こんにちは。みずほフィナンシャルグループさんといっしょに『空想金融教室』を始めている空想科学研究所の柳田理科雄です。
『空想金融教室』は、誰もが知っている昔話を題材に、そこで起こっている問題の解決方法を、金融経済の視点から考えてみよう……というもので、今回の題材は「シンデレラ」。
説明するまでもない、世界中で知られたグリム童話だ。
あれ? でも「シンデレラ」で解決すべき問題って何だろう?
恵まれない境遇にいたシンデレラが、夢のようなチャンスをつかむという嬉しい物語。
「シンデレラストーリー」という言葉もあるけど、すごい幸運に恵まれるなんて、スバラシイことではないですか。
よくわからないので、まずは「シンデレラ」のストーリーをおさらいしてみよう。
むかしむかし、とても美しい少女がいた。
母親を早くに亡くし、父親が再婚したため、父親の再婚相手である継母{ままはは}と、義理の姉2人といっしょに暮らしていた。
しかし継母は、実の娘だけをかわいがり、姉たちも少女に家事のすべてを押しつける。
毎日ヘトヘトになるまで働かされ、身なりに気を配る余裕もなく、いつもかまどの灰にまみれていたので、「灰かぶり」という意味の「シンデレラ」と呼ばれていた。
そんな毎日だったが、シンデレラは不平も言わず、黙々と働いた。
ある日、王子が開催する舞踏会に、継母と義理の姉2人が招待される。
姉たちは美しく着飾って出かけていったが、シンデレラはひとり留守番だ。
いつもと同じように、家事に精を出すしかない。
するとそこに、魔法使いのおばあさんが現れた。
「シンデレラ。舞踏会に行けるように、魔法をかけてあげるわ」
魔法使いはそう言うと、シンデレラのボロボロの服をドレスに、みすぼらしい木靴をガラスの靴に変え、さらにカボチャを金の馬車に変えてくれた。
そうしてシンデレラが舞踏会に参加すると、王子がその美しさに驚き、踊りに誘った。
王子とシンデレラは、楽しく踊るうちに、お互いを好きになってしまう。
だが、シンデレラは魔法使いから「夜中の12時になると、魔法が解ける」と言われていた。
いよいよ12時の鐘が鳴り、シンデレラは急いで舞踏会を後にする。
途中でガラスの靴が片方脱げてしまったが、王子が追ってきたのを見て、そのまま馬車に乗った。こうして、シンデレラは王子の前から姿を消した……。
次の日になっても、王子はいっしょに踊った女性のことが忘れられなかった。
名前も聞かないまま、12時の鐘の音とともに去っていった美しい女性。
手がかりは、彼女が残していったガラスの靴だけだ。
王子は「この靴の持ち主と結婚する」と宣言し、その命令を受けた家来たちが、町じゅうの若い女性を対象に、ガラスの靴が履けるかどうかを試して回った
結果、ぴったり履けたのはたった一人。
それは、貧しくみすぼらしいシンデレラだった。
だが、王子はそんなことは気にしなかった。
迷いなくシンデレラに結婚を申し込み、2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
おおおおっ、まさにシンデレラストーリー! 素敵なお話ではないですか。
問題点なんかまるでナシ。
とも思うけど、無理やり問題点を見つけるなら……、はじめのうち、シンデレラがとっても貧しいことかなあ。
いつも灰まみれで、ボロボロのドレスにみすぼらしい木靴を履いている。継母にも姉たちにもこき使われていて、あまりに気の毒だ。
この問題をどう解決すれば……と思ったら、ややっ、筆者のアタマにはたちまち素晴らしいアイデアが浮かびましたぞ!
しかも電卓で計算すると、この問題を一気に解決するではないですか。たぶんワタクシは天才だ!
では早速、この考えをみずほさんにぶつけてみましょうか~っ。
1 舞踏会より質屋へ直行だ!
という感じで、筆者が勇んでみずほさんのところに行ってみると、おやっ、みずほさんのとなりに、見知らぬ方がいらっしゃる!
初めまして、第一生命と申します。
今回の特別講師
生命保険の先生
藤脇 智恵子 先生
第一生命保険株式会社
CX推進部 消費者志向推進室
生命保険の先生
東 寿子 先生
第一生命保険株式会社
CX推進部 消費者志向推進室
あ。こんにちは。柳田理科雄と申します。しかし生命保険は間に合っておりまして……。
保険のご紹介ではありません。今回のテーマが『シンデレラ』ですので、第一生命さんをお呼びしました。
シンデレラと生命保険……ですか? シンデレラに命にかかわる要素はないですぞ。
いえ、このお話にとても気になるところがあるんです。
気になるところ?
うーん、第一生命さんが気になるとしたら、シンデレラがガラスの靴でケガをした場合、保障はどうなるんだ、とか?
それは生命保険ではなく、損害保険ですね。
まあ、焦らず順に考えていきましょう。柳田先生は、何が問題だと思われました?
ワタクシが気になったのは、シンデレラがとても貧しいということです。
それは、そう思います。
われわれも同意見です。
なんと、ワタクシの意見がプロの方たちと一致した! 成長著しいな、自分!
そんなシンデレラはどうすればいいのか……ということですよね?
ふっふっふ。その問題は、ワタクシが解決済みです。
シンデレラは、魔法使いによって、カボチャを 金 の馬車にしてもらいました。
2024年7月1日現在、金は1gで1万3,000円ほどです。そして、多くの絵本に描かれているような金の馬車があったとしたら、ワタクシの見立てではおそらく重さは3.6t(360万g)。
すると、馬車は1万3,000円×360万g=468億円の価値があることに!
貧しかったシンデレラが、いきなりそれだけのブツを得たわけで、これはもう舞踏会なんぞに行ってる場合ではないですね。さあ、質屋に直行だー!
…………
…………
あれっ、ワタクシの提案が立派すぎて、言葉がないのでしょうか?
専門外なので素朴な疑問ですが…、質屋さんは3.6tもの金をすぐに買ってくれるのでしょうか?
468億円の大金をすぐに用意できる会社は、多くないです。本当に金なのかを調べる鑑定作業にも、時間がかかると思いますね。
多くの質屋のサイトには「その場で即日現金化!」などと書いてありますよ。12時になったらカボチャに戻るんですから、急いでもらわねばなりません。
あの…、柳田先生。12時になる前に売れた場合、それこそ大変なことになりますよ。シンデレラは、魔法使いにやがて魔法が解けると知らされていますから、それをわかって持ち込んだとなると……。
ちょっと叱られるかなあ?
詐欺罪に問われるかもしれません。
あわわわっ、そうなの!? だったら、知らぬ存ぜぬで押し通して……。
それは絶対にダメです。これまでも、嘘はついてはいけないと何度も…
ああっ、すみません。海よりも深く反省します。
金の馬車を売り払えば、シンデレラは大金を得てシアワセに…と思ったんだけど、うっかり彼女を犯罪者にするところでした……。
詐欺行為など、もってのほかですが、一方で、金融商品をめぐるトラブルや詐欺被害もとても多いです。柳田先生は、巻き込まれないよう気をつけてくださいね。
はい、ありがとうございます……あれ? シンデレラの話のはずが、いつの間にかワタクシが心配されてないですか。
あまりに脇が甘いので、つい心配になり……。
2 一人暮らしには、いくら必要か?
しかし、柳田先生の『舞踏会より質屋』というのは、重要な視点ですよね。
そうですね。シンデレラが幸せになったのは、ラッキーな面がありました。でも、できれば自分のチカラで幸せになってほしいです。
自分のチカラで、ですか?
魔法使いに助けてもらったり、王子さまと恋に落ちたり…、素敵なお話ですよね。でも、それ以外にも幸せになる方法があるのではないでしょうか。
魔法使いや王子以外、シンデレラを助けてくれそうな人はいませんよ。
たまたまシンデレラは助けてくれた人達がいたわけで、このお話には『再現性』がないですよね。
なるほど、再現性。それは科学でも重要で、誰が何度やっても同じ結果が出ることをいいますね。再現性のない現象は、科学の対象にはなりません。
金融経済でも同じです。われわれも、たまたま商品やサービスがヒットした会社にご融資するのは慎重になります。再現性は、とても大切な要素です。
なんとなくご両社が言いたいことはわかってきました。でも「再現性があり、自分のチカラで幸せになる」って……、シンデレラはどうすればいいんですかね?
一人暮らしを始めてみるのはどうでしょうか。シンデレラは18歳以上で成人していると思われますので、部屋を借りるための賃貸借契約が可能です。
そうか。成人年齢が引き下げられて、いまや「18歳以上が大人」ですね。
はい。保護者の同意なく、自分で契約を結ぶことができます。もちろん、家賃を払えるかの入居審査はありますが…。
ワタクシが一人暮らしを始めたのも、18歳のときでした。大学に落ちたので、京都の予備校に通うことにして、親から仕送りをもらって、アパートで暮らし……(遠い目になる)。
しかし、シンデレラは柳田先生のように、親からの仕送りはもらえないかもしれません。
ああ、そうですね。もらえないかもしれない。あの継母や姉たちがおカネを出してくれるとは、とても思えない。
家族に頼れないとすると、シンデレラは、生活に必要なお金を、すべて自分で賄わなければなりませんよね。
うーん。キビシイ現実が……。
生活に必要なお金には、家賃、光熱費、食費、被服費、娯楽費などの『消費支出』と、税金や社会保険料などの『非消費支出』、そして『貯蓄』があります。
いろいろあるなあ。ヒト一人が暮らすのに、だいたいどのくらいかかるんでしょう?
総務省統計局の『家計調査』(2022年)によると、34歳以下の独身勤労世帯では、消費支出と、貯蓄を含めない非消費支出の1ヵ月の平均は、こうなっています。
ぬおっ、21万8410円! 高くないですか!?
地域や気候によって、一人暮らしにかかる金額や内訳は大きく変わります。住居費の高い東京都は他地域に比べてかなり高い金額になります。
仕事の時給が1,200円だった場合、月に182時間働かねばなりません。月間23日働いたとして1日7.9時間。それでギリギリなんて……。
貯蓄もした方がいいですよね。
貯蓄! 必要ですか、そんなモノ!?
そんなモノ、ですと!?
でも、無い袖は振れませんし…。
病気やけがで働けなくなったときや、老後の生活のために、最低限の貯蓄はしたほうがよいのではないでしょうか。
3 貯蓄か、自分への投資か?
うむむむ、いきなり一人暮らしをするのってキビシイのだなあ。
生活費をどうやって賄うか、という問題がありますよね。安定した収入がないと、部屋を借りるのも難しいかもしれない。クレジットカードの審査も通るかどうか……。
大きな支出を、何か一つでも減らせればなあ。たとえば家賃とか。
家賃は、いちばん大きな支出ですからね。それでいうと、最近、『リゾートバイト』というのが人気のようですよ。
リゾート地でバイトするってこと?
そうです。観光地のホテルや温泉旅館に住み込んで働くもので、家賃がかからない。冬はスキー場、夏は海水浴場の近く……と、場所を変える人もいます。
おお、そういうところから始める手もありますね。
それと、日々の生活では、上手に節約したいですね。
うう、節約。ワタクシの苦手な言葉です。
なるべく自炊するとか、家具や家電はリサイクルショップで買うとか借りるとか。趣味はウォーキングや図書館での読書など、おカネのかからないものにするとか。
節約すれば、貯蓄もできるかなあ。ワタクシは、結婚するまで貯蓄ゼロでしたから、シンデレラの立場になっても、おカネを貯められる自信がぜんぜんない……。
貯蓄の苦手な人におススメしたいのが、先取り貯蓄です。毎月の給与から貯蓄にまわす分を先に取り分けて、残りのおカネで生活する方法です。
えっ、そんなことをしたら使えるおカネが減ります。ワタクシはそれ、イヤです。
えっ、イヤって断言!?
お財布や銀行口座におカネがあるとつい使ってしまう人には、役に立つと思いますが。
だったら、ワタクシはイヤだけど、シンデレラにはおススメするかなあ。
ベーシックなのは、『積立定期預金』ですよね。毎月自動的に貯蓄用専用口座におカネを移す設定をしておくのです。
ほかにも、『つみたてNISA』などの積立投資、『個人年金保険』や『iDeCo』があります。預金、投資、保険は異なる金融商品ですが、使う前に定額を預ける点は同じですね。
いろいろあるんだ…。ワタクシも何かやっていたら、少しは貯蓄できていたんだろうか。
最初は少額からでもいいんです。貯蓄は、将来の「おカネの不安」に振り回されず、人生を歩んでいくための備えとして考えていくものですから。
あの、一人暮らしをスタートさせるときから、無理をしてでも貯蓄を始めたほうがいいんですか? それが最優先?
うーん…、そういうことではないと思います。考え方はいろいろで、貯蓄も大切だけど、強いていうなら、まずは自分への投資ではないでしょうか。自分の夢や将来やりたいことを実現するために、必要な経験や能力を磨くための学校に通ったり、必要な道具を買ったりすることを優先していただきたいですね。
えっ、いいの? 貯蓄は?
もちろん、貯蓄もしてほしいですが……、きっと、おカネは後からついてきますから。
おおおっ、みずほさん……!
4 シンデレラのお母さんにお願いしたいこと
まあ、貯蓄か、自分への投資かは、自分の人生設計次第ですね
そうだと思います。ただ、人生設計と言われましても、シンデレラはまだ18歳です。自分の人生設計を考えろというのは、なかなか酷な話では……。
自分への投資ということで、返済型の奨学金や教育ローンなどのおカネを借りることもできますよ。
借金ですか…。シンデレラのお母さんは、何か資産を残していなかったんですかね。
急に亡くなられたようですし…。お母さんが生命保険でも入っていればなあ。
そうです、そこです! ずっと気になっていたのは、その問題です。
えっ、シンデレラのお母さんが保険に入っていたかどうか、ですか!
といいますか、お母さんにはぜひとも、受取人をシンデレラにした死亡保険に入っていてほしかった。そうすればシンデレラは、人生の選択肢が増えたと思います。たとえば、500万円でもあったら……。
なるほど、一人暮らしをしてもおカネに苦労しなくていい! 節約生活で浮いた分は、学費など自分への投資に充てられますね。
そういう話を考えるために、今回みずほさんは第一生命さんを呼ばれたんですね。
柳田先生にぜひ、『保険』について学んでもらいたいと思いまして。
いや、ワタクシだって、保険くらいわかっておりますよ。保険に入ると、病気にならないと損だ、とか。
全然わかっておられない…。
生命保険は、病気や死亡、ケガなどの予期せぬにリスクに備えるために、たくさんの人が少しずつ保険料を出し合い、万が一のときに保険金や給付金を受け取る『相互扶助』という助け合いの仕組みで成り立っています。
予期せぬリスク? 病気にならないと損とか、そういう話じゃないってこと?
そうですね。万が一に備えるものです。
『保険と投資、どっちが得か?』と比較する人もいらっしゃるけど、単純に比べるものではないです。貯蓄も、積立投資も、保険も活用することで、より安全な人生のマネープランを築けるわけで……。
いろいろあってわかりづらいな。貯蓄も、予期せぬリスクに備えるためのものですよね? それで充分じゃない?
その考え方には一理あります。でも、充分な貯蓄ができる前に、シンデレラのお母さんのようなことが起こってしまったら……。
そうねえ、それはツライ…。一家を支える人が亡くなると、家族の生活は大きな影響を受けますよね。
大きな病気やケガでも大変です。高額の治療費が必要になって、自分の貯蓄だけでは対応できないかもしれません。
確かに、そういうときに保険金を受け取れたら、安心感は違うんだろうけど。
親が亡くなっても、大切な子どもの教育費や、日々の生活費を確保する、という役割も果たします。金融的にいえば、『家庭の経済的リスクの分散』ということですね。
おっしゃることはわかります。でも、保険ってすごくわかりづらいし……。
そう感じられますよね。保険はさまざまな種類があり、特約(主契約に追加できる契約)との組み合わせもいろいろです。それは、加入される方の状況がそれぞれ違うからで……。
年齢も、収入も、健康状態も、何に備えたいかも、人によって違う。
それによって、保障内容がまったく変わってくるので、保険会社によく相談していただければと思います。
まあ、人生はいつ何が起こるかわからないのは、ワタクシも強く感じています。必要な保険も、そのときどきで変わるかもしれません。
そうですね。私たちが『一生涯のパートナー』としてお支えします!」
わー、このタイミングで、宣伝ぶち込んできたー。
5 第一生命さん提案の『シンデレラ』とは!?
一発逆転の「シンデレラ」が、まことにリアルな、地に足の着いたお話になってきた。魔法使いや王子さまなど、出てくる余地がぜんぜんない。
「再現性のある方法で、自分のチカラで幸せをつかむ」というのは大変だけど、人まかせにせず、偶然にも頼らず、自分の足で歩いていくとは、確かにそういうことでもある。
さて、第一生命さんとみずほさんに聞いた話を参考にすると、『シンデレラ』のお話は、どう変わるだろうか。
……と、いつもだったら、ここからはワタクシが考えたお話を紹介するところだけど、今回のストーリーは主に第一生命さんが考えました。ちょっとビックリだけど、面白いです。
シンデレラは、来る日も来る日も家事を押しつけられて、すっかり疲れ果てていた。
ある日、王子が開催する舞踏会に、継母と姉2人が招待され、美しく着飾って出かけていったが、シンデレラはひとり留守番だ。
仕方なく戸棚を掃除していたら、1枚の紙が見つかった。「生命保険証券 死亡保険金受取人シンデレラ 死亡保険金額500万円」と書いてある。
シンデレラは保険証券を抱きしめ、「ありがとう、お母さま」とつぶやいた。そして、しばらくじっと考え込んだ。
そこに、魔法使いのおばあさんが現れる。
魔法使いは「シンデレラ。あんたが舞踏会に行けるように、魔法をかけてあげるわ」と言うと、こう続けた。
「もしかすると王子に見初められるかもしれないよ」。
だが、シンデレラは「ありがとうございます。お気持ちはとても嬉しいですが、その必要はありません。私は母が残した保険金を元に一人暮らしを始めます」と答えた。
そして「私は、この街やお城のどんよりした雰囲気が好きではありません。貧しくても、自分のチカラで生きてみたいのです」。
魔法使いは、大きく頷くと「それは素敵な決断ね。心から応援しているわよ」とにっこり笑った。
継母の家を出たシンデレラは、地方の小さな町に移り住み、母の残した保険金で家賃の安いアパートを借りて、生活に必要な品を買いそろえた。
アルバイトを始め、少しずつおカネを貯めると、WEBデザインを学ぶ専門学校に入学。継母の下でさんざん働かされてきたので、炊事や洗濯、掃除などはお手のものだ。
シンデレラは、家事をテキパキと終わらせ、空いた時間で勉強を続けた。
ある日、専門学校の友人たちがシンデレラの部屋に遊びにきて、掃除が行き届いていることに目を見張った。
「いったいどうやってるの?」と聞くので、掃除や料理をその場でやって見せると、友人たちは「すごい早わざね。きっとみんな驚くよ!」と言う。
それを聞いたシンデレラは、自分が掃除をしている様子を撮影し、学校で習っているWEBの技術を活かして、動画を発信してみた。題して「ガラス張りお掃除テクニック」。
「どんなに多忙でも、12時までには寝よう」というキャッチコピーで、時短テクニックを惜しげもなく披露した。
最初に台所編をUPしたところ、ドレスを着たままテキパキと掃除をする姿がウケて、100万回再生を記録。
続いて玄関、お風呂場、トイレ、寝室、居間……などの掃除の仕方を順次UPした。再生回数は、記録的に伸びていった。
掃除だけでなく、料理や洗濯のやり方についても配信すると、それらも大反響。いつしか「時短家事のカリスマ」と呼ばれるようになり、出版社からは料理本やお掃除本の企画が、テレビ局からは朝の情報番組にコメンテーターとして出演してほしいとの依頼が相次いだ。
シンデレラはそれらの要望にも応えながらも、自分のサイトで「シンデレラお掃除スカーフ」「シンデレラお掃除ドレス」「シンデレラお掃除シューズ」などを販売。いずれも大ヒット商品となり、シンデレラは経済的にも潤うようになった。
インフルエンサーやメディアのコメンテーターとしても多忙を極め、機会あるごとに彼女は「偶然や幸運を待つのではなく、自分のチカラで幸せをつかみましょう」と言い続けた。いつしか、自分の力で人生を切り開き、努力して幸せになることが「シンデレラストーリー」と言われるようになった。
そんなシンデレラの活躍を見て、大ファンになった人がいる。それは王子。
彼はSNS動画やテレビを見てシンデレラに心惹かれたらしく、テレビ局あてに、直筆の手紙を何度も送ってきた。
そこには「動画を見て、自分でも風呂掃除をしてみました」「カボチャのスープを作ってみました」「白タイツを洗濯しました」などと体験や感想が綴られていて、シンデレラは「本当かなあ」と思いながらも、悪い印象は持たなかった。
そして、ある日「ぜひ舞踏会へ来てください」と招待状が送られてきた。
シンデレラは、あのどんよりした街には行きたくなかったが、王子に何度も手紙をくれたお礼を言おうと、お城に出かけていった。ただしカボチャの馬車ではなく、自ら車を運転して。
数年ぶりに訪れた街は、行き交う人も多く、以前よりも活気があるように感じられた。
お城も予想以上の明るい雰囲気に包まれていて、シンデレラはちょっと驚いた。
そんなシンデレラに声をかけた王子は、ちょっとチャラい雰囲気だ。
でも王子が「白タイツを洗濯ネットに入れなかったら、ここがホツレちゃって」と膝のところを示したところ、シンデレラは思わず吹き出すとともに、王子の人柄に親しみを覚えた。このやり取りをきっかけに2人はたちまち打ち解けあった。
長い時間、楽しく踊り続ける2人……。
やがて王子はシンデレラにプロポーズするが、シンデレラはハッキリ「ありがとう。でも、私は自分のチカラで生きていきたいの」と返事をした。
すると王子は、深々と頷いて、こう言った。
「あなたは思ったとおりの人だ。僕の目は正しかった。きっと方針も間違っていない」
「…方針?」
「あ。いや、こちらのことです。それより、僕はあなたをいつまでも応援していますよ」
こうして王子と別れたシンデレラは、お城を出て、駐車場まで戻ってきた。
途中たくさんの若い男女とすれ違い「なんでこんなに若い子が? これから学校に?」と思いながら、自分の車のところに来ると、魔法使いのおばあさんが待っていた。
「久しぶりだね、シンデレラ。あんたが自分のチカラでがんばる姿を、ずっと見ていたよ」
「ねえ、おばあさん。なぜ若い人たちがこんなに多いの? 街もなんだか明るくなったし」
すると、魔法使いは優しく微笑んで、「あんたと同じように、がんばった人がいるのさ。あんたの姿勢に感銘を受け、若い人たちがおカネで夢をあきらめなくていいよう、奨学金の制度などを手厚くした人が、あそこにね」
魔法使いは、さっきまでシンデレラが踊っていたお城を指差した。
息を吞むシンデレラ。「方針って、国の方針のこと…」。
「シンデレラ、あんたは、王子のプロポーズを断ったんだろう? あの王子はいつも国民のことを考えていて、決して悪い人ではないと思うけど、自分の人生を自分で決めるのが、あんたの生き方だからね。それも仕方がないさ」
すると、シンデレラはにっこりと笑ってこう答えた。
「ええ。私は自分の人生を自分で決めたい。だから、明日にでもこちらから連絡して、王子さまにこう言ってみるわ。『私の【一生涯のパートナー】になりませんか?」って」。
魔法使いは、驚いた表情のまま、ゆっくりと頷いた。めでたし、めでたし。
——なんと、登場する余地はないと思われた魔法使いや王子が重要人物になっていて、ワタクシは感動してしまいました。さすが第一生命さん、キャラにも生命を吹き込むのがうまいですな。
面白い金融の世界を一緒に学んでいきましょう。
好きな漫画は「ハーメルンのバイオリン弾き」、
好きなものは「ゲーム」、「ディズニー作品」です。