
こんなところにも〈みずほ〉
2026年9月4日
プラスチックを半導体から自動車へ。九州をめぐる新しいサーキュラーエコノミーへの挑戦
近い将来、欧州の環境規制により、新車製造に再生プラスチックの使用が義務付けられます。自動車製造に欠かせなくなった再生プラスチックの確保をどうするか。それは今、日本の自動車産業全体の課題になっています。
そんな中、「シリコンアイランド」と呼ばれ、半導体産業が集積する九州の地で、半導体由来の廃プラスチックを自動車部品の原料として再利用する試みがはじまりました。
〈みずほ〉が廃棄物の回収・選別、再生原料の製造、自動車部品の開発を担う異業種3社とともにめざす、「X(半導体) to Car(自動車)」のサーキュラーエコノミー。
その挑戦のこれまでとこれからを有価物回収協業組合石坂グループの石坂繁典さん、ニシキの坂口智亮さん、元ニフコの村田憲彦さんと、発起人であるみずほ銀行の南井嘉彦に聞きました。

半導体製造の廃棄物から自動車部品をつくる
——半導体の廃プラスチックを自動車部品にする共同研究は、どのような経緯で始まったのですか。
BK南井 〈みずほ〉では、全国47都道府県で、地域創生に取り組んでいます。九州での最大のトピックは半導体大手の進出と先端半導体の生産です。しかし、産業創出が注目される一方で、半導体製造工程で出る廃棄物がどう処理されているかはほとんど知られていません。
リサーチしてみると、半導体の製造工程では、製品を載せるトレーや保護具をはじめ、様々なプラスチック製の梱包資材が使われていますが、まだ「廃棄」という考えが一般的です。再資源化の技術を持った企業はあるものの、リサイクル事業者とは連携できていません。また、再資源化した原料を活用する市場もまだ育っていないとわかりました。そこで、廃棄物を資源に変えて、出口となる基幹産業までつなぐ循環を、九州でつくれないかと構想したのです。

南井 嘉彦 株式会社みずほ銀行(BK)
NF村田 九州は半導体だけでなく、自動車産業の集積地でもあります。自動車部品のメーカーであるニフコでは4年ほど前から、再生材を活用する取り組みを進めていました。背景にあるのが、欧州のELV規則*です。新車への再生プラスチックの使用が義務付けられたため、自動車業界全体で再生プラスチックをどう確保するかが、近年の大きな課題になっています。
そんな矢先、〈みずほ〉が九州の資源循環を調査していると知り、一緒に何かできないかと思ってすぐに連絡をしました。
*ELV規則:End-of-Life Vehicles Regulation。自動車の設計から廃棄・リサイクルまで、ライフサイクル全体の循環性を高める欧州の規則。新車への再生プラスチック使用義務などを含む。

村田 憲彦 元株式会社ニフコ(NF)執行役員ESG推進室長/一般社団法人SusPla シニアディレクター/株式会社アクシリア・コンサルティング 代表取締役 社長(現在はアクシリア・コンサルティングとしてプロジェクトをリード)
——石坂グループとニシキは、どのような経緯で共同研究に加わったのですか。
BK南井 まずは、構想の実現に向けて、半導体工場の廃棄物を任せられるリサイクラーを九州一円で調べました。そこでたどり着いたのが、石坂グループです。
IZ石坂 南井さんが当グループを訪れ、代表と4時間にわたって話をしたのが最初でしたよね。その後、私と南井さんが同世代で共通点が多いことがわかり、すっかり意気投合しました。当グループでは以前から半導体関連の廃棄物を引き取っていたため、廃プラスチックを資源として生かすという構想は自然に理解できました。
半導体の製造工程で使われているプラスチック素材は、種類や汚れの状態が一様ではなく、異なる素材が混ざっていることもあります。そこで当グループが廃棄物を回収し、状態を見ながら、自動車部品の原料になり得るものを選別するのです。

石坂 繁典 有価物回収協業組合石坂グループ(IZ) 取締役/専務理事
NS坂口 ニシキは廃プラスチックを再生プラスチックに生まれ変わらせるメーカーです。自動車向けのリサイクル材供給も数十年前から手がけてきました。今回の取り組みでは、石坂グループが選別したプラスチックを、自動車向けの規格に合う様に整えるのがニシキの役割です。そのために、求められる性能に応じて、素材や添加剤の配合を調整し樹脂材料へ加工する工程を担います。

坂口 智亮 株式会社ニシキ(NS)執行役員 合成樹脂事業部 営業部長(取材時はオンライン参加)
ただ、この分野のリサイクルでは「車の廃材を車に戻す」のが王道でしたから、〈みずほ〉から半導体由来の原料を車に戻すと聞いたときは「斬新だな」と思いましたね。それぞれの強みを持ち寄ることで新しい循環を生み出せるのではと考え、参画を決めました。

使用済プラスチックを溶かした後、パスタ状に成形している様子

リサイクルカラーペレット
NF村田 4社が初めて顔をそろえたのは2025年12月ですね。特定の企業グループに属さない独立した企業が集まるコンソーシアムは珍しいと思います。そのため最初から役割や条件を固めるのではなく、まずは互いを知り、率直に話せる関係をつくるところから始めました。
——今回の取り組みでは、回収から部品化まですべて九州で行っています。そこにはどのような意味がありますか。
NF村田 資源循環は、事業として成り立たなければ続きません。参画する事業者が遠方だった場合、運搬にあたっての物流費やCO2排出量が増え、経済性と環境性の双方の面で負担があります。半導体と自動車の関連企業が集まる九州で、一連の工程をつなげられることに大きな意味があるのです。
ものづくりの「動脈」と資源回収の「静脈」を〈みずほ〉がつなぐ
——異なる業種の3社が連携するなかで、〈みずほ〉はどのような役割を担っているのでしょうか。
BK南井 自動車部品をつくる動脈側と、廃棄物の回収や再資源化を担う静脈側は、これまで接点が少なく、互いの実情をよく知りませんでした。価格や品質など、それぞれが重視する条件も異なります。そうした違いを整理し、各社が納得できる形を探りながらつなぐことは、事業の当事者ではない〈みずほ〉だからできると考えています。
私自身、資源循環には以前から強い関心がありました。銀行はお金を融通する仕事ですが、その本質は価値を見いだして必要なところへ融通することにあると思っています。廃棄物として扱われてきたものを資源として生かし、使い手につなぐ。そうした取り組みを事業として成り立たせるところまで見届けたいという思いで、このプロジェクトに関わってきました。

——参画企業の皆さんは、〈みずほ〉の関わりをどのように感じていますか。
NF村田 プロジェクトのフェーズが研究から量産へ進むほど、設備投資や資金面の課題は大きくなります。金融機関が構想段階から入り、事業の中身を理解してくれていることは大きな支えです。私は長年上場企業に勤め、メガバンクとは一通り付き合ってきましたが、ここまで事業に踏み込む銀行はありませんでしたね。
IZ石坂 南井さんだけでなく、〈みずほ〉の担当者は現場までよく足を運んでくれます。動きが速く、豊富な情報も持っているんですよ。銀行は腰が重いというイメージがありましたが、今回の共同研究で印象が変わりました。
NS坂口 私は、この連携を寿司店に例えます。石坂グループが産業廃棄物という海原から資源という魚を捕る漁師、ニシキがニーズに合わせ目利きして旬な魚を整える鮮魚店、ニフコが部品としてお客さまの口元までお届けする料理人。そして、その顔ぶれをそろえ、全体をアレンジしているのが〈みずほ〉です。
ものづくりに関わる3社だけで話していると、同じ目線に立つあまり、見えにくくなる部分もあります。〈みずほ〉の方々は、一歩引いて全体を見ながら、「この相手と話してみては」「次はこう動いては」と具体的に助言してくれます。私たちだけでは判断しにくいところを補ってくれる、心強いコーディネーターとしての存在です。
量・品質・コストの壁を越えて、「X to Car」のモデルケースへ
——今後、共同研究から社会実装へ進むには、どのような課題がありますか。
NF村田 試作した部品が求める性能を満たしても、それだけで量産できるわけではありません。採用後は、一定の品質を保った原料を、必要な量だけ継続して供給する必要があります。半導体由来の廃プラスチックを安定して集められるか、部品に使える品質を再現できるか。量と品質の両面で、これから検証が必要です。
IZ石坂 コストも大きな課題です。再生材は安いと思われがちですが、細かく分別して品質を高めるほど手間がかかり、原料の価格も上がります。コストをかけてでも再生材を使う価値があるという認識が広がらなければ、回収や選別に手間をかけ続けることはできません。自動車部品としてどのくらい使われるのかが見えてくれば、選別や設備にかけられる費用も判断しやすくなります。
NS坂口 コストの問題は、最終的には再生材を使った新車が、消費者にどう受け止められるかにより変化します。日本では再生材への心理的な抵抗が垣間見えることもあり、環境に配慮するために増えるコストをどこまで受け入れてもらえるかにより、ハードルの高さは変わります。
BK南井 コストの負担を企業だけで吸収するのは難しく、環境価値を適切に評価し、補助制度などで後押しすることも欠かせません。共同研究を通じて採算面の論点を具体化し、現場の実情を政策提言につなげることにも、〈みずほ〉として取り組むべきだと考えています。

——最後に、このプロジェクトにかける思いを聞かせてください。
NF村田 これはELV規則への対応という話にとどまりません。国内で廃棄されたプラスチックが海外に流れ、加工された再生プラスチックを日本が買い戻す。そんな逆転現象が現実に起きています。この海外からの供給が止まれば、産業そのものが立ち行かなくなる。資源循環は、サステナビリティの話であるとともに、経済安全保障の話でもあるのです。だからこそ、規制が本格化してから動くのではなく、今のうちに実用化への道筋をつけなければなりません。
IZ石坂 私自身、これまでプラスチックの回収に携わってきて、本音では「これが部品に戻るのが一番良いのに」とずっと思っていました。それで、これまでも何度か「X to Car」に挑んできましたが、ことごとく失敗してきたんです。しかし、今回は回収から製品化までをつなぐパートナーがそろっています。長年の目標を、ファーストペンギンとして、今度こそ形にしたいですね。
NS坂口 当社の強みは「無」を「有」にするだけではなく「有」をさらに「優」に変えていくことです。今回のプロジェクトで資源を価値化する「X to Car」を実現できれば、他の地域や領域においても、半導体由来のプラスチックに限らない、様々な「X」に広がっていくと信じています。
BK南井 まずは規模の大小にかかわらず、半導体由来の廃プラスチックが実際に自動車部品になる事例を、皆さんがおっしゃる通りファーストペンギンとして実現できたらいいですね。このメンバーなら、それができると思っています。その先で、〈みずほ〉として横展開していきながら日本としてのモデルを構築し、さらにはそれをグローバルに展開していく。今回の取り組みは、そんな大きなプロジェクトの第一歩だと思っています。