
こんなところにも〈みずほ〉
2026年7月17日
「ウニ」から始まるブルーエコノミー。藻場の再生で「海のエコシステム」を守る
海藻を食い尽くすウニの大量発生によって引き起こされる「磯焼け」。それに伴い、海の生態系を支える藻場が失われ、貴重なCO2の吸収源であるブルーカーボン(※1)の機能が低下しているそうです。ウニノミクスグループは循環型ビジネスを日本をはじめ世界8か国・18拠点で展開。これらの解決に挑んでいます。
ブルーエコノミーの新たな担い手として海洋生態系の修復を持続可能な事業へと昇華させる同グループ。〈みずほ〉は、持続可能な社会の実現をめざす金融機関として、同グループに資本参加を行い、その挑戦を支えています。
日本法人であるウニノミクス株式会社 代表取締役会長のジャイルズ・カドマンさん、代表取締役社長の石田晋太郎さん、みずほフィナンシャルグループ サステナブルビジネス部の大谷智一に、海洋環境の課題解決と、両者がともに描くブルーエコノミーの未来について語ってもらいました。
※1海藻などの海洋生態系が光合成により吸収・蓄積する炭素のこと
磯焼けを解決する循環型ウニ畜養事業
——磯焼けの原因となるウニに対して、ウニノミクスはどのように取り組んでいるのでしょうか。
UNカドマン 私たちが解決策として考えたのは、海藻を食い尽くすウニを商品に変えることでした。磯焼けの原因となるこれらのウニは痩せていて、本来は食用にはなりません。そんな痩せたウニを漁業者から買い取り、独自の技術で育て直し、販売する。私たちが育て直した高品質なウニは、板盛り・塩水・殻付き等、用途に合わせた形に加工して、水産卸や大手寿司チェーン等、国内外の市場に届けられています。このサイクルを回すことで、海の生態系の基盤となる藻場を再生させるのです。

さらに、海藻は光合成によってCO2を吸収するだけでなく、枯れて海底に沈むことで何万年にもわたってCO2を貯留する機能を持っています。この吸収・固定したCO2は「ブルーカーボン」として国の認証制度に基づきクレジット化され、CO2排出量を相殺したい企業に販売することもできます。
ウニノミクスはすでにJブルークレジット認証(※2)を取得しており、藻場回復を持続可能なビジネスにつなげる仕組みを確立しています。
※2ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が審査・発行する、海洋生態系によって吸収・固定される炭素を対象とした独自のクレジット認証制度。
——藻場の回復は、脱炭素にもつながるのですね。一体どれほどの効果をもたらすのでしょうか。
UNカドマン 大まかに見積もって、1haの藻場が回復すると、およそ1tのカーボンクレジット(※3)が生まれると試算しています。
ただ、藻場回復の効果は直接的なものだけではありません。私たちが重視しているのは、自然に根ざした解決策です。
原因である痩せたウニさえいなくなれば、海藻は凄まじい速さで育ちます。そして、一度回復の流れに乗れば、自然の力で藻場が広がっていきます。私たちは、痩せたウニを育て、流通させることで、その自然の回復力を少しだけ後押ししているのです。

※3植林や森林管理に加え、藻場などの海洋生態系(ブルーカーボン)や、バイオ炭の農地施用といった活動によるCO2除去量を国や民間の認証機関などが認めたもの。
FG大谷 この事業がもたらす社会的インパクトの評価は、現在〈みずほ〉でも進めているところです。
カーボンクレジットにはいくつか種類があります。省エネや再生可能エネルギー由来のクレジットもありますが、それだけでは人間活動全体のCO2排出量を実質ゼロにすることはできません。そこで重要になるのが、植林や森林管理に代表される、CO2を除去・吸収するクレジットです。
しかし、日本は国土が狭いため、森林による吸収クレジットだけでは限界があります。その点、四方を海に囲まれた日本にとって、海藻等の海洋生態系を活用するブルーカーボンは非常に取り組む価値が高く、不足を補う有効な手段となります。

——〈みずほ〉としては、この事業の意義をどのように見ていますか。
FG大谷 私たちは、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの3つを同時に達成するような事業を重視しています。
加えて、私たちは金融機関として経済性と社会的インパクトの最大化も実現していく必要があります。この「全部取り」ができる事業を、日々探しています。
ウニノミクスを知ったとき、その条件を一つの事業で体現していることに驚きました。ネイチャーベースドソリューションでありながら、収益性も備えている。
カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの3つをそろえた事業は、そう多くはありません。
世界最大のウニ消費国、日本での地域と連携した事業展開
——ウニノミクスが事業を推進するうえで、日本市場はどのような位置づけなのでしょうか。
UN石田 私たちの事業を支える土台として、日本市場は欠かせない存在です。世界のウニ消費量の約7割は日本です。品質への要求水準も世界で最も高い。その日本で、毎日安定して買い取り、育て、高価格帯で販売できているという実績は、海外での交渉を後押ししています。
実際に日本での展開を加速させています。現在は大分県国東市と山口県長門市の2拠点が稼働しています。今後は富山県に建設中の工場が稼働し、生産規模は現在の約6倍にまで拡大する計画です。

——工場での痩せウニの畜養は、ウニノミクス独自の技術なのだそうですね。
UNカドマン 工場では、安定的に生産できる体制を確立しています。到着後はまず数日間、検疫用の水槽で状態を確認し、安定したら「レースウェイ」と呼ぶ細長い畜養水槽へ移します。
そして、水温、水質、密度をすべて管理しながら数週間かけて身の詰まった高品質なウニに育て直し、加工・出荷まで工場内で一貫して処理しています。
天然ウニは海の状態次第で品質がばらつきますが、畜養したウニは均質で、色、味、大きさ、収穫の時期をすべて管理できます。この均質さがあるからこそ、大手取引先との継続的な大量取引が成り立つのです。

ウニノミクスの工場の様子
——痩せたウニの提供者になる漁業者との連携は、どうしているのでしょうか。
UN石田 漁業者との信頼は、地道な関係づくりから始まります。季節や天候を問わず、ウニを持ってきてくれれば必ず買い取る。漁協や個別の漁業者との信頼関係も、そうした地道な積み重ねの先にあるものです。
私たち自身は漁業者にならず、地域の漁業者の方々と一緒に働くことを大切にしています。年間を通してウニを買い取ることで地域に安定した収入をもたらし、これまで通り漁業を続けられる環境を作ることができます。
さらに、工場ができることで地元に雇用が生まれ、そこで養殖の技術や知識を学んだ人材が育ちます。彼らが将来、他の魚介類の養殖など新たな産業をもたらすかもしれない。事業を通じて地域が潤い続ける仕組みを作ることも、私たちがもたらす重要な価値の一つです。
〈みずほ〉がトランジション出資を決めた理由
——今回はトランジション出資という枠組みを通じた出資でしたね。
FG大谷 トランジション出資は、脱炭素などの社会課題に向けて、企業が移行(トランジション)していく過程を資金面から支援する枠組みです。〈みずほ〉単独ではなく、お客さまと共同で出資するのが特徴で、今回は日本郵船株式会社とご一緒しました。
出資を決める過程では、社内でも多様な意見がありました。ウニノミクスは経済的価値と社会課題の解決に向けた取り組みを両立しており、将来的な可能性が大きいと判断しています。
社会的意義と、この分野で多様な知見を蓄積できることを重視して、最終的に決定しました。

——出資を経て、ウニノミクスから見た〈みずほ〉の印象はいかがでしたか。
UNカドマン 〈みずほ〉と初めてお会いした時、サステナビリティ専門の部署を設けていて、融資や投資にとどまらない動き方ができると知りました。
価値観が合うという確信が生まれてからは、既存株主への説明も自然とできるように。当社の株主も全会一致で、〈みずほ〉の参画を歓迎してくれました。
パートナー選びで重視するのは資金面だけではありません。当社の株主には養殖、流通、海運とそれぞれの機能を担う仲間がそろっていましたが、金融の専門家だけが欠けていました。
投資にあたっての詳細な検討の過程で、〈みずほ〉がまさにその空白を埋めてくれる存在だと確信したのです。

——〈みずほ〉としては、今後ウニノミクスにどのような支援ができると考えていますか。
FG大谷 融資等の金融機関としての伝統的な役割を果たしつつ、私たちが持つ幅広いネットワークを通じたビジネス機会などを積極的に提供していきたいと考えています。
特にブルーエコノミーに関連する分野、例えば船舶や水産市場、水産関連の事業者等との歴史的なつながりを私たちは持っています。こうしたネットワークを活用していただくことで、日本市場においてウニノミクスがさらに成長するための足がかりになれるはずです。
ウニノミクスと〈みずほ〉が描く、ブルーエコノミーの未来
——今後の展望をお聞かせください。また、〈みずほ〉に期待することは。
UNカドマン 現在私たちがめざし、構築しているのは、海の生態系全体を改善し、生物多様性を高め、その価値を事業化する「エコシステムサービス企業」への進化です。
もともと私は投資家ですが、この事業に自ら乗り出し、全力を注いでいるのは、世界8か国・18拠点の沿岸生態系において、生物多様性を本当の意味で回復できると確信しているからです。
〈みずほ〉のみなさんは、最初から私たちのこの構想を理解してくれました。だからこそ、大きなビジョンを一緒に追えるパートナーだと確信しています。

——ウニノミクスとの連携を経て、〈みずほ〉は今後ブルーエコノミーにどう関わっていきますか。
FG大谷 ウニノミクスとの連携を通じて得られる価値の一つは、生きた知見が積み上がっていくことです。自然を相手にする事業は不確実性も伴いますが、私たちが経験値を蓄積することで、新しい領域にも金融の手法を円滑に適用できる環境を整えることができます。
また、今後はブルーカーボンによるクレジットにとどまらず、自然が持つ多面的な価値を評価する「生物多様性(バイオダイバーシティ)クレジット」をはじめとした、多様な可能性の探索も進めていきたいと考えています。
海藻養殖や魚類の陸上養殖、さらには日本近海の広大な海域の活用等、ブルーエコノミーには、まだ手つかずの領域が数多く存在します。
だからこそ、〈みずほ〉が金融機関として早い段階から積極的に入り込み、資金供給やネットワークの提供を通じて事業の成長を後押ししていく。そうすることで、ブルーエコノミーという分野全体の可能性を大きく広げ、次世代に向けた持続可能な産業へと育てていきたいと思っています。
どんなに難易度が高い社会課題であっても、お客さまとビジネスとしてともに挑む。そこから解決策を導き、〈みずほ〉でしかできない価値を社会に提供したいと考えています。