写真左から、eービジネス営業部 下村 昌弘・後藤 哲・安藤 邦浩、株式会社スマイルワークス 工藤 あかね氏・坂本 恒之氏
写真左から、eービジネス営業部 下村 昌弘・後藤 哲・
安藤 邦浩、株式会社スマイルワークス 工藤 あかね氏・
坂本 恒之氏
〈みずほ〉の強みを生かした中小企業支援へ
2020年10月12日、「みずほERP」がスタートした。中小企業の生産性向上を支援する〈みずほ〉の新たなサービスである。
ERPとは、Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の略で、企業全体の経営資源を有効活用するために、バックオフィス業務などを統合管理するシステムのことだ。大企業では既に一般的になっているが、中小企業ではコスト面のネックもあって導入が進んでいない。現状では、中小企業は業務ごとに個別のシステムを構築・運用しているケースが多く、部署ごとのデータ入力や照合作業など、各所で非効率が発生している。人口減少時代、企業は深刻な労働力不足に悩まされている。生産性の向上はまさに死活問題といえるだろう。
「みずほERP」では、販売管理・財務会計・給与計算を統合管理する。既に同様のサービスを提供している企業もあるが、最大の特徴は法人向けインターネットバンキング「みずほビジネスWEB」の入出金明細や振込データと連携できる点にある。〈みずほ〉が中期経営計画に掲げる「非金融を含めた『金融を巡る新たな価値』」、その創造をめざし挑戦を主導したのが、安藤邦浩と後藤哲の二人であった。
安藤は、みずほ銀行に入社以来、一貫して法人向け決済サービスの商品開発に携わってきており、「決済を軸として、何かお客さまに役立つサービスができないか」と日々考えていたという。後藤はみずほ情報総研にて、メディア・コンテンツ業界向け会計システムなどの法人向け商品開発に取り組んできた実績がある。後藤がみずほ銀行に配属された2016年以降、二人で新商品の議論を重ねてきた。
〈みずほ〉のインターネットバンキングは既に多くの企業に採用いただいている。これと連携する形でERPを提供できれば、中小企業への普及も加速度的に広げることができ、〈みずほ〉としての強みも発揮できるのではないか。そう考えた二人は、新たなサービスにどのような機能を付与すべきか、実際にシステム連携はどのように行われるべきか、「みずほERP」実現に向けた議論を開始した。


他社連携で開発を加速する
〈みずほ〉では、行動軸として「オープン&コネクト」を掲げ、他社との積極的な連携を推奨している。安藤たちもまた、「みずほERP」のコンセプトを固める中で、クラウドERPを展開するフィンテック企業・株式会社スマイルワークスとの連携を行った。
生産性向上は中小企業にとって喫緊の課題であり、とにかくスピードが求められる。さらに、導入のネックとなっているコスト面でも期待に応えるためには、外部ベンダーとの協業が効果的だった。パートナー候補はグローバル企業を含めて複数社あったが、最終的に同社を選んだ理由について安藤は次のように語る。
「スマイルワークス社は既にERPサービスの高い実績があり、中小企業についても確かな見識をお持ちでした。また、我々が強みとして打ち出したい決済業務との親和性が高い販売管理にも精通されていましたので、パートナーとして最適だと思いました。何より魅力的だったのは、彼らのスピードです。より良いサービスをできるだけ早くお客さまに届けるため、彼らとの連携は不可欠と考えました。」
開発当初、安藤も後藤もERPについては初心者であり、早急に知見を深める必要があった。同様に、スマイルワークス社も、自社サービスをインターネットバンキングと連携させるのは今回が初。銀行システムが持つ独特の仕様や、様々なリスクへの対応が求められるため、その仕組みを十分に理解しなければならなかった。
日々濃密なやりとりを通じて、相互理解を深めていく。ユーザーの業種や規模によって実際のオペレーションがどのように変化するのか。どのようにデータ連携させることがユーザーの利便性向上につながるのか。一つずつ確認し、分析し、結果を反映させる。このプロセスを何度も繰り返すことで、安藤たちは着実にサービスを磨きあげていった。


スピードと専門性が次世代を拓く
安藤が言うには、「銀行は綿密に計画を立て、それに沿って着々と進めていく」文化だ。しかし今回は新たな試みであり、いわば未踏の領域。手探りで最善の解を探していかなければならない。そんな時スマイルワークス社の開発姿勢は大いに見習うべきところだったという。
「スマイルワークス社はとにかくスピードを大切にされています。開発においても、入り口でシステムの大枠は決めるが、状況に応じて臨機応変に設計を変更していくというスタンス。それを可能にしているのは、高い専門性を持った社員の方々で、リスク管理を含めて大抵のことは現場で判断ができてしまう」と安藤は舌を巻く。
ただし、金融機関としてお客さまから寄せられている信頼を損ねることは絶対にできない。安藤たちはスマイルワークス社の、開発とテストを高速で回すスピード感ある手法を取り入れつつも、〈みずほ〉として外せないポイントをしっかり押さえながら開発を進めた。
「今回のような新しいプロジェクトでは、簡単に答えが見つからない局面が多々あります。壁にぶつかった時は、仮説を立ててまずは動いてみるというのが大切だと改めて思いました。ただし、金融には金融特有のリスク、法務やセキュリティの論点がある。開発完了日直前まで協議が続くなど、大変な思いもしましたが、〈みずほ〉サイドも金融のプロとして一切妥協しなかった。おかげで良いシステムに仕上がったと思います」と安藤。
二人にとってはもちろん、〈みずほ〉にとっても初めての取り組みである。困難も多かったはずだが、最後までやり遂げられたモチベーションはどこにあったのだろう。
「個人的に利便性や効率にとことんこだわるタイプ。少しでもお客さまの使い勝手が良いものをと考えることがモチベーションになった」と安藤は語る。そして、もちろん金融の専門家としての責任感も強かったという。専門家としての責任感とは、気持ちの問題だけでなく、実際に十分な知識や経験を持って正しい判断を行うということ。「お客さまからいただいている金融の専門家としての信頼に、どうにか応えなければならないと思いました」
後藤も「新しいサービスを開始したことで、かえってお客さまの信頼を失うことにならないようにしなければいけないという思いが強かった」と振り返る。「これからの金融機関では、従業員一人ひとりにさらなる専門性が求められるようになると思います。高い専門性を持ったメンバーが集まれば、物事を現場現場で判断し、高速に進めていくことができる。そのためにも、今回のような高い知見やノウハウを得られる経験をたくさん積むことで、日々成長していければと思っています」


10月のリリースから1ヵ月が過ぎた。お客さまからのご照会も多く、反応は良好だ。既に将来の機能追加を求める声もあり、安藤は期待に胸を膨らませる。「ゆくゆくは『みずほERP』が、得意先や仕入先が直接繋がるプラットフォームのような存在になれば嬉しいです」
いつの日か、この「みずほERP」が経営の必須システムと呼ばれる日を夢見て、二人の挑戦は続いていく。
Column

新たな働き方で作り上げた「みずほERP」
e-ビジネス営業部 法人プロダクト開発チーム 下村昌弘
開発のスタート時期がちょうど新型コロナウィルス感染症の感染拡大と重なってしまい、リモートワークをしながら検討を進めなければなりませんでした。不慣れな環境で大変だったと思いますが、二人はこまめにコミュニケーションを取るなどして、関係者間の密な連携体制を作り上げてくれました。短期間でサービスリリースできたことは、彼らの努力の賜物だと思います。
スマイルワークス社との連携もそうですが、お客さまへのご案内の方法もコロナ禍の状況に合わせて見直しています。今までは、物理的にお客さまを訪問してご案内していましたが、「みずほERP」では、ご説明や申し込みなどをオンラインで完結できるように工夫しています。今後も彼らには、色々な面で新しいことにチャレンジできる、次世代を担う人材に育って欲しいと思っています。

これからにつなげるために
株式会社スマイルワークス 代表取締役 坂本恒之氏、クラウドサービス事業部リーダー 工藤あかね氏
今回のサービスそのものが銀行業界として新しい取り組みだと思いますが、他社と連携してサービス提供するというのは、当社としても初めての案件でした。インターネットバンキングの仕組みを理解することから始めなければならず、安藤さんや後藤さんにはお手数をおかけしたと思います。
当初、お二人はERPについて知見がないとおっしゃっていましたが、熱心に勉強され、いつの間にか、うちの社員に知識が追いついており、驚きました。また、お二人から寄せられる質問に答えるうちに、改めて自社のサービスを見直す良い機会にもなりました。
私たちの業界では、リリースはゴールではなく、スタートです。既にお客さまからの要望も来ていると伺っています。改善するところや追加する部分を見極めて、より良いシステムになるようお互い頑張りましょう。