CEOメッセージ
ともに挑む。ともに実る。
はじめに
CEOの責任とは何か
世界は今、大きな変化の時代にあります。地政学的な緊張とグローバル化の変容が、インフレと金利高の長期化を引き起こし、不安定な経済環境をもたらしています。富裕層と低所得者層の間の社会的格差も社会問題へと発展しています。また、テクノロジーの急速な進化は新たな可能性を生み出すと同時に、未知のリスクもはらんでいます。一方で、日本経済もようやく長いデフレから脱し、企業による投資活動や賃上げが成長と分配の好循環を生み出しつつあります。それを契機に、家計による資産運用の気運が高まりを見せる等、様々な局面において私たちは大きな転換点を迎えています。
この大きな変化の時代において、金融が果たすべき役割は重要です。そして、金融機関のCEOとしての私の責務は、変化の時代において〈みずほ〉が進むべき道を構想すること、その結果としてステークホルダーの皆さまに企業価値の向上と社会価値の創出をお届けすることです。そのことを胸に私はこの1年間、主に3つのことに取り組んできました。
まずは、大きな変化の時代において、〈みずほ〉が果たすべき役割・〈みずほ〉の存在意義、すなわちパーパスを定めることです。パーパスを定めることでステークホルダーの皆さまと志や価値観を共有することができます。
「ともに挑む。ともに実る。」
変化の時代において挑戦を支える、そして自らも果敢に挑戦していく。そのような思いを込めました。
次に、パーパスを実現していくための戦略の明確化です。まさに「ともに挑む。ともに実る。」を実践していくことでどのような未来を創造していきたいか、〈みずほ〉の歴史や先人たちから受け継いだDNAも踏まえつつ未来に向かって発揮しうる強みは何か、この二軸でビジネスの注力テーマを5つ明確化しました。
最後に、健全な企業カルチャーの醸成です。戦略を実践するのは社員です。社員が成功体験を味わいモチベーション高く仕事に向き合えなければ、どのような戦略も絵に描いた餅です。社員の自由な発言と行動を促す環境を作り、誰もが自律的に行動し建設的に議論できる組織に変わっていくことにより、様々な挑戦が生まれ我々のパーパスも実現できる。
パーパス・戦略・健全な企業カルチャーが相互に絡み合って好循環することで、〈みずほ〉はステークホルダーの皆さまとともに成長することができる。そんな思いを強くしています。
そのような思いを共有したうえで、まずは戦略の中核である5つのビジネス注力テーマの進捗と課題を共有したいと思います。
独自の競争力の創出に向けて
戦略の中核となる5つのビジネス注力テーマそれぞれにおいて中期的にめざす姿を定義するとともに、実現に向けた具体的な戦略を明確化してきました。これらの注力テーマは、それぞれ単独に存在するものではなく、相互に連関させていくことで〈みずほ〉の強みが発揮されていくものです。それぞれの強みに磨きをかけ、そしてつなぎ合わせていくことで、〈みずほ〉の独自の競争力へと昇華させていきます。
①顧客利便性の徹底追求
みずほダイレクトアプリや、決済機能集約型のみずほウォレットのUI/UX改善に継続的に取り組み、定型反復的な取引がほぼオンラインで完結できる世界が見えつつあります。一方で、店舗は、資産運用等の対面コンサルティングに適した快適で軽量型のスタイルに段階的に転換していきます。ネットと店舗の結節点となるリモートサービスについても、AI支援型の次世代コールセンターをリリースし、お客さまに対してより適切なアドバイスを提供できる体制を整備していきます。
今後は、デジタル・店舗・コールセンターそれぞれの利便性を高めるとともに、3つのチャネルをシームレスにつなぎ、デジタルマーケティングの手法も活用しながら、お客さまにとって最も便利で安心できるサービスを提供することをめざしています。預金口座の魅力を高め、お客さまから選ばれる金融機関となることで、金融の本源的な役割である信用創造の基盤を強化していきます。
②「資産所得倍増」に向けた挑戦
資産運用立国をめざす国全体としての取り組みとも歩調を合わせて取り組んでいます。新NISAスタートに照準を合わせた口座獲得や、楽天証券株式会社やPayPay証券株式会社との資本業務提携も通じたオンラインとリアルの融合型のサービス提供をさらに進化させていくことで、資産形成層の取り込みを加速させています。また、みずほ証券においては、2023年度から個々の社員に対する営業目標を廃止し、お客さま本位の業務運営に根差した営業姿勢への転換を徹底的に進めています。
今後は、コンサルティング力の強化に不断に取り組み、社員のリテラシー向上やお客さま本位の営業姿勢のさらなる向上を進めます。また、お客さまの志向や状況に応じて適切な投資機会をお選びいただくために、アセットマネジメントOneの運用力・商品開発力の強化、また、海外の優良運用会社との提携強化を通じた質の高い商品の品揃え強化に継続的に取り組んでいきます。
③日本企業の競争力強化
企業価値の低迷やPBR1倍割れ等の課題に直面する中堅企業を中心に、成長支援を軸としたアプローチを進めており、事業再編や非上場化の検討等、多くの具体的アクションに発展しています。また、創業者ファミリーが代々築き上げてきた事業や資産を次世代に発展的に引き継ぐための相談も増えています。
今後は、みずほ信託銀行やみずほ証券をはじめ、みずほグループ各社が有するコンサルティング機能と金融技術を結集して、総合的なソリューション提供に向けてさらに取り組みを強化していきます。また、お客さまと〈みずほ〉がともに成長していく視点で、地域軸・顧客軸で経営資源の最適なバランスを見極めていきます。
④サステナビリティ&イノベーション
イノベーション領域においては、グローバルに勝てる、社会課題を解決する、そして産業発展に貢献する企業の創造・育成をめざし、成長資金の供給に注力しています。株式会社UPSIDERと共同でのベンチャーデットファンド立ち上げや〈みずほ〉自身による資本投下も通じて、意欲ある起業家の挑戦を支えていきます。今後は、ディープテック分野における日本発のユニコーン育成の支援も強化していきます。
サステナビリティは、金融機関にとって機会とリスクの両方の側面を持っています。ビジネス面では、トランジションに取り組む企業や政府・自治体とともにグランドデザインを描き、〈みずほ〉の業界トップクラスの産業知見も時代に合わせて磨きながら、ファイナンス供与や価値共創投資等を進めています。その一方で、リスク管理面では、炭素関連セクターに対するエクスポージャー管理態勢の高度化に継続的に取り組む等、両者のバランスを追求していきます。
今後は、〈みずほ〉のグローバルネットワークから得られる最先端の技術や情報も駆使しながら、特に注力するテーマや分野として定めた、水素社会の実現、カーボンクレジット市場の育成、インパクトの創出等への取り組みを通じ、カーボンニュートラルな社会、循環型社会の実現に積極的に貢献していきます。
⑤グローバルCIB(コーポレート&インベストメントバンキング)ビジネス
資本の有効活用の観点からアセットの入れ替えを着実に進めながら、より安定的で収益力の高いCIB事業モデルの構築に取り組んできました。世界で最も肥沃な金融市場である米国でリーグテーブルの上位に位置してきたほか、金利上昇局面を捉えたアジアにおけるトランザクションバンキングの一層の強化も進めてきました。社債やローンアレンジメントにおける私たちの従来からの強みに加えて、米国M&Aアドバイザリー会社Greenhill社の買収を通じ、M&Aやエクイティの分野における対応力も強化しています。日本と世界をつなぐ企業活動の支援においても、独自の強みを構築していくことをめざしています。
これら5つの注力テーマにおける競争力を徹底的に磨き上げるとともに、複数の領域をまたぐ形で私たちの強みを「つなぐ」ことによって新たな付加価値を創出することが、私たちの「目指すビジネスモデル」です。
成長を支える経営基盤の強化
5つの注力テーマを〈みずほ〉の独自の競争力へと進化させるためには、戦略実行の原動力となる一人ひとりの社員が領域を越えてつながり、建設的に議論し、挑戦できる企業カルチャーの醸成が必要です。その基軸となるパーパスを浸透させるべく、国内外の多くの拠点を訪問し、社員との対話を重ねてきました。社員から提起される提案は業務プロセス改善等に向けた源泉となり、経営と社員との距離を縮め、一体感を醸成する重要な要素となっています。
既に、挑戦する企業カルチャーへの変革を肌で感じています。社員が事業アイデアを競い合う「みずほGCEOチャレンジ」、拠点間での成功事例の共有、地方拠点間における事務の相互協力体制の構築等、自発的な取り組みが次々と生まれています。
このような自発的な挑戦や、組織への貢献が公正に評価されるとともに、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を支える仕組みとして、人事制度の全面的な刷新も行います。また、多様な人材が働ける環境を整備し、女性の活躍をより後押しするとともに、アルムナイネットワーク等も拡充し、多種多様な人材が集結し、互いに高め合う場の魅力を一層磨き上げていきます。
さらに、業務インフラの改善とDX推進による効率化を推進し、制度面だけでなく日常業務を通じて働きやすさを体感できる職場環境の構築も進めています。
これらの多岐にわたる取り組みを併進することで、社員一人ひとりに働きがいと働きやすさを実感してもらい、戦略遂行の要である人的資本を強化することで、〈みずほ〉と社員がともに成長する姿をめざしています。
企業風土のさらなる変革と人的資本の徹底強化
戦略実行の原動力である「人材」が能力を最大限に発揮できるよう、社員エンゲージメントの向上やインクルーシブな組織づくりを進める
2024年度の取り組み
〈みずほ〉は大きく前進しています。2023年度の連結業務純益は〈みずほ〉発足以来の水準となりました。マイナス金利という厳しい環境のなかで収益源の多様化を図った成果として、安定的に収益を創出する力は着実に向上しています。低採算アセットの見直しや政策保有株式の売却等の取り組みも通じて、資本効率も改善し、PBRも改善してきました。さらなる成長加速のための資本の積極活用と株主還元の強化の双方を追求できる体制も整ってきました。
2024年度は、ビジネスモデルのさらなる磨き上げを通じて、中期経営計画の最終年度である2025年度の収益目標を一年前倒しで達成することをめざします。また、社会や株主の皆さまからお預かりしている資本や人材をより大きな付加価値の創出に結びつけるためにも、連結ROE8%とPBR1倍超の早期実現をめざします。
成長の基盤としての組織と人の変革も、さらに強力に推進していきます。社員との対話にも一層力を入れていきます。また、社会やお客さまのニーズの変化に対応した持続可能なサービス提供の観点から、事業やサービスの新陳代謝にも積極的に取り組み、戦略とリソースが未来志向で調和する仕組みを作っていきます。
私は今、〈みずほ〉のなかに、"変化の兆し"を確かな実感として感じています。一方で、私たちの挑戦は始まったばかりです。パーパスの実現を通じて、世界の大きな変化の先にある〈豊かな実り〉に貢献するために、〈みずほ〉自身も変革を続けながら、お客さまや社会とともに挑み続けていきます。
"変化の兆し"を大きな潮流に。
すべての社員の挑戦を応援しながら、私自身が先頭に立ち、全力で牽引していきます。
2024年7月