えるだろう。

<サービスの概要>

イメージ
イメージ
イメージ
イメージ

〈みずほ〉では、これまでも複数の健保組合向けにデータヘルス計画支援コンサルティング事業を行ってきた。診療報酬明細書や健診結果などのデータを集積・分析し、それらの結果に合わせて効率的な事業運営などをアドバイスする「非金融」のサービスである。しかし、同事業に従事するみずほ情報総研の篠原正紀は、現状に対する強い危機感とともにもどかしさを感じていたという。

「医療費は急速に増加し続けており、このままでは早晩、現役世代が親の世代を支えきれなくなるのは明らかでした。それなのに私たちは、コンサルティングは提供できても、実際の医療費抑制に十分に貢献できているとは言えなかった。いかに綿密な計画も、実現できなくては意味がない。何らかのブレイクスルーが必要と考えていたときに、第一生命と連携する今回の話につながったのです」

第一生命側でプロジェクト統括を担う福井雅人は、協働が始まった当時の状況をこう語る。

「以前より社内には、ご契約いただいた方に保険を提供する従来のビジネスにとどまらず、医療費抑制などの社会課題の解決に向けて、より幅広いサービスを提供できないかという議論がありました。ご契約前の方にも、未病・予防分野でお役に立ちたい。〈みずほ〉と『HealstepSM』の議論を開始したのは、そのような構想に基づいて開発した弊社の健康増進アプリ『健康第一』の事業展開をちょうど考えていた時でした」

コンサルティングを超えた新たなステップを模索していた〈みずほ〉と、ヘルスケアサービスの更なる拡大を検討していた第一生命グループ。両者が目指す方向性が合致し、互いの強みをうまく噛み合わせるかたちで、2018年の冬、事業化に向けた共同研究が始まった。

<各社の役割と連携イメージ>

イメージ
イメージ

企業文化の違いを超えて

しかし、方向性が合致したと言っても、物事を進めるにあたっての考え方やプロセスは、当然各社によって異なる。共同研究には〈みずほ〉と第一生命グループから、みずほ銀行・みずほ情報総研・みずほ第一フィナンシャルテクノロジー・第一生命・QOLeadの5社が参加しており、実際には5社ぞれぞれの目線を合わせながら検討を進める必要があった。さらに、〈みずほ〉は健保組合向けのコンサルティング経験は有しているものの、保健事業の実行支援や健康増進アプリなどの提供経験がなく、第一生命グループにとっては、サービスはあっても、健保組合向け事業は未経験のフィールドと言えた。新たな挑戦と言えば聞こえはいいが、双方に遠慮もあって、当初、プロジェクトはなかなか思うように進まなかったという。

プロジェクト進行を担当した第一生命の御園生知子は、当時をこう振り返る。

「1ヵ月に1回、30人ほどが集まって会議を行うのですが、誰がどう思って、何を考えているのかがよく分からず、コミュニケーションがとりづらいなと感じていました」。

さらに、健康増進アプリの開発に携わるQOLeadの由水孝治は、「誰も本音で話すこともなく、意見も噛み合わない。この1時間半の会議で何が決まったんだろうということがよくありました。このペースで事業化までたどり着けるのか不安になりましたね」と述懐する。

イメージ
イメージ

しかし、メンバーの中には、この事業に揺るぎない自信を持っていた者が1人いた。篠原である。

「企業文化の違いなどは、まったく気になりませんでした。このアプリは絶対に必要なものであり、それを作っているのだから、私は最初からこのプロジェクトはうまくいくと信じていました」

そして2019年11月、厚生労働省主催の「データヘルス見本市2019」に出展した際、篠原の自信はメンバー全員の確信に変わった。

まだコンセプトレベルの展示だったにもかかわらず、ブースには人だかりができたのである。口頭で展望を示す篠原と、それを熱心に聞く、おそらくは健保組合の関係者たち。プロジェクトメンバーは皆、ニーズの強さを肌で感じるとともに、篠原の熱量に改めて驚かされたという。

「だって、まだコンセプトしかできていないのに、AIがプラスできる、健康増進アプリが活用できますなんて言って、たくさんの人に聞かせているんだもの。すごいよね」(由水)

「篠原さんのプレゼンする姿に感銘を受けました。そして、みんなでお揃いの法被を着てアンケートを配ったり、なんとかブースに集客しようと頑張ったこと。そこから一体感が生まれましたし、何としてでも実現させようと覚悟ができたので、社内の説明プロセスも着実に踏んでいくことができました」(御園生)

AIの開発を担うみずほ第一フィナンシャルテクノロジーの西元秀明は、当日までどのように開発を進めていくべきか不安に思っていたという。「AIを使って何をどうしていきたいのかがクリアにならないと、開発を進めるのは難しい。でも、篠原さんの話を聞いてゴールイメージが湧いてきました。迷いがなくなって実現に向けて本気で走り出せた気がします」

見本市以降、議論は活性化し、プロジェクトは大幅なスピードアップを果たす。2020年に入ってコロナ禍が世界を襲った後も、メンバーは一切手を緩めることなく、検討を継続した。対面でのやりとりが大幅に制限され、不自由な進行を余儀なくされたが、オンラインツールを駆使することでむしろ検討は加速したという。些細なことでもメンバーの意見が一致していないと感じたら、その都度ミーティングを行い、腹を割ってとことん話し合う。妥協なき対話と実証実験を通じてサービスを磨きあげた結果、前回はコンセプトに過ぎなかった「データヘルス見本市2020」において、来場者投票により優れた展示を決める「DH-1グランプリ2020」で見事優秀賞を受賞。現在は、4月のサービスインに向けた営業活動に注力している。

「オープン&コネクト」から生まれたもの

ようやくスタートを切ろうとしている「HealstepSM」だが、当然ながらサービスインすればそれで終わりというわけではない。そこから先にこそ、このサービスの本質があると篠原は語る。

「健保組合が重視するのは、今はまだ若い組合員、つまり従業員の将来の健康です。現在の課題にだけ対応したサービスでは、健保組合の満足も得られないし、長期的な医療費増加の抑制にもつながらない。その点、『HealstepSM』が提供する健康増進アプリには、プラットフォームとして様々な機能を取り込める優れた拡張性があります。我々は今だけでなく、5年後、10年後も続くサービス、時代に合わせていくらでも進化していけるサービスを考えていて、そうした展望が皆様に期待感を持っていただける理由だと考えています」

QOLeadで由水とともにプロジェクトを率いる赤羽信吾はサービスの広がりと展望を次のように語る。「我々はすべての人に全方位でヘルスケアサービスを提供できる貴重な機会を与えてもらったわけです。『HealstepSM』が毎日使ってもらえるサービスになるためには、今後さらに試行錯誤していかなければなりませんが、このチャンスを活かして、国民全員がもっと健康になれるように取り組んでいきたい。本気でそう考えています」

イメージ
イメージ

このプロジェクトがもたらしたもの、それは、新たなヘルスケアサービスだけではない。〈みずほ〉でプロジェクト進行を担当した長江美希は、今回の経験を通じて大きな気付きを得たと言う。

「言葉にすると当たり前のように思えますが、熱意を持って諦めずに取り組めば物事は進むんだと、皆さんと仕事をして改めて認識できました。新しいことを始めるときは、熱い想いを持って、あきらめずにチャレンジしていく。『HealstepSM』を少しでも広く普及させて、人生100年時代の皆さまの健康に貢献していきたいと思います」。

〈みずほ〉が掲げる「金融を巡る新たな価値」。次世代に蒔かれた種がまた一つ芽吹きの季節を迎えている。

ページの先頭へ