2025年10月24日

東北からつくる建設業界の未来。「競争」ではなく「共創」を始めた理由

こんなところにも〈みずほ〉 vol.7 東北アライアンス建設 編

2025年6月、東北の建設業界でこれまでにない挑戦が始まりました。

地域のライバル企業7社が、競争を超えて手を取り合い、新会社「東北アライアンス建設株式会社(TAC)」を設立したのです。

前例のないこの試みを後押ししたのが〈みずほ〉でした。

TACの代表取締役に就任した隂山正弘さん(隂山建設株式会社代表取締役を兼務)と、構想段階から伴走してきた、みずほ銀行の樋川晶太に、新会社誕生の舞台裏と未来への展望を聞きました。

連載:こんなところにも〈みずほ〉 みずほフィナンシャルグループのパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を体現する〈みずほ〉の社員やプロジェクトに光を当てていきます。

建設会社が手を取り合った理由

——東北アライアンス建設(TAC)はどのような会社ですか。

隂山 正弘 東北アライアンス建設(TAC)

TAC隂山 TACは、東北6県を代表する建設会社7社が共同出資して設立した、新しい形の建設会社です。7社はこれまで通り地域での事業を続けながら、TACを通じて力を合わせます。

これまで地域の同業者は、入札の場で価格競争を繰り返すライバル関係にありました。

しかし、建設業界は人手不足や働き方改革による受注制約、資材価格や人件費の高騰といった複雑な課題に直面しています。一社単独で解決するにはあまりに大きな問題で、構造的な限界が見えていました。

そこで私たちは発想を転換し、競争から一歩踏み出して「共創」する道を選びました。「共創プラットフォーム」として、各社単独では成し得ない成長の実現をめざします。

東北アライアンス建設株式会社
東北6県を代表する建設会社とみずほ銀行が出資して2025年6月に設立した建設会社。本社は福島県郡山市。参加する建設会社は、隂山建設(福島県)、大森建設(秋田県)、幸栄建設(山形県)、タカヤ(岩手県)、深松組(宮城県)、藤本建設(青森県)、NICHIUN(青森県)。

例えば、資材高騰には、共同購入によるスケールメリットを生かしてコストを削減していきます。人手不足に対しては、各エリアの工事の繁閑に応じ、余裕のある地域から需要の高い地域へ人材を融通し合い、相互に支援します。各社が持つ特許技術やノウハウも共有していきます。

また、これまで各社単独では対応できなかったような大型案件の受注に、TACとして挑戦します。

具体的な取り組みの一例が、デジタル技術の共有によるDXの推進です。例えば、隂山建設が自社開発した建設アプリ「Building MORE(ビルモア)」を、参加企業で共有・活用しています。

建設現場に関する情報をクラウドで一元管理してリアルタイムに可視化することで、業務を効率化するアプリです。一気に東北全体のデジタル化の底上げが実現すると考えています。

各社が個別に取り組んでいたのでは時間がかかる技術革新を、短期間で達成することが可能になります。

〈みずほ〉との二人三脚

——〈みずほ〉はTACにどう関わっているのでしょうか。

樋川 晶太 みずほ銀行(BK)

BK樋川 隂山社長から「東北の他の建設会社がどのような課題を抱え、何を考えているのか話を聞いてみたい」とご相談いただいたのが始まりでした。

業界の課題認識と、それを乗り越えるためのビジョン、そして「同じ思いを持つ企業があるなら、何か連携できないだろうか」という熱い思いをうかがいました。

私たち〈みずほ〉は「ともに挑む。ともに実る。」をパーパスに掲げ、地域創生にも注力しています。

そうした背景があるので、人口減少が日本国内で最も早く進むとされる東北で、社会課題の解決に真正面から取り組もうとする隂山建設をはじめとする構成企業各社を支えることに、大きな意義を感じました。

また東北全県に拠点を持つ唯一のメガバンクとして、地域を盛り上げるお手伝いをしたいという思いも強くありました。

TAC隂山 〈みずほ〉は、東北6県すべてに支店を有する、唯一のメガバンクです。東北エリア全体という広域での取り組みには、〈みずほ〉の持つネットワークが不可欠でした。

実は、TACの参加企業の経営者とは、これまで個人的な面識はほとんどありませんでした。〈みずほ〉に紹介いただき、それぞれ直接お会いするところから始めました。

対話を重ねる中で、エリアは違っても経営課題や将来への思いが驚くほど共通していることが分かり、「各社が個別に取り組むのではなく、皆で一緒に解決する方法があるのでは」という議論になり、会社設立の構想へと発展していきました。

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——東日本大震災の経験もTACの構想に影響を与えましたか。

TAC隂山 そうですね。東日本大震災では自社の力の限界を痛感しました。特に隂山建設の本社のある福島県では、放射能を除去するために表土を削るなど、除染作業という特有の課題が発生し、復旧作業は大幅に複雑化しました。

もし当時、TACが存在していれば、「オール東北」という広い視点で隣接県の皆さんと連携し、もっと迅速な復旧が可能だったはずです。私たちの対応も、はるかに幅広いものになっていたでしょう。

震災復興に限りません。例えば、青森で豪雪が降った際に他県から除雪支援に向かうなど、県域を越えた協力体制があれば、インフラ維持の可能性は格段に広がります。

構想から1年半。スピード実現の背景

——会社設立が結実するまでには、どのようなプロセスがあったのでしょうか。

TAC隂山 当初はホールディングス形式での株式統合も検討しましたが、参加企業の中には地元で100年の歴史を持つ会社もあり、それぞれ事情が異なるため現実的ではありませんでした。

最終的には「新会社を設立し、各社が出資する」という方式を私から〈みずほ〉に提案させていただきました。この方式によって参画のハードルが下がり、一気に話が進みました。

BK樋川 構想から設立まで約1年半というスピード感で実現できたのは、参加された経営者の皆さまが各社の先頭に立って議論していただいたことも大きいと思います。

通常、これだけの企業が連携するとなると各社の事情もあり合意形成に時間がかかるものですが、今回はトップの意思決定が非常に早く、柔軟でした。私たちもそのスピード感に応えるべく、必死で伴走させていただきました。

——〈みずほ〉が出資者に加わった理由は。

TAC隂山 7社が設立に合意し、会社設立準備に入った後に、私から〈みずほ〉に出資をお願いしました。

〈みずほ〉のネットワークを活用させていただくことで、新しい建設会社の設立が実現し、TACの発展につながると考えました。それを受け入れていただけた時は、〈みずほ〉の「本気」を強く感じましたね。

BK樋川 お客さまが向き合われている社会課題の解決を、融資という形だけでなく、事業パートナーとして、ともに汗を流しながらご支援したいと考えました。出資は、その決意の表れでもあります。

私たち銀行員にとっても、お客さまの経営戦略のど真ん中に入り込み、隂山社長と毎日のようにコミュニケーションを取りながら「ともに挑む。ともに実る。」を体現できたことは、非常に得難い体験でした。

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東北から、新たなモデルを全国へ

——〈みずほ〉は、TACの取り組みで今後どのような役割を担っていきますか。

BK樋川 出資者としてだけでなく、〈みずほ〉が持つあらゆる機能を駆使して、真の事業パートナーとなることが私たちの役割です。

例えば、TACに関心を持つ企業からの問い合わせが、私たち〈みずほ〉にも多数寄せられます。「資材を卸したい」といったサプライヤーからのコンタクトもあれば、「こういう工事案件をお願いできないか」という具体的なご相談もあります。

そうした声をTACにつなげ、ビジネスの結びつきを広げていくことが、一つ目の大きな役割です。

二つ目の、そして非常に重要な役割が、異業種連携による新たな価値創造です。

TACの理念に共感する様々な業種の企業から「一緒に新しい価値を生み出したい」と声をいただいています。そうした方がたをTACにおつなぎすることで、業界の垣根を越えた共創を後押ししています。

DXの推進も支援します。〈みずほ〉が建設ロボットやAIといった最先端技術を持つ企業をご紹介することで、TACの技術革新をさらに加速させることができるでしょう。

東北の建設現場に最新のソリューションを届ける役割を担いたいと考えています。

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——最後に、今後の目標と、この取り組みを通じて社会に伝えたいメッセージをお願いします。

TAC隂山 TACに参加する企業の売上を単純に合計すると約1,000億円、従業員数の合計は約2,000人になりますが、この規模を維持するだけでは意味がありません。

「1+1+1…=7」のような単純な足し算ではなく、「1+1+1…が8、9、10」となるような相乗効果を生み出し、成長を担える会社に育てていきたいです。

建設業は、単にモノを作ったり維持したりするだけでなく、他業種を間接的に支え、社会を守る使命を持った存在です。今後は防災や災害対応、CSR活動についても、このプラットフォームを通じて各社で横展開していきたい。

このアライアンス設立を機に、建設会社の社会的役割をあらためて見つめ直し、東北から日本の建設業界がめざすべき新しいモデルを示していきたいと考えています。

(撮影:吉田和生)

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