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心のしこりに
耳を澄ます

遺言書の内容を忠実に執行する役割を担う「遺言執行者」として、私は「あること」を強く心がけています。たとえどんなに複雑な相続案件でも・・・。

2006年入社 | みずほ信託銀行 本店営業部 
 | 高木 明日香Asuka Takagi

2通の遺言書

遺言書は玉手箱のようなもの。封を開けるまで何が書いてあるかわかりません。その内容は故人の思いであり、残された者たちの思いとは違います。両者のズレは、遺言書の内容を実行するための「遺言執行手続」においてもしばしば問題となります。
ある日のこと。私は2通の遺言書を前に頭を抱えていました。
1通目の遺言書は、あるご高齢のお客さまEさまによるもの。ご長女のFさまとその妹のGさまが相続人ですが、財産のほとんどをFさまに相続させるという内容でした。これだけでも姉妹の仲がギクシャクしそうだというのに、遺言執行手続を進める中、事態が急変したのです。なんとご長女のFさまが亡くなられてしまったのです。Fさまもまた遺言書を残していました。Fさまにはお子さまがいないため、その財産の全てをFさまのご主人であるHさまに相続させるという内容でした。つまり、妹のGさまにしてみれば、2通の遺言書をもとに順番に執行手続きを行うと、肉親であるEさまの財産のほとんどが血のつながらない義兄Hさまに相続されることになるのです。
「これはスムーズにいかないだろうな・・・」そんな不安を覚えました。
数日後、みずほ信託銀行の応接室にGさまとHさまが来店されました。Fさまの遺言書の内容をお二人で同時に確認するためです。
私がGさまとHさまのお顔を拝見したのはこのときが初めてでした。応接室内にいるのは、二人のご相続人と私、そして上司の四人だけ。私は簡単な挨拶と説明を終えると、遺言書を手に取り、その内容を声に出して読み始めました。
淡々と感情を押し殺して読み進めながらも、二人の相続人の表情を追っていた私は、この遺言執行手続が「難しい案件」になることを確信しました。
遺言書の財産分与に関する部分を読み上げた瞬間、Gさまが大きく眉をひそめたからです。

中立の立場として忠実に執行する

その後、GさまとHさまからは、今後の進め方に対するアドバイスや質問への回答を求められることもありました。私は聞かれた質問に対して丁寧に説明をしますが、どちらかに肩入れするようなことは絶対にできません。
私はいつもそう強い覚悟をもって応じていました。「遺言執行者」としての私の役割は、あくまでも遺言書の内容をそのまま忠実に執行すること。どこまでも中立の立場を貫かなくてはならないのです。相続人同士が納得しないからといって、例えば、遺言書の内容とは異なる遺産分割をお勧めすることは許されません。
例えば、「遺留分」に関する質問を受けることもありました。「遺留分」とは、一定の相続人のために民法で最低限保証された相続財産の一定割合のことで、遺留分を侵害された相続人がその侵害分を取り戻す権利を「遺留分減殺請求権」といいます。仰々しい名称ですから初めて耳にしたら不安になるのも当然です。
GさまとHさまの溝は深まる一方。私にできるのは二人の話を聞くことだけです。ただ、だからといって、もどかしい思いをしていたかといえば、それは違います。
話を聞くことこそ私の強みだからです。

見えてきた本当の気持ち

「一人ひとりのお客さまとじっくり向き合いたい」
私が信託で働くことを選んだのはそんな理由からです。大学時代は、サークル内の人間関係や恋愛、進路について、友人から相談をもちかけられることも多くありました。そんなとき、具体的なアドバイスができなくても、じっくり耳を傾けるだけで、相手は感謝してくれました。話を聞いてあげることが救いにつながる。私はそう信じているのです。GさまとHさまからのどんなご相談に対しても、全てを受け入れて耳を傾ける覚悟でした。
3カ月ほどが過ぎた、ある日のことです。遺言書の執行を強く反対していたGさまの態度に変化が見られました。これまでは金銭的なことしか話さなかったのに、この頃からFさまとの思い出を語り始めたのです。
その思い出を伺う中で、「Gさまが反対する理由はお金の問題ではない」ふとそう感じました。もっと感情的な問題に根ざしているような気がしたのです。Gさまは堰を切ったように沢山のお話をしてくださり、私もだんだんとGさまのお気持ちが分かってきました。
Gさまは、Fさまの遺言書に血のつながった自分の名前がなかったことに大きなショックを受けたのではないだろうか。しかし、Fさまの遺言に対しては兄弟姉妹として遺留分がなくどうすることもできない。それでEさまの遺言に対して遺留分減殺請求することも考えたのではないか。
お言葉から察するに、Fさまに対する愛情が裏返しになって心にしこりが生まれてしまっているようなのです。こんなときはどうすればいいか・・・。
とにかくGさまの心のしこりをほぐすように努めました。
相続はとてもデリケートな問題です。世間体の悪さから親友はおろか、誰にも相談できないという人が多いのです。だからこそ、誰か一人でも心を打ち明ける相手がいるだけで、ずいぶん楽になるはずなのです。
その誰かに私はなりたい—。
その後も、Gさまとの会話に耳を傾けつづけました。Gさまも、思いの丈をストレートに話しているうちに、Fさまに対するお気持ちを整理できたのでしょう。次第に遺言執行手続きに前向きになってくれたのです。

遺言執行業務は奥が深い

それからは万事がスムーズに進みはじめました。2通の遺言書の内容は何も変わっていません。変わったのはそれを受け止める二人の相続人の心だけです。すべての手続きが終了した後、「ようやく終わりましたね」「お疲れさまでした」と言葉をかけあうお二人は笑顔を取り戻していました。
後日、Gさまに手続き完了のご報告をしたところ、「本当にありがとう。高木さんがいなかったらまだ解決していなかったはずよ」と思いがけないお言葉をいただきました。Gさまのお気持ちや立場を理解しようと努力してきたことが報われた気がして胸が熱くなりました。
Hさまからも「担当が高木さんだったこと、今ではとっても運がよかったと思っています。・・・言葉では言い尽くせませんが、ありがとう」というお言葉をいただきました。その言葉を聞いて自然と涙がこぼれました。そして、同じく遺言執行業務にたずさわる上司・先輩をはじめ仲間たちもみんな自分のことのように喜んでくれました。
相手の言葉にじっくり耳を傾ける。ただ、それだけで人の心をほぐし、問題解決に導く。学生時代から変わらずにつづけてきたことが、今、お客さまのために役立っていることに改めて気が付き、遺言執行業務は本当に奥が深いと感じています。
また、この業務には多くの仲間が携わっています。仕事のことも、プライベートのことも、いつだってお互いの悩みを相談しあっています。辛いことも、嬉しいことも、共感しあえる仲間たちに私は支えられているのです。
そういえば、それも学生時代から変わっていないのかもしれません。

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