2026年2月20日

青森のリンゴから始まる“農業の再設計”。日本農業と〈みずほ〉の挑戦

こんなところにも〈みずほ〉 vol.9 日本農業編

農業を成長産業へ。このビジョンを掲げ、日本の農産物を世界の食卓へ届けようと奮闘するスタートアップがあります。青森でリンゴ栽培を手掛ける株式会社日本農業です。

気候や市況といった不確実性、そして後継者不足。多くの課題を抱えるこの領域で、農業全体の構造転換に挑む同社に対し、〈みずほ〉はサステナブルな社会の実現をめざす金融機関として、その挑戦を支えています。

株式会社日本農業 代表取締役CEOの内藤祥平さん、みずほ銀行 イノベーション企業支援部の宗宮史明に、日本の農業の未来と、両者がともに挑むチャレンジについて語ってもらいました。

連載:こんなところにも〈みずほ〉 みずほフィナンシャルグループのパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を体現する〈みずほ〉の社員やプロジェクトに光を当てていきます。

農業を成長産業に転換させる

——「日本農業」はインパクトのある社名ですが、何をする会社ですか。

内藤 祥平 株式会社日本農業(NN)

NN内藤 農作物の生産から販売まで一貫したバリューチェーンを構築し、日本の農業を「衰退産業から成長産業へ転換する」ことをめざす会社です。

日本の農業が成長するためのポイントは二つあります。

一つは「需要を増やす」こと。人口減少により国内市場が縮小する一方で、アジア諸国の経済成長により、高品質な日本の農産物を求める“胃袋”は増えています。今後、日本の農業は、輸出を前提に海外市場で戦うことが不可欠です。

もう一つは「供給を増やす」こと。国内の生産現場は、担い手の高齢化により供給力の減少が続いています。ここにイノベーションを起こし、供給力を高めなければなりません。

この「需要」と「供給」に同時に手を打つことが、私たちの挑戦の核です。

このモデルケースとして、青森県でリンゴの栽培から流通・販売までを一貫して手掛ける事業に着手しています。現在、日本農業では約1万4000トンのリンゴを取り扱っていて、そのうち輸出は4400トンあります。これは日本のリンゴ輸出の15%にのぼります。

宗宮 史明 みずほ銀行(BK)

BK宗宮 日本農業とも創業まもないころからお付き合いがあります。

私自身が直接の担当として接点を持ったのは2024年12月頃で、内藤さんにお会いしたのもそのころです。事業内容の壮大なビジョンはもちろん、内藤さんご自身のストーリーにも感銘を受けました。

高校時代に日本中をサイクリングして農家と出会い、大学ではグローバルな農業を学ばれ、卒業後はマッキンゼーで農業分野を担当されました。

それだけの経歴がありながら、机上の空論ではなく、しっかりと青森の農家に溶け込んで事業に向き合っている。その姿勢に、並々ならぬ覚悟と実行力を感じました。

〈みずほ〉で支援しているスタートアップの中にはアグリテックのプレイヤーが一定数いますが、日本農業のように自ら農業を実践している会社はとても珍しい存在です。

農業を成長産業に転換させる

——農業を成長産業へと転換するという大きな目標を掲げる中で、最初の一歩をリンゴにしたのはなぜでしょうか。

NN内藤 アジア市場では、日本のリンゴの美味しさが高く評価されており、高い需要があります。リンゴは貯蔵性が高く、通年で事業を回せることも利点です。

加えて、リンゴには供給側のイノベーションの余地が、大きく残されています。

従来の日本のリンゴ栽培は、木を大きく育てるのが一般的でした。大きく育った木は、四方八方に枝が広がり、木と木の間隔を広く取る必要があります。そのため、収穫のときには1本1本にハシゴをかけて作業しなければならず、手間になっていました。

私たちが行っている「高密植栽培」は、ワイン向けのブドウ棚のように、リンゴの木を並列に“密”に並べます。すると高所作業車を使って効率的に収穫でき、面積あたりの収量は3倍、生産原価は半額になります。

実は「高密植栽培」は私たちの発明ではなく、海外では既に行われていた農法です。それを日本に持ってきた、いわば「タイムマシン経営」ですね。

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高密植栽培の様子

——生産現場での工夫によって、リンゴの収益性を向上させているのですね。

NN内藤 生産現場だけではありません。私たちは、中間流通のプロセスでも生産者の負担を減らす取り組みを進めてきました。

リンゴ農家の多くは、収穫後に大・中・小といったサイズごとに手作業で仕分けを行ったうえで箱に収めています。夜遅くまで選別作業に追われることも珍しくありません。

そこで私たちは、この中間流通の段階にオランダ製の大型選果機を導入しました。

生産者には「収穫したものをそのまま持ってきてください」とお伝えできるようになり、生産者の手作業の負担を大幅に減らせます。こうした負担軽減は、契約農家になっていただく上での大きな優位性にもなっています。

選果機の導入によって、私たちのもとには、これまで以上に様々なサイズのリンゴが集まるようになりました。そこで、高級品や小玉は海外へ、中くらいのものは国内へと振り分け、最適なポートフォリオを組むことで「全品種・全サイズ」を取り扱える体制を整えています。

これらは、当初から戦略的に狙っていたわけではありません。生産者の声に耳を傾け、一つひとつ課題を解決していく中で積み上がってきた取り組みです。

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——とはいえ、スタートアップが取り組むには農業は難しい領域に思えます。

NN内藤 おっしゃる通り、まず農業は時間軸が非常に長いビジネスです。リンゴは高密植栽培ですら、最大の収量になるまでに約6年かかります。

設備投資も大きく、例えば選果機一つ導入するのに約3億円かかりますし、生産者から仕入れて通年で販売するための運転資金も必要です。

だからこそ、〈みずほ〉のようなメガバンクからの融資や、エクイティファイナンス(株式による資金調達)によって、長い時間軸でしっかりと攻めるためのお金を集めることが不可欠でした。

ただ、この「時間の長さ」はデメリットだけではありません。参入障壁にもなるため、一度作り上げたビジネスは競合に模倣されにくく、強固なものになります。

また、マーケットも大きく、リンゴ1 品目だけで国内約2500億円の規模があります。そして何より、需要が安定している。リンゴの需要が急になくなることは考えにくいですから。

農業の時間軸で戦う覚悟のある人材や資金と巡り会えれば、成長の機会をつかめると考えています。

〈みずほ〉が融資を実行した理由

——農業は時間軸が長く、設備投資額も大きいビジネスです。金融機関としては評価が難しいのでは。

BK宗宮 みずほ銀行では、日本農業に対してコンテナやパレットなどの設備投資のための資金を融資しています。

日本農業のビジネスモデルは、書類だけで審査する従来の手法では評価が難しい側面があります。しかし、みずほ銀行にはスタートアップ専門の審査部門があり、実際にお客さまを訪問し、経営者と直接対話した上で、融資を決めます。

銀行は融資の検討の際、「ヒト」「モノ」「カネ」で会社を分析しますが、歴史の浅いスタートアップは、まだ「モノ」と「カネ」が十分にそろっていません。だからこそ、私たちは「ヒト」を徹底的に見ます。

私も、上長も、審査室の担当も、全員で内藤さんのお話を直接うかがいました。そして、皆がそのビジョンと実行力に深く納得した。これが非常に大きなポイントでした。

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——内藤さんは、〈みずほ〉をパートナーとしてどのように感じていらっしゃいますか。

NN内藤 〈みずほ〉の皆さんは、我々の事業に対して、没入してくれる感覚が強いですね。自分事のように深く興味を持ってくださっていると感じます。

先ほど宗宮さんが私の経歴をお話ししてくださったのですが、普通は、あの内容は私がお話しすることですよね(笑)。そういったところからも〈みずほ〉のスタンスが分かると思います。

また、〈みずほ〉の担当の方は、弊社のYouTubeを本当によく見てくださっていて、「あの茨城の仕入れ担当の○○さん、元気ですか」といった声をかけてくれるんです。一緒に旅路を歩んでくれているチームだと感じています。

——事業面ではいかがですか。

NN内藤 エクイティファイナンスで成長をめざす赤字のベンチャー企業に対して、長期の視点で融資を実行するというのは、銀行として非常に大変な判断だったと思います。

そこを、実際に踏み込んでいただけた。本当にありがたいと思っています。

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「ねぷた」の山車を出したい

——日本農業が5年後、10年後にめざす姿を教えてください。

NN内藤 流通は「毎年30%成長」を目標にしています。現在1500軒いる契約農家を増やし、仕入れも販売も拡大していきます。

生産では、自社の高密植栽培の農園をショーケースとしながら、既存の農家さんや新規参入したい企業に対して「開園支援」を行うことで、我々単独でやるよりも速いスピードで産地全体の生産量を増やしていきます。

また、品目に関しても、リンゴだけでなく、サツマイモやブドウなどにも広げつつあります。

私たちのビジネスはかけ算で増えていくものではなく、あくまで一つひとつ足し算でしか増えていかないものです。地道に一歩ずつ進むしかありません。

その上で、あえて夢を語るのであれば、青森で「ねぷた」の山車を出したいですね。

私は10年前に“よそ者”として青森に入りました。今、少しずつ地域に馴染んできたと感じていますが、もし我々が山車を出せたら、それは地域に「馴染んだ証拠」であり、「青森から新しい産業が生まれた証拠」として、非常にシンボリックなことだと考えています。

——その目標に向けて、〈みずほ〉からどのような支援を期待されますか。

NN内藤 一番大きいのは、もちろんファイナンスです。今回の融資でしっかり事業を成長させ、結果を出し、次の成長資金のパートナーシップにつなげたいと考えています。

もう一つは、「エコシステム作り」です。先ほどお話ししたように、我々は今、他の企業が農業に参入するサポートも始めています。〈みずほ〉が持つ多くの企業との広範なコネクションをいかし、日本の農業産業全体を一緒に盛り上げていく連携も期待しています。

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BK宗宮 我々は、日本農業にとっての「ファーストコールバンク」になりたいと強く願っています。日本農業の会社資料の取引銀行欄の一番左側に名前を記載いただけるような関係を築いていきたい。

日本農業とのパートナーシップを起点に、農業をめぐる「エコシステム作り」にも貢献していきたいと考えています。〈みずほ〉は全国に拠点網があります。実は、青森県内に拠点を有するメガバンクは、みずほ銀行だけなんです。

こうしたネットワークをいかし、地方の有力企業が新たな成長領域として農業分野に本格的に参入していく際に、そのパートナーとして日本農業を紹介していく。

みずほ証券やみずほ信託銀行などグループ各社とも連携しながら、あらゆる面でサポートしていきたいと考えています。

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