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さるかに合戦

『さるかに合戦』では、柿をぶつけられたカニがケガをした。悲劇を避けるためにも、おにぎりと柿のタネの「資産価値」を考えよう。

  • 資産
  • リスクとリターン

授業流れ

このたび、みずほフィナンシャルグループさんといっしょに「空想金融教室」という企画をやることになりました。空想科学研究所の主任研究員・柳田理科雄です。『ジュニア空想科学読本』や『ポケモン空想科学読本』など、マンガやアニメの世界を題材に、科学的に考える面白さを子どもたちに伝える本を書いています。

そんなワタクシに、みずほフィナンシャルグループさん(以下、みずほさん)が、子どもたちにおカネについて伝える企画をやりたいので、手伝ってもらえませんか、と言ってこられたのである。おカネのことを伝える! なんてスバラシイ企画なんだ!かつて自分の学習塾の経営に失敗し、いまも空想科学研究所が赤字で困っている筆者としては、声を大にして言いたい。子どもたちの前に、まずワタクシに金融を教えてくれ!え、ダメ?この企画を通して、子どもたちといっしょに学びなさい? ああ、まあ、そうでしょうなー。

しかしそういうことなら、筆者が気になって仕方のない、子どもにもおなじみの題材がありますぞ。それは、昔話の『さるかに合戦』。サルに柿の実をぶつけられたカニが大ケガをし、子ガニたちに頼まれて、臼や蜂や栗や牛のフンがサルを懲らしめる……という有名なお話だ。

勧善懲悪のこの仇討ち譚において、筆者が気にかかるのは、物語の冒頭で描かれる「おにぎり」と「柿のタネ」の交換である。カニがおにぎりを拾って喜んでいると、サルが柿のタネと取り替えようと言ってくる。カニは「柿のタネなんかいらない」と一度は断るが、サルはあきらめず、「おにぎりは、食べてしまえば終わり。でも柿のタネは、蒔けばたくさんの実がなるんだよ」と、うまいことを言う。この甘い話に、カニが乗ってしまった。そして、おにぎりと交換した柿のタネは、実際にたくさんの実をつけたけれど、カニは木に登れず、代わりに木に登ったサルが、柿の実を一人占めしようとカニに実をぶつけ……と、悪夢のような傷害事件に至ってしまう。

サルとカニの物々交換に、人間が口をはさむのもどうかと思うが、それが惨劇を呼び込むとなれば話は別である。金融の視点で考えるなら、おにぎりはカニの資産、柿のタネはサルの資産といえるだろう。そして、サルが囁いた「おにぎりは食べれば終わりだが、柿のタネは蒔けば多くの実がなる」という甘言は、それなりに説得力があって、筆者が同じ立場でも、うっかり話に乗ってしまいそうな気がする。このアヤシイ交換エピソード、みずほさんにはどう見えるのだろうか?子どもたち(と筆者)が金融について学ぶために、『さるかに合戦』について、みずほさんには真剣に考えていただきたい。昔話だからって「そんなの作り話でしょ」などと軽く考えるのはナシで! サルとカニの世界にも、現在と同じような法律、社会があると仮定して、ぜひともまっすぐに!

1 みずほさん大興奮

と、シッカリ釘を刺したうえで、筆者はみずほさんのところに行って『さるかに合戦』を金融面から見たらどうなるの?と聞いてみた。すると、みずほさんが大興奮!

それ、めちゃくちゃ興味深い話ですね!

意外な反応にビックリである。嬉しいけど、いったい何がそんなに興味深いのだろう?

資産の価値の考え方です。おにぎりは、いますぐ食べられるけど、日持ちしません。一方、柿のタネは、いまは食べられないけど、育てばたくさん実をつけます。そのため、おにぎりは現在の価値で考えるだけでよいけど、柿のタネは未来に生まれる見返りも考える必要があるんですね。

ふむふむ。おにぎりは明日には腐ってしまうかもしれないから、いまがいちばん価値が高い。反対に、柿のタネは現時点ではほとんど無価値だけど、はるか将来に価値が出る。両者はだいぶ違うわけだ。とはいえ、交換の時点では、おにぎりの価値が高いですよね?

金融では、将来にわたって生み出されるリターンも含めて、現在の価値を考えます。
いまの価値だけを見た単純な比較はできないです。

えっ、みずほさん、あなたサルの肩を持ってない!? サルはこの話の悪役だし、そんなサルが持ってきたのが、たった一つの柿のタネですよ。

それを金融で考えると、少し違って見えてくるのが面白くないですか?

う……。確かにそうかも。

そもそも、物の価値は人によって違います。おなかが減っている人には、おにぎりの価値が高いだろうけど、食べるものに困らない人には、将来の柿の実のほうが嬉しいかもしれません。

うーむ、筆者はサルがカニをだました話だと思い込んでいたが、資産の交換という意味ではそうともいえないのか……。

2 柿のタネのリスクとリターン

考え込む筆者のとなりで、みずほさんは嬉々として次の解説を始めた。

おにぎりと柿のタネは物々交換ですが、金融の視点では、売買や融資と同じく、『取引』の一つです。
そして取引では、リスク(うまくいかない可能性)とリターン(見返り)のバランスを見きわめることが大切なんですね。

リスクとリターン? なんだか『さるかに合戦』の世界に似つかわしくない言葉で、ぐっとビジネスの香りが漂ってきたケド……。

リスクを挙げると、たとえば柿のタネは、芽を出さないかもしれないし、実をつけないかもしれません。

あ。それなら筆者にもわかります。植物のタネには「発芽率」というものがあって、タネをまいたからといって、必ず芽が出るわけではない。たとえば柿のタネの発芽率が50%だとすると、1個蒔いたときに芽が出る確率は50%、2個蒔いて芽が出る確率は75%、3個で87.5%、4個で93.75%……と、多く蒔いたほうが確率は高くなる。

でも、カニが入手したタネは1個だけでしょ?

それはモーレツにリスクが高い!

また、柿の木を育てるのにもコスト(費用や労力、時間)がかかります。

確かに、柿の育成には、水やり、肥料、剪定(枝を切り落とす)、摘蕾(つぼみを摘み取る)などの手間がかかるし、そこまで手をかけても、実がなるのは5~8年後。その間、ずっと世話を続けなければならない。

さらに病気の対策を施したり、害虫を駆除したり、実がなったら盗難防止のために監視カメラを設置したほうがいいかもですね。

監視カメラ? カニがですか?

現在と同じような社会、という前提で考えるんですよね?

ああ、失礼しました、そうでした。話がどんどんリアルになってきたので、つい……。

そこまでして、ようやく実をならせることができるわけです。それがリターン。どれほどの実がなり、それによる収益はどれくらいか? それはリスクやコストに見合うものなのか? 物々交換とはいえ、取引である以上、そういうことを考えて行うべきなんですね。

キ、キビシイ! そんなにシビアな話だったのか、おにぎりと柿のタネの交換……!

3 人生観が問われる!

しかし、サルも説明責任を果たしていないのは問題です。

お。ようやくサルに非難の矛先が向いてきたぞ。でも、「説明責任」とは……?

取引において、確実性の低いものを提供する場合は、相手にそのリスクを説明する必要があります。サルは、柿のタネを蒔いても、芽が出ないかもしれないことや、実がならないかもしれないこと、リターンはあるが育成にはコストがかかることなどを、カニにきちんと説明しなければなりません。

なるほど、それらの情報を聞いておけば、カニも「タネ1個だとリスクが大きいから、交換するのはやめておくよ」という判断になったかもしれない。

あるいは『タネ10個との交換ならいいよ』と、こちらから条件を出せたかもしれませんね。

おお、そうやってこそ、取引というものですなあ。

取引をする場合は、自分は何がしたいのかをハッキリさせておくべきです。たとえば、カニは柿を育てることで、老後の食べ物に困らないようにしたいのか、柿の売買で事業をしたいのか、次世代に財産を残したいのか……。取引では、人生観や人生設計が問われるのです。

おおう。単なる物々交換と思ったら、どんどん深い話になっていく。

取引の目的が明確になったら、その目的を達成するために必要な情報をもらう(自ら聞く)、もらえないのなら、その分野に詳しい別の人に相談する、といったことも必要でしょう。

サルまかせ、いや、人まかせにしてはいかんということだなあ。しかし、みずほさんに「人生設計」と言われて、筆者は重要なことに気づきましたぞ。このカニが、日本の川でよく見かけるサワガニだとすると、その寿命はせいぜい10年なのだ!すると、人生の半分から8割をかけて、柿の木を世話することになる。仮に5歳のときにおにぎりと交換し、そこから5年間、人生の後半を柿の木の育成に捧げたとしても、ようやく実がなる頃には命が終わってしまう。それでいいのか、カニの人生!?

4 みんなが幸せになるために

ここで、ざっくり計算してみよう。柿の実は1個200gくらい。大きな木だと、1本に1000個の実をつけるという。すると実の総重量は200㎏。生産者価格(農家の人が受け取る金額)が1㎏あたり314円(2023年平均値)だとすると、収入は6万2800円ということになる。5~8年かけて、これだけの収入が得られるようになるわけだが、それが実現する頃、カニの人生は最晩年だ。みずほさんが指摘する「リスクとリターンのバランス」を考えると、この取引はカニにとって失敗だったのでは……?

まあ、自分はほとんど利益を得られないけど、子どもに財産を残すのを重視するなら、それはそれでいいかもしれません。

なるほど、サワガニは1度に100個くらいの卵を産みますからね。

あ。そんなに産むんですか! う~ん、だったら財産分与をどうするか、子どもたちがモメるかもしれませんね。柿の木は1本しかないですから。

その1本をめぐって、100匹の子ガニが骨肉の争いを……!? うむむむ、『さるかに合戦』は、どうやっても悲劇になるってことか!?

いやいや、そんなことはありません。サルもカニも、きっと幸せになれるはず……。

みずほさんはしばらく考えて、意外なことを提案した。

カニは会社を作りましょう!

か、会社?

カニが何もかも一人でやろうとするから、大変なわけです。会社にして、サルはもちろん、臼や蜂や栗にも参加を募りましょう。サルには、収穫した実の一部を渡す代わりに、剪定、摘莱、収穫などを担当してもらう。臼や蜂には出資(お金を出す)してもらい、柿のタネをたくさん買って木も増やします。カニには100人も子どもがいるから、労働力として期待できますよね。

なんと、悲劇の昔話『さるかに合戦』が、ビジネス指南書みたいな展開になってきた!

財産相続の面でも、カニの子どもたちは親カニから会社の株式を受け継げばいい、というメリットもありますね。1本の木を取り合わなくて済みます。

確かにそれも大事ですなあ。せっかく育てた木が、モメごとの元になったら残念すぎる。そして、そこまで目配りしたうえで、みずほさんはこう言った。

銀行としても、事業として成功しそうと判断すれば、融資(お金を貸す)もしますので、カニ社長には遠慮なく相談していただきたい。

さり気なく存在感を発揮するところなど、さすがである。

さて、みずほさんに聞いてきた話を反映させると、おなじみの『さるかに合戦』はどんなお話に なるのだろうか?

――おにぎりを所有するカニのところに、サルが柿のタネとの交換を持ちかけてきました。カニはサルにリスクとリターンの説明を求めたうえで、柿のタネを10粒にしてほしいと交渉します。さらに、サルに「剪定、摘莱、収穫をやってくれたら、実の20%を渡す」との条件を示して、両者は契約を交わしました。また、カニは熟考を重ねて、事業計画を作成。知人の臼、蜂、栗、牛のフンを集めて「株式会社さるかに」の設立説明会を開催し、出資を募ります。その結果、カニは10本の柿の木を育てることができ、サルの尽力によって、やがて年間1万個の柿が実るようになりました。だいぶ成功したカニですが、話はまだ終わりません。ここが勝負どころと踏んだカニは、みずほ銀行に融資を申し込み、それによって広大な土地を購入して、1000本の柿の木の育成に乗り出しました。こうして「合戦」ではなく「協力」の道を進んだ結果、株式会社さるかには、飛躍的な成長を遂げ、カニと子どもたちはもちろん、サルも臼も蜂も栗も牛のフンも全員幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

うわ~、おなじみの『さるかに合戦』が、金融の視点で考えたら、すごいサクセスストーリーになりましたな~。わははは~。

今回の学び

● 金融では、将来的に生み出されるリターンも含めて、現在の価値を考える。● 取引では、リスクとリターンのバランスを考えよう。コスト意識も忘れない。● 取引では、お互いに説明責任を果たすこと。わからない点はどんどん尋ねよう。● 取引では、リスクの分担も考える。人が協力してくれる仕組みも取り入れよう。

今回先生

先生の顔イラスト

投資の先生

山浦 やまうら 康二 こうじ 先生

みずほ銀行 コーポレート&
インベストメントバンキング業務部

面白い金融の世界を一緒に学んでいきましょう。
好きな漫画は「ハーメルンのバイオリン弾き」、
好きなものは「ゲーム」、「ディズニー作品」です。

先生の顔イラスト

投資の先生

大西 おおにし 次朗 じろう 先生

みずほ銀行 コーポレート&インベストメントバンキング業務部

自分が、自分らしく生きられるための、学びの
きっかけになれば、すごく嬉しいです。好きな漫画は
「BECK」、好きなものは、「犬」、「ギター」です。​

先生の顔イラスト

審査の先生

大浦 おおうら 伸一郎 しんいちろう 先生

みずほ銀行 企業審査部

みんなでなかよく学びましょう。
好きな漫画は「ぼっち・ざ・ろっく!」、
好きなものは「ファイナルファンタジー」です。

先生の顔イラスト

法律の先生

菊地 きくち ゆう 先生

みずほフィナンシャルグループ 法務部​

銀行の仕事のおもしろさを伝えていけたらいいなと
思っています。好きな漫画は「SLAM DUNK」、
好きなものは「スポーツ観戦」です。​

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